第17話(ラスボス的存在)

ーー次の朝。俺(レイ)は横浜陰茎学園に登校する。初日からやらかしちまった。誰かに学園の詳細を聞かないとな、右も左も分からない。多分、同級生はダメだ。ゴールド・メンバーズとケンカして周りは引いてるだろう。


パッパッ! 車のクラクションが聞こえた。あの車は昨日のセダン!? 迎えに来たのか。ここは昨日、セダンから降りた交差点だ。運転席のウインドウが開く。


「おはようございます、キャプテン・ジャパン。後ろへどうぞ乗ってください」


昨日の運転係だ。やっぱり迎えに来てくれたか。せっかくだし、世話になるかな。俺は、黒塗りのセダンの後部座席に乗り込む。


「おはよ」

「出しますよ~」

「おおぅ」


俺はちゃんとシートベルトをする。運転係ってだけあって見た目は不良っぽくない。車が走り出した。


「4月はまだ寒いですね~」

「車の中は暖かいね」

「シートヒーターが標準装備されてますから~」

「そうなんだ。君、名前は?」

「西園寺(さいおんじ)っていいます~」

「ザ・お金持ちみたいな名前だね」

「親は複数の会社を経営してますから~」

「そのまんまか」

「よく言われます~。昨日は半日意識不明だったようで。学園に着いたら僕が校内を案内致します~」

「そりゃ助かる」

「学園に着くまで、ゴールド・メンバーズについて補足の説明をさせてもらいます~」

「頼む」

「まず、僕の所属ですが、第2勢力の雑用係です。キャプテン・ジャパンをメーンに車で送り届けるのが僕の仕事になります~」

「この車、車検受けてるよね?」

「昨年度、購入されたばかりの新車ですから、あと2年半は車検に出さなくてもいいんです~。慣らし運転もちゃんとやったんで故障の心配はありません~」

「良かった」


無免許以外は法を守ってるんだ。意外と確りしてる。待てよ?


「飲酒運転はしてないよね?」


昨日、サッカー部の部室で酒を飲んでる奴が数人居た。


「キャプテン・ジャパン…………。冗談は顔だけにしてください! 飲酒運転するヤンキーは平成までですよ!」

「す、すまん」


すごい剣幕で怒られてしまった。西園寺には西園寺なりの流儀があるのだろう。俺がキャプテン・ジャパンだとはいえ、ちゃんと怒る人は信頼できる。


「気を取り直して。天草さんは、あるチームを潰そうとしていたのですが、そのチームは大麻の密売をしてるそうなんです。天草さんは今や意識不明。詳細が分からないままです」

「天草はそのチームにやられた?」

「警察は単独事故で処理してます。東京の宗教団体が運営する学園をメーンに構成されてるらしいです。それ以外は分からずです」

「東京犠牲者学園?」

「そんな進学校でまさか。いや、先入観はよくないですね。勉強のしすぎでストレス溜まってクスリに手を出すと。確かに東京犠牲者学園は宗教団体の資本が入ってると噂がありますね」


俺、何で東京犠牲者学園って言ったんだろ? まあ、俺は感性で生きてるからな。気にしないでおこう。


「クスリに手を出さないのがゴールド・メンバーズ鉄の掟だからって、何で天草はそのチームを潰そうとしてたの?」

「ゴールド・メンバーズは代々、クスリを使うチームを潰すのが、警察からの免罪符になってます。そのお陰で我々のある程度の犯罪違反は目を瞑ってもらってます。まあ、秘密裏ですけどね」

「それで無免許運転してるのか」


何でもありの横浜陰茎学園といえど、一応ルールはあるのね。


「東京犠牲者学園が怪しいのなら、遊撃隊に調査してもらいますか?」

「遊撃隊って第3勢力の? いきなりカチコミかよ」

「いえ、第3勢力は諜報活動も担ってますから。キャプテン・ジャパンの命令とあらば、我々はいつでも動きますよ」


ゴールド・メンバーズの統制は執れてるのね。面倒事は嫌だが、キャプテン・ジャパンを引き継いじまったしな。やるだけやるか。腑に落ちないのは、マキも鈴木も詳しく教えてくれなかった。俺は二人に上手く絆されちまったかな? まあいいや。


「頼りになる」

「鈴木さんには僕から話しときますから。おっと、そろそろ学園に着きますよ~」


俺を乗せたセダンが校門から校庭に入り、サッカー部の部室の横に停まった。ここが定位置のようだ。昨日あった単車とかはなかった。まだ朝早いからな。


俺は、西園寺に連れられて校舎に入る。早くから玄関が開いていた。校門が開いてるくらいだからな、別におかしくはなかった。西園寺は俺に色々説明しながら案内してくれる、ありがたい。すると食堂の前に着いた。


「いいですか、キャプテン・ジャパン」

「何?」

「食堂のおばちゃんに失礼のないように。それと、おばちゃんって呼んではダメです。食堂のお姉さんと呼んでください」

「お、おう」


なんだ? 西園寺の奴。なんか緊張してるように見えた。キャプテン・ジャパンの俺には全く緊張してないのに。俺と西園寺は食堂に入る。カランカランと食器同士が当たってる音が聞こえる。仕込みをやってるのか。西園寺が厨房の方へ行った。


「おはようございます、食堂のお姉さん」

「あら、西園寺君じゃないの。おはよ。こんな朝早くからどうしたの?」

「新キャプテン・ジャパンをお連れしました」


西園寺は、俺を食堂のおばっ……お姉さんに会わせたいのかな? 厨房から40代半ばの女性が出てきた。この人が食堂のお姉さん?


「あんたが、一年生で新たなキャプテン・ジャパンになった男かい。名前は?」

「瀬名レイだけど」

「私は、林南。初代女郎蜘蛛のアタマをやってた。今はただの食堂のお姉さんだけどね」


林南って。マキと血縁者かな? 普通に考えれば親だよな。ネームプレートを見れば、漢字は簡単だが珍しい読み方の名字だ。野暮な詮索はやめとこう。っていうか、レディースのアタマだったのね。怒らせたら怖いってパターンだな。ギリお姉さん? 本音を言えばおばちゃんだけど。それにしてもこの人、凄いオーラだ。マキを超える。流石、元アタマ。触らぬ神に祟りなし。それにしても学園内の情報が伝わるの早いな。食堂のお姉さんもキャプテン・ジャパンが決まったの知ってたみたいだし。昨日の事だぞ。


「頑張ってね、キャプテン・ジャパンとして」

「うん、任せてくれ」

「じゃ、私、仕込みがあるから。昼になったらまた来てね」

「うん」

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