第31話(異世界のプリンセス)
俺はクララの助言で知らないふり作戦で行く事にした。俺はクララを連れて作戦室に入ると、ガヤガヤ煩い。鈴木をはじめ第1勢力のメンバーが居て、人だかりになっている。女郎蜘蛛のアタマのマキも居た。すると、クララが僅かだが震えてるように見えた。緊張してるのか? それとも昨日の事を思い出したとか。俺は敢えて声は掛けなかった。その代わりピッタリと肩を寄せる。やはりクララの手が震えている。
「……レイ」
クララらしくない、か細い声だ。ひそひそ声じゃない。俺は小声でクララと話す。
「どうしたの?」
「あの女…………」
クララが指を指した先にはマキが居る。作戦室の入り口から離れた位置だ。
「マキがどうした? 知り合いか?」
俺と出会う前にカツアゲでもされたかな?
「あの女はヒュムじゃ。しかも王族の中でも上の者。おそらくプリンセス」
「何!?」
ザッ。皆がこっちを見る。思わず大声が出てしまった。マキと初めて会った時に感じた凄いオーラの要因はそれか。クララが命の危機もないのに震えるくらいだ。マキは敵か味方か。
鈴木が壇上に上がった。
「キャプテン・ジャパン。捕虜の脱獄について何か分かった事はあるか? 現場を見に行ったんだろ」
「死んだのかもな」
「そんなアホな。すでに、第2勢力に入った一年坊に学園近辺を捜索してもらっている」
「そうか」
俺はキャプテン・ジャパンに就任したが、薄々気付いてた。実質的統率者は鈴木だ。まあ、俺はお飾りでもいいんだけど。まだ決まってない人選も鈴木に任せよう。
それにしてもマキはこの状況を理解してるのかな? クララが言うには、異世界から来たプリンセスらしいけど。マキもクララがヒュムだって気付いてるかもしれない。マキは無表情で感情がさっぱり分からん。すると、マキと目が合う。チラチラ見てたのがバレたか。マキは俺に向かって中指を立てた。これがプリンセスのする事か~? だが、その行為にどこか安心した自分がいた。
鈴木の指令で動いてた同学年の奴らが校庭で何か叫んでる。メンバーの一人が窓を開けた。
「熊ですーー! 校庭に熊が現れましたーー!」
横浜にも熊って居るんだ。ただ事じゃないよな。全一教会絡みか? いや違うだろう。違法に飼ってたのが逃げ出して、校庭を自由に走り回ってるんだろう。被害が出る前に俺達で倒してやるぜ。
「クララはここで待ってろ」
「しかし。相手は猛獣じゃぞ」
「石破天驚流をフルに使う。安心しろ」
「むぅ。我の魔法をおおっぴらに使う訳にもいかんしな」
「鈴木! 第1勢力の皆! 熊を取っ捕まえるぞ! 俺に着いて来い!」
「「「嘘だろ!?」」」
「へ?」
「キャプテン・ジャパン、本気か?」
「鈴木! 何を言ってる!? 被害が出る前に何とかしないと!」
「気持ちは分かるが、ハンターと警察に任せるんだ」
「ったく。俺一人で十分だ!」
俺はクララを置いて、作戦室を飛び出た。
「待て、キャプテン・ジャパン! 早まるな! いくらお前でも!」
鈴木が何か言ってたけど、俺は行く。横浜陰茎学園の近くには小学校や保育園もある。警察なんて待ってられない。小熊でも危険だ。捕虜の捜索に出てた奴の焦り具合からして、成獣だ。
俺は階段を飛び降りて踊り場に着地する。それを繰り返して三階から一階まで来た。ン? デジャブ…………この光景を俺は中学生の時にやってる。しかし、その時は何を追っていたか思い出せない。ズキッ。頭いてえ。今はそれどころじゃない! 熊を倒さなければ!
昇降口まで来ると、第2勢力のメンバーが数人居た。怪我人はいないようだ。
「キャプテン・ジャパン、逃げてください。昇降口を閉めます」
「俺達だけ助かってそれでいいのか? 近くには住宅街や保育園もあるんだぞ?」
「でもあんなデカいの丸腰の人間では無理です」
「逃げ遅れはいないだろうな?」
「はい、全員回収しました」
「俺が外に出たら昇降口を閉めろ」
「正気ですか!?」
「熊と闘うのはこれが初めてではない。俺は弱点を知っている。安心しろ」
「そうなのでありますか」
勿論、嘘だ。最近、石破天驚流を使うまでもない雑魚ばかり相手にしてたから猛獣でもないと満足出来ない。石破天驚流はマーシャルアーツの基本中の基本だ。俺は頭のネジが2、300本飛んでるのかもな。アドレナリンがドバドバ出るぜ。
俺が昇降口から校庭に出ようとした時、熊が見えた。一匹か。それにしてもデカいな。月の輪熊を想像してたけど、ありゃグリズリーだ。身長は3メートル程か。もっとアドレナリンがドバドバ出やがるぜ。
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