第20話(組対五課と天草)

ーー俺の名前は、大隅(おおくま)。二代目のキャプテン・ジャパンだ。金子先輩が作った土台を引き継いで、金子先輩に憧れて俺も警察官になった。警視庁組織犯罪対策五課。通称、組対五課に所属している。組織的な薬物犯罪等を扱う部署だ。


俺の携帯電話に現役の横浜陰茎学園の生徒、ゴールド・メンバーズ第3勢力リーダーの飛平からタレコミがあった。東京犠牲者学園は薬物まみれだと。証拠音声映像を携帯電話に送られてきた。こりゃデカイ獲物だ。まさか東京随一の進学校で薬物が蔓延してるとはな。現役のキャプテン・ジャパンは良い勘してる。確か瀬名レイといったか。将来は、飛平と鈴木をまとめて警察組織に勧誘したいくらいだ。俺に決定権はないから、人事部に手を回しとくか。おっと、後で謝礼を払わないとな。飛平は特に。興信所に持ってかれたら警察組織にとって損害だ。それほど俺は飛平を買っている。


その日に裁判所から、東京犠牲者学園の強制捜索令状が下りた。こりゃマスコミが大々的に報じるぞ~。お茶の間にセンセーショナルな事件情報を届けるのが、ニュースの醍醐味だからな。俺達、組対五課が麻取りより先にホシを光らせる事が出来るのは横浜陰茎学園のお陰だ。ありがとう皆。今年のボーナスは期待出来そうだぜ。


東京犠牲者学園は、全一教会という規模のデカイ宗教団体が運営してる。バックにヤクザが着いてるより厄介だ。こりゃ荒れるぞ~。


令状は下りてるのに誰一人、動こうとしない。おかしい。まごまごしてたら麻取りにホシを横取りされてしまう。俺は、課長のデスクに行く。


「課長! 何やってるんですか。早くしないと」

「悪いねえ、せっかく大隅君が取ってきた案件なのに」

「どういう意味ですか!? 早く動きましょうよ!」

「捜索令状は取り下げられた。我々は動けない」

「何!? 証拠があるんですよ? 決定的な」

「君も大人なら分かるだろう? 手を出してはいけない相手という訳だ」

「そんな…………」


全一教会ってそんなにヤバい連中なのか。悔しい。俺に力があれば。横浜陰茎学園の現役に申し訳ない。すまん。俺は天を仰いだ。




ーーピッ…………ピッ…………ピッ…………ピーーー。


ここはどこだ。俺、確かバイクに乗ってて。ここは病院か? 体に着いてたチューブみたいな物を無意識に剥がしてた。


「天草さん! 天草さん! 聞こえますか?」

「看護婦? 俺はいったい…………」


ナースが二人。騒がしいな。ここは病院かやっぱり。一人のナースが携帯電話を手に取る。二人共、涙ぐんでるような? 結構迷惑かけたか。


「先生! 患者番号32番の天草さんが意識を取り戻しました! 奇跡です。…………はい…………はい。すぐにご家族の方をお呼びします」


俺に親はいない。父親も母親も借金を残して蒸発した。年の離れた姉が一人だけ。それが俺の家族。唯一の肉親。銀座のキャバクラで働いてる。


すぐに担当であろう、おじいちゃん医師が俺の診察をする。起き上がれないから横になったままだ。


「脚に違和感はないかね?」

「痛い」

「よく聞いてくれ。大事故でな、君の左足なんだが…………」

「覚悟は出来てる。切断か?」

「いや、大腿骨にヒビが入っただけだ。あとは頭を強く打ったようだが、ヘルメットしててよかったね。ノーヘルだったら今頃あの世だよ」

「俺、真面目なんで」

「どう見てもヤンキーだがな、ハッハッハ。冗談を言える元気があれば数日で退院だろう。但し半年以上は松葉づえ生活を送らにゃならん」

「マジかよ、戦力外通告かよ」


夕暮れの、兵どもが、あの世行き。天草、心の川柳。おじいちゃん医師の診察が終わり暇だ。寝よう。


俺は気が付くと目が覚めた。眠ってたか。俺の回復の連絡が姉に行き、そこからマキにも知らされたのだろう、目の前にマキが居る。あと鈴木と知らない金髪の男。鈴木は涙ぐんでる。マキは相変わらず冷静でいる。いや、冷静を装ってるのか。


「天草!」


マキが抱き付いてきた。やはり、冷静を装ってただけか。このツンデレが~。


「痛い痛い」

「あ、ごめん」

「左足の大腿骨にヒビが入ってるみたいだから気を付けて」

「うん」

「俺は戦力外通告だ。半年は松葉づえみたい」


俺は3ヶ月も意識不明だったみたいだ。鈴木の奴、またでかくなったな。1、2センチメートルの話だが、このまま成長してくと2メートル超えも夢じゃない。そして、知らない金髪の男、何者だ?


「天草、紹介しよう、新キャプテン・ジャパンの瀬名レイだ」

「そうか、留学生?」

「違う。俺は日本人だよ」

「コイツは一年生ながら、第1勢力50人を一人でのして、バリカンものして、俺にも勝った怪物だ。俺とマキの推薦でキャプテン・ジャパンを継いでもらった。だが、天草の復活となれば」

「鈴木とマキと俺の三人で話し合った結果、俺はいつでもキャプテン・ジャパンの役を下りてもいい」

「ダメだ。さっきも言った通り、半年は松葉づえでその後はリハビリも待っている。今の俺がキャプテン・ジャパンをやる事は出来ない」

「天草…………」

「ちょっとマキと鈴木は席を外してくれ。新キャプテン・ジャパンとサシで話したい」

「分かった」


マキも鈴木もおとなしく病室を出てくれた。さて、何から話すか。


「瀬名君だったね? 君は金子さんの事をどこまで教えられた?」

「ゴールド・メンバーズの創設者で、今は警察官ってくらい。それがどうしたの?」


結構生意気な感じといい、やはり。


「俺は一度、金子さんに会った事がある。ダブるんだよ。金子さんは白人の血が入ったハーフだ。瀬名君もだよな?」

「ああ。俺の父親がドイツ系アメリカ人だよ。でもまさか金子って人もハーフとは知らなかった」

「金子さんも君と同じで、年上に最初からタメ口で喋ってたらしい」

「良い事?」

「う~ん、メリットとデメリットがあるけど。それは自分が一番分かってるだろ?」

「まあなんとなく」

「ふむ。金子さんは当時、最強のヤンキーだったが、一人だけどうしても勝てない相手がいた」

「誰? ってか、もう中年だよね」

「横須賀の米兵で、〝ジョージ・セナ〟という男だと聞いている」

「金子にしたら汚点だな」

「君だけに言う。金子さんは公安警察の対外諜報員なんだ。この事は皆には内緒で頼む」

「なぜ俺に、そんなトップシークレットを教える?」

「瀬名君、いや、キャプテン・ジャパン。君は金子さんの再来かもしれない」

「伝説の不良の再来か、光栄に思うよ」

「君、ジョージ・セナの子供じゃないよな?」

「ま、まさか~、アハハ」


怪しいリアクションだ。年齢的にもあり得る。やっぱり親子だな?

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