第29話(石破天驚流)

その日の夜。両親が帰宅して、俺はクララと両親を会わせた。両親は不思議そうな顔をしていた。何か釈然としない。弥生って子か。ズキッ! 頭いてえ。今はその子より、全一教会と異世界の王族を倒す事に集中しなくては。俺は両親にテキトーに説明して丸め込み、クララが一緒に暮らす永住権を獲得して一安心。これで一時的だがクララを護れる。両親には全一教会と異世界の事は伏せた。どうせ信じちゃもらえないだろう。クララはストーカーに狙われてると言っておいた。マンションの間取りが3LDKだからクララには物置にしている部屋を片付けてそこで寝てもらう事になった。


俺は寝る前に特設SNSで皆のやり取りを見ていた。なぜならゴールド・メンバーズの新年度体制が決まりきってないからだ。第1勢力の副リーダーとか。キャプテン・ジャパンである俺に裁量権がある。困った。人選なら鈴木か天草に決めてもらいたい。俺より皆の事を知ってるだろうし。あ、マキでもいいな。女郎蜘蛛のアタマはゴールド・メンバーズの相談役なんだし。ハビィが俺の膝の上にひょっと飛び乗った。


『にゃーん。難しい顔してるね』

「キャプテン・ジャパンは各役職の人選をしなくてはいけない。面倒くさい」

『頑張って。それよりいいの?』

「何が?」

『メフィストの事だよ。アイツ、やベーって』

「大丈夫さ」

『取り敢えず、レイの霊的能力の高さには気付いてないみたいだけど。かくし球にしといてよ』

「幽体離脱が何の役に立つ?」

『今は分からないけど、僕が思うにレイはとてもレアな存在なんだよ。いつか化学反応が起きそうな予感』

「期待せず待っておこう」


ガチャ。ドアの開く音だ。クララが俺の部屋に入ってきた。ノックという習慣は大魔法使い様にはないようだ。


「レ~イ。我はこの家が気に入ったぞ。ご飯は美味しい、お風呂の温度は丁度いいのじゃ」

「そりゃ良かった」


クララは、俺が中学生の時のジャージを着ていた。ブカブカだが、着替えで丁度いいのはこれくらいだったか。


「ママ殿が、我のアメニティグッズを用意してくれたのじゃ」

「何かリクエストした?」

「取り敢えず、歯ブラシはレイとお揃いにしたのじゃ」

「色違いだよな?」

「当然じゃ、紛らわしいであろう」

「だよな」

「レイ、真面目な話がある」

「何?」

「お主は王族と戦うのじゃな?」

「そのつもりだけど。クララはどうする? やられっぱなしは嫌だろ?」

「勿論じゃ。レイの格闘能力で我を守ってくれるのであれば、遠距離魔法を撃ち放題じゃ。良いコンビネーションだと思うぞ」

「確かにな。但し、核攻撃はなしね」

「分かっておる。本気を出すと地球くらいなら粉々になってしまうからのう」

「怖っ」

「うむうむ。ヤハウェの王族達は世界各地に散らばっている。だから根こそぎ倒すなら、賢人会議を狙うといい」

「賢人会議ってなんだ?」


クララが言うには、ヤハウェの王族は数年に一度、全一教会の総本部に集まり会議を行うそうだ。次に開かれるのは4年後みたいだ。俺が19歳になるまで待たなきゃいけない。決着が着くまで長いな。


「ヤハウェの王族って強いの?」

「頭脳に特化した者から戦闘に特化した者まで様々。レイが撃退してくれた暗殺者は王族の中でも下位の者じゃ。それにしても、よく死霊刀をへし折る事が出来たのう」

「あの仕込刀ってそんなにやベーの? 本気で蹴ってないけど」

「本気でないと!? あの剣は魔法で鍛えて悪霊を纏わせた妖刀じゃ。膝蹴りで簡単に折れるような代物ではないはず。お主は霊的能力も高いのかのう」

「さ、さあ」


俺はドキッとした。ハビィには黙ってるように言われた俺の霊的能力の高さ。クララにバレちゃうのもそう遠くない気がする。


「お主はどんな格闘技を習ったのじゃ?」

「マーシャルアーツだよ、武芸全般。他人にあまり教えてないけど、クララには言っておく。俺の母方のじいちゃんが石破天驚流(せきはてんきょうりゅう)という拳法の師範なんだ。俺は幼少期に石破天驚流の基礎を叩き込まれ、それがベースとなっている」

「だから強いのじゃな」

「石破天驚流は400年以上の歴史があるからね。戦国時代の合戦で、一撃必殺をよしとし刀を折られても肉弾戦で敵を倒す。つまり、死と隣り合わせの環境で研かれた格闘技を習得してるから俺は負けない。まあ、俺はじいちゃんに勝った事ないけどね」

「レイより強い者がおるのか。人間もやるのう」


俺はクララのボディーガードとなった。クララは吊り橋効果が抜け切ってないようだけど。その事を除けば地球でも普通に生活できそうだ。

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