第34話(大魔法使いと言われる所以)

ーー俺は瀬名レイ。今日は朝から熊とバトって大変だった。昼飯は食堂から保健室まで運んでもらった。勿論、クララの分も。運んでくれたのは女郎蜘蛛の一年生らしい。その子らと下手に親しくするとマキに睨まれる。クララにも。保健室にはマキが常駐している。ここの主か!? てか、保健室の先生っていないのかな?


やる事がない。大隈に情報を渡したけど、上手くやってくれるのだろうか。少し心配だ。軍隊を動かしてくれるなら多少は戦力になるはず。魔法使い相手に火器が効くといいけど。クララはまた椅子に座りながら眠ってる。ロングスリーパーなのかな。クララは最初、マキにビビってた。食堂の林南おばっ、お姉さんに会わせたら気絶するかな。面白そうだけど、まあ止めておこう。


俺は放課後になるまで、ちゃんと言い付けを守って保健室のベッドで過ごした。イケメンが崩れたら大変だ。カーテンが開いて、マキが入ってきた。


「瀬名、もう帰っていいよ。メフィストも」

「ああ」

「サッカー部の部室の横で西園寺が待ってる。早く行ってあげて」

「分かった。帰るぞ、クララ」

「はぁ~あ、よく寝たのじゃ」


クララは体をぐぅーっと伸びをする。


「瀬名、分かってるな?」


これはおそらく、マキが異世界のプリンセスだという事を口外するなって念を押したのだろう。ハビィには教えるつもりだけど。回復はしてくれたが、敵か味方か分からない女だぜ。


「あいよ」

「念のために2、3日はケンカしちゃダメだからね」

「イケメンが崩れたら大変だ」

「ギャグのセンスあるよ」

「褒め言葉として受け取っとく」


俺はクララの手を引き、保健室を後にしてサッカー部の部室に行く。黒塗りのセダンが停まっていた。もう直ったのかな。人を跳ねてボコボコになってたけど。十日ほどで板金修理って出来るもんなんだ。俺達がセダンに近付いて行くと、エンジンがかかった。西園寺が運転席で待機してくれていたか。


「行きと帰りで車が違うのじゃな」

「そうらしい」

「学生にしては潤沢な資金力じゃ。レイ達はただ者ではない」

「これが横浜陰茎学園ゴールド・メンバーズだよ」

「はよ、乗ろ」

「ああ」


俺とクララがセダンに乗り込むと、西園寺が運転席に居た。


「今日は大変でしたね~」

「熊二匹くらい俺の敵ではない」


かなり大ピンチだったけど。


「いや~、キャプテン・ジャパン強すぎます~。あ、そうそう、鈴木さんから伝言を預かってます~」

「何?」

「一人犠牲者が出たから葬儀に出席してくれ、とのことです」

「俺がもっと早く行ってれば」


犠牲者が出たのはまずかったな。冥福を祈るしかない。


「キャプテン・ジャパンのせいじゃありませんよ~。捕虜が逃げたのが全ての始まりです~」


西園寺に捕虜は死んだ、と言っても信じてくれないだろうな。


俺とクララはシートベルトをして、セダンは横須賀に向かって走り出した。


数分でセダンが停まった。横須賀に着いてない。まだ横浜市内だ。


「どうしたの?」

「いや~、まずいな~」

「故障した?」

「前を見てください」


学ランを着た男子生徒が十数人居た。単車に跨がって。族止めってやつか。


「なんだ、あいつら」

「血便馬鹿山(ちべんばかやま)学園の連中です。横浜陰茎学園とは敵対関係にある麻薬漬け組織です」

「明らかにこっちを見てるな」

「キャプテン・ジャパンも顔が売れてきたから、狙ってきたと思われます。闘うなら加勢しますよ」


クララが小声で何かゴニョゴニョ言ってる。だが今はそれどころじゃない。


「運転係に怪我をさせる訳にはいかない。あいつら金属バットを装備してる。俺一人でっ……」

「レイ、マキ様に言われた事を忘れたか? 2、3日は闘うなと。我に考えがある」

「何をするつもり?」

「まあ、ビリビリがよかろう」

「ビリビリ?」

「死にはしないから安心せい」


血便馬鹿山学園の連中が単車を降りて、こっちに向かって来た。すると、クララが両腕を突き出した瞬間に、ズドーン! バリバリバリ! 激しい閃光が辺りを包む。血便馬鹿山学園の連中が雷に打たれた。全員がぶっ倒れ、単車が全て燃えてる。これが、大魔法使いクララ・メフィストの遠距離魔法か…………? 恐ろしい。


「運転係殿、今のうちに車を出すのじゃ」

「はい!」


西園寺はセダンを発進させた。俺とクララはひそひそ話をする。クララは嫌な予感を察知してウィスパーボイスで魔法を詠唱していたらしい。クララは俺と同じで光属性と闇属性を持ってるから、魔法の種類は選び放題らしい。西園寺に魔法の存在がバレちまったかな?


「天気が良いのに落雷とは。上空で晴天乱気流でも起きたんてすかね~。彼女さんはそれを予見して」

「いやはや運の悪い連中じゃのう」


この状況で西園寺に魔法がバレてない。西園寺って鈍感なのかな。クララのしらを切る演技もなかなか。流石、憑依型女優だぜ。


俺達を乗せたセダンがいつもの交差点に停まった。


「いつもありがとね、西園寺」

「労いの言葉、いたみいります~。先代とはえらい違いです~」

「先代? 去年のキャプテン・ジャパンか。礼も言わなかったの?」

「横柄でちょっと素行が悪かったです~」

「そうなんだ。西園寺って意外と苦労してるんだな」

「運転する分には苦ではないですが、粗暴なのはちょっと嫌ですね~」

「じゃあ、また明日ね」

「キャプテン・ジャパン、明日は土曜日で学園は休みです~。お出かけとあらば駆け付けます~」

「いやいい。確り休むよ」

「では月曜日に」


俺とクララはセダンを降りて、自宅マンションに帰った。

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