第28話(クララ大地に立つ)
ーー俺は瀬名レイ。1日の授業が終わり横浜陰茎学園を下校した。西園寺が運転するエルグランドで送ってもらったが、流石高級車だ。シートはフカフカでストレスフリーな乗り心地のワンボックスカーだった。
東京犠牲者学園の連中がカチコミに来て、捕虜を数人取ったが、全一教会の連中は助けに来る気配が全くない。もう1週間も経ってる。全一教会の出方が全然分からない。捕虜がいる事は向こうも分かってるはず。見捨てられたかな?
俺は自宅マンションの近くまで来ると。
「キャー! 誰か助けて!」
女の叫び声だ。何事だ!? よく見ると、うちのマンションの玄関で中学生くらいの女の子が尻餅を突いていた。襲ってる奴は、木刀を持っている若い男。ヤバい、助けなきゃ!
ヒュン! 俺は一瞬で男との距離を詰めて、死角から。
「アイム・ナンバーワン!」
バキッ! ドサッ。俺は男に上段回し蹴りをこめかみに食らわした、5割の力で。気絶したか。木刀みたいなドーグを使って女の子を襲うとは。ストーカーか? 女の子は震えていて話せる状態にない。丈の短い浴衣風の服を着ているな。コスプレか? あ、分かった! この近くでファンタジー物のドラマか映画の撮影をしているとみた。そこに武装した自称ファンのストーカーに襲われた。まあ、俺の天才的頭脳から弾き出した推理によるとこんな感じか。
女の子が少し落ち着きを取り戻したみたいだ。目が合った。俺は女の子に近付く。
「怪我はない? 大丈夫?」
「後ろ!」
シャリン…………。この音、刀を抜く音か!? 俺は振り向くと上から白刃の斬擊が飛んできた。この男、ただのストーカーじゃない。仕込刀とはな。おそらく真剣だ。それに俺の蹴りをモロに食らって直ぐ立ち上がった、やるじゃん。だが。ペチッ!
「秘技、真剣白刃取り!」
「何!?」
俺は男の斬擊を両手の掌で受け止めた。ぐぐっ! 俺は刃を押し込んでも動かない。この男、剣道をやってるな? 握力がなかなかだ。だが。
「アイム・ナンバーワン!」
バキン! 俺は男の仕込刀の刃を膝蹴りでへし折った、8割の力で。
「我が剣、死霊刀(しれいとう)が!」
「まだやるか? ストーカー野郎」
「くっ! ここはひとまず退散する、覚えておけよ!」
ストーカーは走って逃げていった。女の子は大丈夫かな?
「大丈夫か?」
「我はクララ。助けてくれてありがとなのじゃ」
「お、おう」
変な言葉遣いだ。映画の役に入り込んでるのかな? 憑依型ってヤツか。
「お腹空いた」
「ケータリングは?」
「ケータ? 何の事じゃ?」
あれ? 撮影じゃないのか? それともケータリングも出ない新人エキストラかな? それにしては存在感のある衣装。やっぱコスプレかな。取り敢えず俺より年下で仕事してる。飯くらいなら俺んちで。
「冷凍食品で良ければ、うちで何か食ってくか?」
「助けてもらった上に食べ物も恵んでくれるのか。そなたは優しいのう」
「俺んちはこのマンションだから。俺は瀬名レイ。ほら」
俺は、クララと名乗った女の子に手を差し伸べる。そして手を取り合って、クララ大地に立つ。まだ震えている。そりゃストーカーに出くわしたら怖いわな。
俺はクララを連れて自宅マンションの部屋に帰って来た。俺は冷凍庫を漁る。クララはリビングの椅子にちょこんと座った。
「親は出掛けてて今いないけどさ。冷凍食品なら沢山あるから。焼きそばと餃子、どっちがいい?」
「好き」
「両方か。順番に温めるね。まずは焼きそばだな」
「違う。お主が好きになったのじゃ」
「それは吊り橋効果だよ」
「吊り橋?」
「危険を共にした人同士が恋に落ちやすいってヤツ。つまり、フィルターが掛かるって訳」
「そうなのか?」
「若い男女なんてそんなもんよ。まあ、高一の俺が言うのもなんだが」
「にゃーん」
ハビィが部屋から出てきた。寝ぼけ眼だ。寝る子は育つ。
「ただいま、ハビィ」
『こんにちは、レイ。その子は?』
「クララだ。ストーカーに襲われてたところを助けたんだ」
『シャー!』
ハビィの毛が逆立つ。何を威嚇して怒ってんだ? こんなに寝起きが悪かったっけ?
