第14話(キャプテン・ジャパン)

ーー俺は意識を取り戻した。白い天井に白いカーテン、それにベッドに横になってる。病院か? 心電図を測ってるのだろう、胸にパッドが着いてる。俺は間抜けだ。後ろの気配に気が付かず、隙を与えてしまった。50人はノシたから一人くらい意識を取り戻す奴がいてもおかしくない。とりあえず、看護師を呼ぶか。


「だ、誰か居ないか」


シャッとカーテンが開く。看護師じゃない。女子生徒が入ってきた。この子、何かオーラが違うな。


「気が付いたのね。私は三年生の林南(りんなん)マキ。横浜陰茎学園のレディース、女郎蜘蛛のアタマ兼ゴールド・メンバーズの相談役をやってる」

「俺は…………頭を殴られた?」

「バリカン君にね。あの子、タフなのよ」

「確か、鈴木も言ってたな」


マキがベッドの脇の椅子に座った。


「バリカン君の事、悪く思わないでね。プライド高い子だから」

「チビは下手なプライドが高いものだ」

「フフ、そうね。頭の骨は折れてないし、他にも異常なし」

「病院は苦手だ。さっさと帰ろ」

「ここ、病院じゃないよ」

「え?」

「ここは、横浜陰茎学園の保健室。ケンカで表に出せない怪我とかするから、設備が充実してるの。驚いた?」

「驚いた」


やっぱ、横浜陰茎学園はヤバい所だぜ。


「節句鈴木はゴールド・メンバーズのアタマ代理を下りた」

「セックス好き!?」


ヤベー名前だな。ニヤニヤしちゃう。


「瀬名、お前何か勘違いしてない?」

「鈴木って病院とかで名前呼ばれたくないタイプだな、アハハ」

「話を続ける。何で鈴木が代理だったか分かる?」

「さあ」

「本当は、次期アタマに選出されてた男がバイク事故で3ヶ月も意識不明なの、私の彼氏でもあるけど。もうもたないそう。そこで、私の権限と鈴木の推薦で、瀬名をゴールド・メンバーズの正式なアタマとする。いい?」

「一年生の俺が?」

「お前は圧倒的に強い。バリカン君を倒し、第1勢力の中心メンバーを倒し、鈴木にも勝った。入れられたのは一撃だけ。他に適任はいない」

「少し考えさせてくれ」


さて、どうしたものか。アタマになれば学園内でケンカを売られる事もなくなるか。まあ、とりあえず、オーケーしとくかな。


「分かった。俺、やるよ」

「そう。ありがとう。これであの人も浮かばれる」


俺は起き上がろうとした時に、ズキン! 頭がいてえ。


「殴られた所が痛むのね。もう少し寝てなさい」

「ああ」

「私は保健室に居るから何かあったらまた呼んで」


マキは立ち上がり、病室から出てカーテンを閉めた。


ブー……ブー……ブー……。携帯電話が鳴ってる。こんな時に誰だ? 俺は、携帯電話を出して画面を見る。ズキン! 頭がいてえ。画面には、駒田弥生と出てる。誰だっけ? ズキンズキン! いてえ。この名前を見ると頭痛が激しくなる。ブー……ブー……ブー……ブー……。無視しよう。


さて、迷惑電話も止んだし、教室に戻るかな。俺は立ち上がり、カーテンを開ける。もう夕方、放課後だった。マキが一人で椅子に座って何かノートに書いてた。レディースのヤンキーは勉強をするのか。


「もう大丈夫?」

「ああ。今、放課後だよね?」

「うん」

「じゃ、帰るかな」

「待って。サッカー部の部室に寄って」

「何で?」

「いいから。お前のためだよ」

「そこまで言うなら寄ってくよ。で、場所は?」

「昇降口を出て、校庭の左側にある」

「看病ありがとう。じゃあね」


マキは左手を軽く挙げて、さよならの挨拶をする。俺はそのまま保健室を出た。


俺は、サッカー部の部室前に着く。近くには、単車が十数台と、黒塗りのセダンが停まってた。高級な国産車の現行モデルだな。


俺は、部室のドアを開けると、中には俺がボコボコにした上級生がたむろしていた。タバコを吸ってる奴が数人。缶チューハイを飲んでる奴が数人。ここは部室とは名ばかりの不良の巣窟だ。


