第6話(初デート)

弥生との電話は深夜1時まで続いた。他愛もない世間話が殆どだ。俺は意図的に全一教会の話は避けた。弥生が言うには猫がミルクを前にするとマンマと鳴くという。親バカにありがちな空耳だ。俺は色んな意味で安心した。弥生は優しい。それとカップルで猫と会話出来るなんてバカップルだ。俺がハビィと会話出来る事は伏せておいた。言っても信じられないだろうから。初デートはとりあえず、水族館に行く事になった。


俺はベッドで横になり寝る。ハビィがモゾモゾと掛け布団の中に入ってきた。冬は寒いからな。ハビィが温かい。よく眠れそうだ。


俺は目が覚めて起き上がると朝陽が出ていた。ハビィのお陰でグッスリ眠れたぜ。


「おはよ、朝だよ」

『おはよー。デート楽しんできてね』

「おう」


俺はリビングに行く。母親は朝ごはんの支度で、父親は椅子に腰掛けて英字新聞を読んでる。いつもの朝だ。


「おはよー」

「おはよう、すぐにごはん食べれるからね」

「グッモーニン、レイ」


父親が読んでいた英字新聞を畳んだ。


「今日、暇か?」

「いや、友達と出掛けるから暇じゃない」

「そうか」

「なんか残念そうだね。どしたの?」

「近々、サンフランシスコに里帰りしようと思ってな。レイも冬休みに入るだろ? 今日はリモートで向こうに伝えようと考えていたんだが」

「じいちゃん、ばあちゃんに顔を見せようと? 俺も久しぶりに二人の顔見たいけど、明日じゃダメなの?」

「早めがいいんが、明日でもかまわんよ。ところでレイ」

「何?」

「国籍の選択はどうする? 日本の法律だと22歳までに決めないといけないらしい」

「日本人と決めてるよ」

「そうか」


なんか父親が残念そうなリアクションをした。でも俺、英語喋れないし、ナニより日本が好きだ。


俺はテキトーに飯を食い、支度して待ち合わせ場所の駅前に歩いて向かう。


俺は駅前に着き、携帯電話で時間を確認する。待ち合わせの時間の10分前だ。俺は周りを見渡しながらウロウロする。弥生はまだ来てないようだ。10分前だしな。それにしても朝は寒い。手に息をハーっとかける。


「レ~イ君、おはよ」


後ろから声をかけられた。俺は向き直る。弥生だ。白いコートに赤い手袋。日の丸を意識してんのかな? まあ可愛いからいいか。


「おはよー」

「早いね、レイ君」

「10分前行動だよ」

「学園には遅刻してくるのにね」


別のクラスなのになぜそれを知ってる!? 噂話でも聞いたか!?


「学園まで遠いからな。仕方ない」

「私んちより近いと思うけど」

「そ、そう?」

「行こっか」

「おう」


初デートだ。肩の力を抜こう。


俺と弥生は電車に乗って水族館へと向かう。電車内はあまり混んでなかったからシートに座った。


「レイ君は手袋しないの? 外だと寒くない?」

「ポケットに手を突っ込むからしないね」


俺の片手に何かが触れた。よく見ると、弥生が手を重ねていた。


「温かい?」

「温かいというか、電車の中は暖房効いてるから」

「あ、そうだよね。私ったら。エヘヘ」


俺は重なっていた手を退けて、弥生の手の上に重ねた。


「レイ君…………嬉しい」

「良かった」


俺は、弥生がちょっとあざといと思ったけど違う。多分、天然だ。少しホッとした。これが…………恋?


しばらく電車に揺られていると、俺の肩に弥生がもたれ掛かってきた。寝落ちしてる。ドキドキしてきた。鼓動が高鳴る。これが…………恋? 昨夜は遅くまで話してたもんな。俺も眠い。水族館の最寄り駅までは…………後、一駅。俺まで寝る訳にはいかん。弥生を起こさないとな。


「弥生、弥生」

「…………う、うう」

「起きた? 後少しで着くよ」


俺から弥生が、パッと離れた。


「ごめん、寝ちゃってた。頭、重かったよね」

「ずっと続けばいいと思った」

「レイ君…………好き」

「俺も」

「告白した時に、レイ君はまずは友達からって言ったけど、私達、恋人になれたのかな」

「弥生は俺の彼女だ。間違いない」

「嬉しい」


弥生のはにかんだ笑顔が可愛い。全一教会とかいう悪党から弥生を守らないとな。

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