第10話(一件落着)

ーー勅使河原は気絶したまま警察に連行された。警察が動物病院の防犯カメラ映像を確認して、勅使河原は強要罪と建造物侵入罪の被疑者となった。おばちゃん獣医師の証言で、俺は正当防衛になると警察官が言っていた。全一教会の悪事を警察に明るみにしてほしいけど、弥生が言うには、警察内部にも全一教会の信者がいるから揉み消される可能性があるらしい。


俺はハビィを抱いて、弥生と一緒に帰路に着く。俺は弥生を家の前までキッチリ送り届けて、自宅マンションに帰った。その間、会話は少なかった。弥生には葛藤があるだろう。ハビィは気を利かせたのか、弥生を送り届けるまで喋らなかった。


俺は自分の部屋で、今日に起きた事を総括する。


『バーベルはお飾りじゃないようだね』

「どゆ意味?」

『レイ、メチャクチャ強いじゃん』

「子供の頃からマーシャルアーツをやってるからな」

『格闘技?』

「マーシャルアーツは武芸全般の事だよ。忍術にも精通してる」

『手裏剣を投げたりしたの?』

「手裏剣は投げるではなく撃つと言う。ここ重要」

『ふーん』

「発信器を入れた痕、痛くないか?」

『なんか異物感がある』

「その内慣れるさ」


ハビィがひょこひょこと歩きだして、ミルクをペロペロ舐める。


『マグロ食べたい』

「その前に離乳食な」

『和牛も食べてみたい』

「パソコンで何調べてんの」

『食べ物。ヨダレが出る』

「もう少し大きくなったら、肉でも魚でも食わせてやるよ」

『うん』

「じゃ、夕飯食ってくる」

『いってらー』


昼にLLサイズのハンバーガーを食ったのに、もう腹が減る。今日は疲れた。


俺はリビングへ行く。母親がテーブルに料理を並べていた。今日はエビフライのようだ。


「レイ、すぐ食べれるからね」

「うん。パパは?」

「ゴルフ練習場へ打ちっぱなしに行ったよ。もうそろそろ帰ってくるんじゃない?」

「先に食べるね」

「そうしなさい」


俺はテキトーに飯を食い、シャワーを浴びて、部屋に戻る。ハビィがすやすやと眠っていた。ハビィも疲れただろうな。寝る子は育つ。大きくなれよ。俺もなんか眠い。昨日遅くまで弥生と電話してたからだ。ちょっと早いけど寝よう。俺はカーテンを閉めてベッドに入った。


ーー俺は目が覚め、時計を見ると午前6時だった。12時間近く眠ってたか。部屋の照明を点けると、ハビィが俺の枕元に来た。


『おはよ、みゃーお』

「おは」

『本マグロ食べてる夢を見たよ』

「猫も夢見るんだ」

『変かな?』

「分からん」


これは、ハビィが人工的に産まれたからか、猫ってそういうものなのか…………。俺は携帯電話で調べてみた。猫も夢を見るのは自然な事らしい。


「ハビィ、大丈夫だ。猫も夢を見るって」

『そっかそっか。マグロってどんな味なんだろ?』

「美味いぞ~。特に大トロは」

『お腹空いた』


俺は起き上がり、お皿にミルクを注いでハビィの前に出す。ハビィはペロペロとミルクを舐める。


俺の学園の卒業式が近い。下級生にやる第二ボタンはない。高校に上がるまで弥生と後、何回デートができるだろう? それぞれ行く学園は東京と横浜だ。進学したらなかなか会えないよな。


『レイ、何難しい顔してるの?』

「将来設計だ。さて、まだ陽は昇らない。筋トレでもするか」


俺は10キログラムのダンベルを持って、二の腕を鍛える。気が付けば朝日が昇っていた。


『ボディービルダーに成れるね』

「危ないから離れてな」

『うん』


ーー俺は支度をして、学園に登校する。歩きで行くが、多分、一番乗りだな。


俺は教室に入ると誰も居なかった。


「やりぃ、初めての一番乗りだぜ」


「レイ君?」


教室の外、廊下から声を掛けられた。俺は廊下出る。


「弥生~。おはよ」

「おはよう」

「いつもこんなに早く来てるんだ」

「今日はちょっとね」

「どうしたの?」

「私、卒業式に出られないから名残惜しくて。ちょっと感傷。短い間だったけど楽しかった」

「そうか」


弥生が卒業式に出られないのは、聞くまでもない、全一教会の横槍だろう。


「昨日は楽しかったね」

「良かった。勅使河原の横槍がなければパーフェクトだったのにな」

「スカッとしたよ。レイ君、メチャクチャ強いね。中学生が大人を一撃で」

「照れくさい」

「フフフ」


俺と弥生は始業時間になるまで世間話をした。

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