「来たな、瀬名。いや、アタマ」


鈴木だ。上座に座ってる。


「「「オオ! キャプテン・ジャパン!」」」

「静かに! アタマ、家はどこだ?」

「横須賀ベースの近くだけど」

「送って行こう。運転係!」

「はっ!」


おいおい。まさか、高校生が外の車を運転するんじゃないだろうな?


嫌な感は当たった。俺は促されて仕方なく黒塗りのセダンの後部座席に乗る。鈴木が隣に座った。


「じゃ、出しますよ~」

「免許持ってるよね?」

「自分、まだ17歳ですから~。何、大丈夫ですよ。自分、運転には自信がありますから~」


聞いた俺がバカだった。当たり前だ。ここは何でもありの横浜陰茎学園。車が走り出した。俺はちゃんとシートベルトをする。


「アタマの家に着くまでに、ゴールド・メンバーズの説明をする。よく覚えてくれ」

「お、おお…………」


それどころじゃねーよ、鈴木! 免許を持ってない奴の運転がこえーよー!


「安心しろ」

「え?」

「コイツの運転技術は本物だ。幼稚園児の頃からサーキットを走ってる。運転歴は10年以上だ」


鈴木の奴、察したか。俺がビビってるのを。運転係の奴は金持ちの息子かな? 少し安心した。


「今から30年ほど前。伝説の不良、金子(かねこ)さんが、ゴールド・メンバーズを立ち上げた。たった三年間で全国一の不良グループに育て上げたんだ」

「スゲーな」

「金子さんは今では更正して警視庁の警部補をやってるようだ。現役の俺達でもどうにも出来ない困った事があったら、金子さんに相談する。俺は会った事ないがな」

「なるほど」

「ゴールド・メンバーズのアタマは代々、キャプテン・ジャパンと名乗るのだ」

「そういや、部室で叫んでた奴が何人か居たな」

「レディースのアタマ、林南マキの彼氏だった天草(あまくさ)がキャプテン・ジャパンを継ぐはずだったが、二年生の終わりにバイク事故で意識不明だ。だから俺が代理という形でしばらく様子見していた。だが、もう戻らないそうだ」

「マキからも聞いたよ」

「供養だと思って、キャプテン・ジャパンを引き継いでもらう。いいな?」

「ああ」

「瀬名は、天草と比べ物にならないくらい強い。自信持っていいぞ」

「おお」

「あとはゴールド・メンバーズの体制を簡単に説明する。まず第1勢力がメーンの武闘派。第2勢力が二軍、雑用も兼務。第3勢力が遊撃隊。第4勢力はちょっと特殊で、株式投資などでカネを作り、単車や車を買ってもらう。抗争には参加しないが、他校から狙われないように第2勢力が護衛に付くんだ。各勢力には、リーダー、副リーダー、補佐がいる」

「なるほど」

「あと、ゴールド・メンバーズ鉄の掟がある」

「何?」

「クスリは絶対なし。分かったな?」

「ああ、その心配はないから安心してくれ」

「そうか。最近では他校でクスリが蔓延してるらしい。ゴールド・メンバーズのメンバーがクスリに手を出した場合は公開処刑にされる」


「お二人さ~ん」

「どうした、運転係」

「あと少しで横須賀ベースに着きますよ~」


車は俺んちの近所の交差点だ。ちゃんと赤信号で停まってた。


「この辺りで降ろしてくれ」

「リョーカイで~す」

「また明日な。キャプテン・ジャパン」

「ああ。お休み」

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