第30話(捕虜の死)
次の日の朝。俺は目が覚めると、何か違和感。枕元に気配…………。ひいじいさんの幽霊か? あの世から来たのかな? ひいじいさんは世界大戦で零戦乗りだった。
「レイ!」
「は! その声はクララか」
枕元に居たのはクララだった。ひいじいさんが御迎えに来たのかと思ったじゃねえか、ビビらせやがって。
「おはよ」
「おはよう、朝早いね」
「早く学園に行ってみたいのじゃ。我は魔法学校しか通った事がないから、地球の学園というものに興味があるのじゃ」
ーー俺とクララは、西園寺が待ってる交差点まで歩いていく。俺はクララに目立つ行動は控えるよう言っておいた。昨日の下校と同じエルグランドが停まっていた。ファッ! ファッ! とクラクションが2回鳴った。西園寺が俺達に気付いたか。エルグランドの運転席のウインドウが下りる。やっぱり西園寺だ。
「お二人さん、寒いですから早く乗ってください」
俺はクララの手を引き、エルグランドの後部座席に乗り込む。
「おはよ」
「おはようございます、キャプテン・ジャパン。それと、その方が例の彼女ですね? 鈴木さんから聞いてます」
「我は大魔法使いクララ・メフィスト。善きに計らえ」
「憑依型女優ですか」
「そうなんだ、西園寺。役が抜けなくてさ」
「ファンタジー物ですかね?」
「まあそうだ。出してくれ」
「シートベルトはしましたか?」
「クララ、あれ?」
俺は車に乗り込んですぐにシートベルトをした。クララもちゃんとシートベルトをしていた。異世界人の割りに物分かり良いじゃん、大魔法使い様。ここでは話せないが、異世界にも自動車ってあるのかな?
俺達は横浜陰茎学園に着いた。さて、授業中にクララをどう護衛しようか。教室に机と椅子を用意してもらうかな。
俺とクララは、エルグランドを降りて教室へ行く。西園寺はエルグランドをサッカー部の部室の隣に停めた。今日、鈴木の送迎はなくバイクで来ていたらしい。
俺とクララが教室に入ると、バリカンが居た。二年生が一年生の教室に何の用だ?
「おい、瀬名。ちょっと来い」
「なんだよ」
「鈴木さんがお呼びだ。三年生の作戦室まで来い」
西園寺に案内してもらった使われてない教室か。おそらく鈴木が昨日、言っていた捕虜の扱いについて話すんだろう。仕方ない、行くか。それにしてもバリカンの奴、忠誠心ってものがないのか? 俺一応、キャプテン・ジャパンなんだけど。まあいっか。
俺はクララの手を引き、歩いて作戦室に向かう。クララは物珍しそうにキョロキョロと辺りを見渡してる。三階に上がると、一人の男子生徒が騒いでた。
「大変だー! 大変だー! 逃げられたー!」
コイツは第2勢力に所属してる奴だな? 西園寺がゾーンに入って東京犠牲者学園の連中をセダンで跳ねてた時に外で闘ってた奴だ。
「何か嫌な予感がするのじゃ」
「取り敢えず、話を聞いてみよう」
俺は騒いでる奴の肩を叩く。
「あ、キャプテン・ジャパン。おはようございます」
「何事だ?」
「地下室に監禁していた東京犠牲者学園の奴らが脱獄したんです!」
「鍵を中から開けたか。特設SNSでも監禁部屋をリアルタイムで見れたよな」
「すみません。奴ら監視カメラに気付いたのか、映像が映らなくなっていまして」
「つまり、いつ逃げ出したか分からないという訳か?」
「はい。監視の深夜組と交代した時には確かに居たんですが」
「現場を見よう。案内してくれ」
「かしこまりました!」
「行こう、クララ」
「うむ」
俺とクララは、男子生徒の案内で地下室に行く。東京犠牲者学園の連中を監禁していた部屋のドアが開いていた。ドアの鍵は壊された形跡がない。クララが俺の袖をチョンチョンと引っ張った。
「ヒュムの気配がするのじゃ」
「何? どこだ」
「部屋の中からじゃ」
俺はいつでも闘えるように警戒しながら部屋を覗く。しかし、誰も居なかった。それほど広くない部屋。隠れる場所もない。床にはスライムみたいな物が一面に撒かれていた。
「誰も居ないぞ」
「死んだのじゃ」
「どゆこと? 死体はないよ」
「ヒュムは死ぬとスライム状になるのじゃ」
「連中もヒュムだったのか」
「監禁していたのであろう?」
「ああ」
「状況から察するに自決じゃな」
「皆になんて説明する? 死んで溶けちまったなんて誰も信じないぞ」
「ヒュムの存在を知らん人間に何を言っても無駄じゃろう。上手く誤魔化せ。それかレイも知らんふりをするのじゃな」
「面倒な事になってきたぜ」
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