第12話(彼女のターン)

ーー私の両親は全一教会で出会って結婚した。そして、私が産まれた。両親は根っから全一教会の教えに心酔している。父親はお布施を稼ぐために、先祖代々伝わる東京の土地にラブホテルを建てて経営している。一応、風営法は守ってるみたいだ。私は子供の頃からアイドルになりたいと親に言っていた。両親ともに「いつかなれるよ」と応えてくれてたけど、私が成長するにつれ、その道が厳しいと知った。アイドルが狭き門というだけじゃない。私は全一教会にいつの間にか入信させられ、親はラブホテルの経営者。お天道様の下で活動できるアイドルにはなれないと悟った。だから地下アイドルからやっていこうと考えた。大手アイドル事務所の人にスカウトされた事もあったけど、やはり親が全一教会というだけで破談になってしまった。


私が中学生になった頃、両親が喧嘩をするようになってきた。理由はラブホテル経営が傾いてきて、お布施が払えなくなったから。私が中学三年生になる頃には毎日喧嘩をしていた。いわゆる面前DVだ。耐えられなかった。だから私は、祖父母が持ってた横須賀の別荘に逃げた。そして、全一教会の資本が入る中学校から横須賀の中学校に編入した。協力してくれたのは祖父母だ。勿論、祖父母は全一教会と何の関係もない。寧ろ、自分の子供を狂わせたとして全一教会を憎んでいる。


私は束の間の安楽を満喫していた。そんな時にレイ君を目にした。一目惚れだった。ハーフで背が高くてスタイルが良くてナチュラルな金髪なレイ君はどタイプだ。私は編入したクラスメートに相談して告白することにした。クラスメートに聞くところによると、レイ君は友達を作らないらしい。格闘技のハードなトレーニングで友達どころじゃないのかもしれない。私は勇気を振り絞ってレイ君に告白した。レイ君はあっさりオッケーしてくれた。私は嬉しかった。


生き埋めになった子猫を助けて、レイ君は強いだけじゃなく、優しい人だと分かり、さらに好きになった。勅使河原さんをいきなり殴ったのにはビックリしたけど。


レイ君は、私をデートに誘ってくれた。とてもビックリして、とても嬉しかった。水族館デートに、ちゃんこ屋さんのハンバーガーは私の消えない思い出。


私とレイ君は進学して高校生になった。その間ずっと会えないままだった。私は、全一教会の資本が入る東京犠牲者学園だ。しかし、進学校はずが、上級生による酷いイジメが横行していた。私はイジメられてる同級生を庇い、今度は私がターゲットにされた。イジメグループのリーダー格は、三年生の風祭(かざまつり)イオリ。何人もの取り巻きがゴマをすってヘコヘコしていた。教師も誰も止めれない絶対君主の様だ。登校初日して、学園に私の居場所はなくなった。授業中は大丈夫だけど、放課後は地獄になる。イオリの命令で動く男子生徒に腕を掴まれ、校舎近くの河川敷に連れてこられた。イオリが腕を組んで待ち構えていた。取り巻きが数人、私を逃がさないためか、囲んだ。


「よくも私の顔に泥を塗ってくれたわね! お前、今から川に入りなさい! 冷たい川なら生理不順でも起こすでしょ!」

「嫌よ! イジメをする方が悪いよ!」

「イジメじゃなく教育だ! 川に入らないなら無理やりやるからな!」

「嫌!」

「次、学園でお前を見たら水浴びじゃ済まないからね! うちの学園には、性欲が強い男子生徒が多いの。やれ!」

「「はっ!」」

「嫌!」


二人の男子生徒が私の腕を掴んだ。レイ君、助けて! 次の瞬間、バッシャーン! 私は川に突き落とされた。結構深い! 死んじゃう! レイ君…………。バシャッ!


「はあ……! はあ……! はあ……!」


何とか水面に出れた。でも身体が寒さで言うことを利かない。川の流れは穏やかだ。何とか岸に。浅瀬がある。私は寒さで全身が痛むのを我慢して浅瀬に上がった。


「ゲホッ……! ゲホッ……! ゲホッ……!」


私は全身ずぶ濡れで自宅に帰った。両親はまた喧嘩をしている。


「あなたが甲斐性ないから今月は100万円しかお布施出来てないでしょ!」

「経営が傾いてるんだ! ジジイとババアから土地を奪ってそこに新たな風俗店を開く! それでいいだろ!」

「いつになるのよ!? お布施は今必要なのよ!」


「パパママ、喧嘩はやめて!」


私は両親が驚くほどの大声を出した。


「びしょ濡れじゃないか、弥生。どうしたんだ?」

「上級生に川に落とされた。あんな学園、行きたくない!」

「甘ったれた事を言うな! 行きなさい! イジメなんてどこにでもある! 俺達家族が上の者に目を付けられたらどうするんだ!」

「そうよ、弥生。学園は大切な所なのよ」


コイツらに言葉が通じなかった。レイ君に助けを。私はレイ君に電話を掛けた。出てくれなかった。私は絶望した。学園では、イオリらがいる限りイジメは続く。両親は無理解でイカれてる。どうしたら、このままだと死んじゃう。


私は、学園に行くふりをして、トー横に入り浸る。そこは10代から20代の男女がたむろしている。レイ君に何度メールをしても電話を掛けても出てくれなかった。すると、ある時から着信拒否にされた。私は再び絶望した。遊びだったの? レイ君…………。私の居場所はトー横だけ。ここは親に虐待された人ばかりだ。子供を虐待するような親は人擬きだ。多額の生命保険に入って自殺してほしい。親子の信頼関係、愛情がないなら死んでカネに化けてくれた方がましだ。

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