第11話(胸騒ぎ)

ホームルームが始まり、俺と弥生はそれぞれの教室へ行った。後少しで冬休みだ。真面目に勉強してればな。横浜陰茎学園は底辺が行く所だ。噂では、人を殺さなければ卒業できるとか言われてる。今からでも横浜陰茎学園の魔素を感じるぜ。


ホームルームが終わり、体育館で卒業式のリハーサルが始まる。つまんねえな、さみーし。俺、特定の友達がいない。クラスの窓際族だ。予行演習中に話す奴もいない。俺はずっと弥生の方を見ていた。すると弥生と視線が合う。弥生はニコッと笑う。俺は自然と笑みがこぼれた。


卒業式のリハーサルは20分くらいで終わった。3年生はここで下校となる。俺はスクールバッグをくるくる回しながら、廊下で弥生を待つ。すぐに来てくれると思ったけどなかなか来ない。俺は3年C組の教室を覗く。しかし、弥生の姿がない。俺は近くの席の女子に聞く。この子は、弥生にコクられた時にいた応援団の一人だ。


「駒田弥生はどこ?」

「瀬名君、ちゃんと弥生と付き合ってるんだね。弥生ならもう帰ったよ」

「そっか、ありがと」


俺は胸騒ぎがする。下校の時はいつも弥生が待っていてくれた。何も言わず帰るなんてなかった。俺は急いで廊下を走って、階段を飛び降り、後を追いかける。校門の前で弥生の後ろ姿が見えた。


「や、よい…………」


俺は大声で弥生を呼び止めようとしたが、様子がおかしい。校門に接する道路に停まっている黒塗りのセダンから勅使河原が降りてきた。そして、弥生と勅使河原が何か話して二人は黒塗りのセダンの後部座席に乗った。俺は加速する。嫌な予感がする。校門まで80メートル程だ。車が走り出す前に止めてやる。ってか、勅使河原がもう豚箱から出てきた。全一教会の圧力か?


「弥生!」


黒塗りのセダンまで後30メートル。くそー。弥生に声が届かなかった。そして、無情にも黒塗りのセダンが走り出した。止めてやる。まだ追い付ける。勅使河原の野郎、どうやらグーパン三発目が欲しいようだな。これは誘拐だぞ。


「待て!」


俺は走って道路に出た。黒塗りのセダンとの距離は10メートル。追い付ける!


弥生が窓から身を乗り出した。


「レイ君、助けて!」

「弥生! 待ってろ!」


グーン! 黒塗りのセダンが加速した。人の足では追い付けない。くそー! 黒塗りのセダンは交差点を赤信号で突っ切り、まんまと俺を巻いた。もう見えない所まで引き剥がされた。弥生をどこへ連れていくつもりだ? 勅使河原の野郎、次は蹴りだ。


俺は諦めて自宅マンションに帰った。冷静に考えると、全一教会は弥生に危害を加えるとは思えん。あるとしたら勅使河原の私怨だ。だとしたら、ターゲットは弥生ではなく俺。弥生は警察に通報しただけ。それだけでも十分動機になるか。いや待て。勅使河原は後部座席に乗った。運転手が居たって事だ。やはり、全一教会か。弥生に電話を掛けるか? いや、メールにしとこう。


俺は弥生の携帯電話にメールを送った。


【無事か弥生?】


メールを送ってから5分ほどで返信があった。


【私は大丈夫。でも猫を取られちゃった】


【今、どこにいるの?】


すぐに返信があった。


【全一教会の本部。これから東京の実家に帰らされるとこだよ】


弥生が無事なら一安心だ。それにしても全一教会の連中は何がしたいんだ? 猫を生き埋めにしといて、雄だと分かったら奪い返す。ああ、ハビィが言ってたな。全一教会の教祖に霊的能力はないって。やっぱりカルト教団の教祖なんて、口が上手いだけの凡人でイカれた思想にかぶれてる。


【しばらく会えなくなる、よな】


【うん。ごめん】


【弥生が謝ることはない。全部、全一教会が悪い】


【そうだね。後3年ちょっとで、私は脱退できるから】


【前に言ってたな。長い!】


【w。時間を見付けては、レイ君に会いに行くから大丈夫】


【俺も東京へ、弥生に会いに行くよ】


【嬉しい、ありがと。そろそろ携帯を仕舞わないと。勅使河原に怪しまれる】


【分かった。またね】


30分経っても弥生から返信はなかった。勅使河原はパンチと回し蹴りと関節技の刑だ。俺はもやもやしながら自分の部屋に行く。


『お帰りー』

「ただいま、ハビィ」


ハビィはテレビを観ていた。リモコンの使い方、教えたっけ? パソコンで調べたか。パソコンは開いてるが、画面は真っ暗だ。バッテリーを使い切ってテレビに変えたか。


「パソコンのバッテリーを使い切ったら充電してもらわないと」

『むーりー。猫の手じゃ上手く出来なかった』

「前足な」

『そういうのを揚げ足を取るって言うんだよ』

「余計な知識は付けんでよろしい」

『だって暇なんだもん。普通の猫に産まれてたらこんな苦悩もないな』

「たしかに。あ、そうだ。ハビィの兄弟が全一教会に戻されちゃったから」

『えー!』


ーー俺はハビィに今日起きた事を全部話した。ハビィは仕方ないって感じだ。兄弟の心配はしてるものの、どこかドライだ。ハビィも兄弟が全一教会に取られたとしても危害は加えないだろうと考えてる。なんたって神の使いだもんな、アハハ。俺は、全一教会をバカにしている。だが、いつかは全一教会をぶっ潰さないとな。弥生が脱退した後だ。

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