「三毛猫の魔獣か」
「クララ?」
『レイ! コイツはヒュムだよ! しかも凄い魔力を隠し持ってる!』
「何!?」
「バレてはしょうがないのじゃ。まさか入り込んだ先に魔獣がいるとはな。我は、大魔法使いクララ・メフィスト。レイのお嫁さんになる女じゃ」
「だから、吊り橋効果だって」
『レイ! 騙されちゃダメ! コイツは王族側の最終兵器だよ!』
「三毛猫の魔獣よ、そこまで知っておるのか。我はそれが嫌で逃げてきたのじゃ」
「おい。クララ、ハビィ、ちゃんと話し合おうか、飯でも食いながら」
俺はまず、ハビィから話を聞いた。ヤタガラスの魔獣とベストフレンドになり、色々情報を得たようだ。ハビィが言うには、クララは全一教会と手を組むヤハウェの王族が召喚した最終兵器だそうだ。そんな風には見えないけど。最終兵器ならもっとこうゴリマッチョのガチムチを予想するが。クララは全然強くない。大魔法使いって割には、刀一本の若い男1人に殺られそうだったし。俺はその一件をハビィに伝えた。ハビィは考えがまとまらないといった顔をしてる。
俺は次にクララから話を聞く。クララが言うには、全一教会の施設の数ヶ所に召喚魔方陣が張られてるそうだ。クララは騙されてヤハウェの環境破壊を手伝ってしまったようだ。そして、地球に召喚されても利用しようとするヤハウェの王族にウンザリして逃げ出したところを追いかけて来たあの仕込刀を持つ男に暗殺される寸前だったらしい。俺は計り知れないけど、クララは膨大な魔力を持ってるみたいだ。全開放すると核兵器に匹敵する魔法攻撃が使えるそうだ。近距離で使うとバリアが間に合わず自爆してしまうらしい。他の使える魔法も遠距離一択。十分な間合いがないと隙だらけみたいだ。だから、叫び声を挙げて助けを呼んだ。クララは近くに俺、光属性と闇属性を持つ人間が居た事を察知出来たそうだ。それもダメ元で助けを求めた。
まあ、話をまとめると…………まとめると…………? 俺はどうしたらいいんだ!? 横須賀で、ってか地球で核攻撃は使わせたくない。しかし、クララを見捨てる訳にも行かず。ひとまず、このマンションの部屋で暮らしてもらって。て? 両親になんて説明すりゃいいんだ!? 生き別れた妹と再会説は通用しないだろうな。仕方ない、彼女仮で押し通すか。問題は学園だ。俺が登校してる間にまた暗殺者が来ても困るしな。一応、俺はキャプテン・ジャパンだし、多少のワガママは通るだろう。クララを学園に連れてくか。
俺はゴールド・メンバーズの特設SNSで鈴木にメッセージを送る。
【横浜陰茎学園に他校の彼女を連れて行きたい。しばらく続くと思うけどいいかな?】
すぐに返信が来た。
【女の一人や二人、別に問題ない。横浜陰茎学園では珍しい事ではない。なんだかんだ隅に置けん奴だな、キャプテン・ジャパン】
【こら、からかうな!】
【すまんすまん。明日もう一度、ゴールド・メンバーズの三年生を中心に集めて捕虜の扱いについて話し合おう】
【分かった】
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