第4話(喋る猫)
ーー俺と弥生は早歩きでその場を離れた。
「弥生。俺に隠してる事があるだろ」
「…………うん」
観念したか。
「聞かせてくれ」
「私、全一教会(ぜんいつきょうかい)っていう宗教団体の2世信者なの」
「カルト教団? 弥生はその宗教を信じてるのか?」
「カルトだよ。霊感商法で大金を巻き上げて家庭を壊していく。私は親に信仰を強要されてて信じてるフリをしてるの」
「さっきの男も教団の者、だよな」
「うん。勅使河原さんは教団幹部なの」
「子猫を生き埋めにするような奴らだ。イカれてる」
「そうだね。私ね、親から逃げるために祖父母を頼って今の学園に転校したの」
「そうだったんだ」
「でもバレちゃった」
「勅使河原って奴か」
「うん」
「この話は終わり! 帰ろっか」
「え? もっと聞かないの?」
「弥生の言動は信じるに足りる。弥生を連れ戻そうとする奴が来たらまた殴るよ」
「あれもマーシャルアーツ?」
「マーシャルアーツは武芸全般の総称だよ。あれはただのパンチ。それにしても、あの勅使河原って奴が言うには、2匹の子猫は雄の確率大だな。名前は決めた? 俺はハビィって付けた」
「私はまだ名付けてないよ。レイ君、可愛い名前を付けたね」
俺達はそれぞれの帰路に着き、俺は自宅マンションの駐輪場にAMG号を停めて鍵をかけた。後で教団について調べよう。
俺は自分の部屋に入り、ハビィが入ってる段ボール箱の中を見る。ちゃんとご飯を食べてるな。よしよし。
「みゃーお」
「元気にしてたか? ハビィ」
『助けてくれてありがとね』
俺は振り返り、辺りを見渡す。誰も居ない。
「幻聴が聞こえちまったか。カルト教団の幹部を殴って呪われたかな」
『みゃーお。こっちこっち』
「また聞こえた。この部屋には俺しか居ない」
『僕が居るだろ。みゃーお』
「え? え? まさか、ハビィなのか? 喋ってるの」
『そうだよ』
俺は、ハビィを段ボール箱から取り出して胡座をかく。
「ハビィ」
『もう一度言うね。助けてくれてありがとね』
「おおぅ。どうって事ないよ」
『しばらくご厄介になるね』
「おおぅ」
頭がパニックだ。猫と会話してる、俺。
『それより、兄弟は無事かな?』
「兄弟? ああ、もう1匹の子猫か。優しい人の元で元気にしてるだろう」
『それは良かった』
「俺はなぜハビィと喋れる?」
『レイの感度が良いから。幽体離脱出来るでしょ』
「あ、ああ。たまにあるな」
『レイは霊的能力が高いのさ』
「俺にしか聞こえないのか?」
『そうだよ』
「ハビィは神の使いなのか?」
『破壊神の使いだよ』
「破壊神!?」
『冗談、冗談。僕が分かってる範囲で教えるね。全一教会の教祖がいきなり三毛猫の雄を欲しがるようになって僕は産まれたんだ』
「人工的に三毛猫の雄を作り出せるのか?」
『うん。でも失敗作、つまり雌は殺処分。僕と兄弟も雌と勘違いされて生き埋めになってたところをレイ達に助けられたんだ』
「そうだったのか。全一教会は科学技術に優れてるカルト教団なのか」
『全一教会の技術力じゃないよ。詳しく知らないけど、他の組織が関与してるみたい』
「やベーな。全一教会の教祖も猫と会話出来るのか?」
『多分無理。だったら僕達兄弟は捨てられてないよ』
「全一教会について調べてみるか」
教祖に霊的能力がない。カルト教団のトップなんて、総じて口が上手いだけの凡人だ。
俺はハビィを膝から降ろす。そして、ポケットから携帯電話を取り出してネット検索する。全一教会のホームページに飛ぶと、そこには入信すれば幸せになるだとか甘美な言葉が並んでいた。表向きは良いことしか書いてない。幹部が子猫を生き埋めにするような連中だ。正体はろくな奴らじゃないだろう。
ハビィが段ボール箱の方へヨチヨチ歩いて行き、段ボール箱の側面を爪でカリカリする。
「どうした?」
『お腹空いた』
「すぐにミルクをやる。喋れるって便利だな」
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