第32話(対決グリズリー)

俺はグリズリーと対峙する。逃げ遅れはいないと言ってたけど、一人血まみれになっている男子生徒が。すでに事切れてる。喉を噛まれたか。こりゃ荒くれ者のゴールド・メンバーズの一軍でも臆するのも無理はない。俺も無傷では済まないかもしれない。しかし!


「かかってこいよ、雑魚熊!」

「ガーーー!!」


グリズリーが俺に向かって突進してくる。俺が止めなきゃ誰が止める! 一撃で仕留めてやる。石破天驚流奥義、遊斬(ゆうざん)!


「アイム・ナンバーワン!」

「ガーーー!!」


ザン! ドカン! 刺し違えた。俺はグリズリーの爪で眼球をやられた。俺が使える唯一の魔法は相手を0.5秒硬直出来るらしいが、熊には通用しなかった。ハビィには効いたのに。ちょっと考えが甘かったな。ドサッ。俺は、グリズリーの心臓に目掛けて10割の力で正拳突きを食らわせて拳が胴体を貫通した。


目が見えねえ。両目が抉れた。こりゃやベーな。背後に気配…………もう一匹いたか。


「キャプテン・ジャパン! 後ろです!」


昇降口の方から声がした。気付いてるよ。目が見えないなら、石破天驚流亜型奥義、暗闇殺法を使うか。視覚以外の感覚を研ぎ澄まして。


「ガーーー!!」


熊は、時速45.72キロメートル。四足で向かって突進してくる。身長2.75メートル。体重850キログラム。距離8.13メートル。さっきのグリズリーより小さいな。


「ガーーー!!」


ゴキッ! ドサッ。俺は飛び越してグリズリーの背後を取り、一瞬にして熊落としで首の骨をへし折った。他に熊の気配はない。


「皆! 熊を全部倒した! もう安心だぞ!」


「「「わー!」」」


校舎の方から歓声が聞こえる。熊二匹殺っちまったから、ドン引きされてると思いきや。


ーー俺は横浜陰茎学園の保健室に同学年一人の補助を借りて連れていかれた。いくら設備が整ってるとはいえ、傷付いた眼球は治せないだろうな。白杖と盲導犬か。あ、ハビィに盲導猫をやってもらうか。


「レイ!」

「その声はクララか?」

「お前、眼が…………」

「流石にグリズリー二匹はヤバかった」

「無茶をしおって。我の遠距離魔法ならこんな事には…………」


シャッ。病室のカーテンが開く音だ。誰か来た。足音からして女だな。


「瀬名、まさかお前が大魔法使いメフィストを連れてるとは」

「その声はマキか」

「詮索はしない。普通の医療では無理だが、私には回復魔法が使える。眼を治してあげるわ」

「そんな事が出来るのか。流石、異世界のプリンセス」

「お前も私の事を詮索するな。それが回復魔法を使う条件よ」

「分かった」

「よろしい」


ホワッと目の周りが温かくなった。心地好い。これが回復魔法か。クララは使えないのかな。ーーそれにしても長い。ロールプレイングゲームみたいに唱えてすぐ回復という訳にはいかないか。


「どれくらい掛かるの?」

「静かに。集中が途切れる」


徐々に傷が癒えていくのが分かる。凄いな。流石は異世界のプリンセスだぜ。


「これでよしと。瀬名、全回復したよ」


俺はゆっくりと目を開ける。クララとマキが立っていた。マキから手鏡とタオルを渡される。俺は手鏡で顔に傷がない事を確認しながら血を拭く。うんうん、イケメンだ。


「助かったよ、マキ。盲導犬生活を覚悟した。もう一人、熊に殺られた奴がいたと思うけど、ソイツも回復魔法で」

「死んでしまった者は生き返せない。私の力不足ね」

「そうか。クララは回復魔法を使えないの?」

「出来るならすでにやっておるのじゃ」

「つまり使えないと」

「うむ」

「瀬名、分かってると思うけど、私の素性を誰にも言うなよ?」

「ああ。魔法使える事も内緒にしとくよ。それにしても何でグリズリー二匹が現れたんだろ? 近くで飼育されてたのかな」

「おそらく召喚魔法じゃ」

「召喚魔法? ワープでもするのか?」

「その通りじゃ。時空間を繋ぎ、召喚する」

「またやられたら厄介だな。グリズリーを何匹も倒せんぞ」

「そこは少し安心していいぞ。召喚魔法は大量の魔力を消費してしまうのじゃ。全回復に数年というケースもあるのじゃ。それに、召喚魔法を使える者は数人程度しかいないはず。我でも使えん」

「そうなんだ」

「メフィストの言う通りだ。そう連発出来る魔法ではない。天性のセンスと死と隣り合わせの修行を数十年続けて、ようやく習得出来る。1万人の天才の中から1、2人出れば良い方だ」

「マキ、1つ聞かせてくれ」

「1つだけよ」

「なぜ、天草に回復魔法を使わなかった?」

「脳の回復は高度な技術が要る。私には無理だった」

「なら脚を治してやれば」

「1つと言ったでしょ。それも含めて詮索はしない事、命が惜しければね。今日は一日保健室で安静にする事、いいね?」

「了解」


マキはそう言い残すと、保健室から出ていった。


俺はベッドで横になり、ボーッとしていた。クララはベッドの脇にある椅子に座りながら居眠りをしている。朝早かったからな。俺も眠いが、アドレナリンがまだ出てる。身体は眠れと言ってるのに、脳は興奮状態だ。自律神経の乱れだ。クララはもうマキにビビってなかった。ヒュム同士、仲良くなったかな?


警察と猟友会のハンターが横浜陰茎学園に来て、熊の死体を持っていったそうだ。警察は俺に話を聴きたがったが、そこはゴールド・メンバーズ。マキと鈴木がガードしてくれたらしい。鈴木は俺に謝ってた。判断が甘かったと、加勢すべきだったと。俺は咎めなかった。あの状況なら一人の方がやり易かった。

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