第25話(0.5秒の硬直)

ーー俺は車に乗り、西園寺の運転で自宅マンションに帰った。セダンがボコボコになったから別の車だ。フェアレディZしかすぐに出せないそうで、2シーターだから二人しか乗れない。西園寺は俺を送り届けた後に鈴木を送るために一度、学園に戻ると言っていた。大変だな、運転係も。


横浜陰茎学園にカチコミを入れた東京犠牲者学園の連中は、地下室に閉じ込められて24時間体制でゴールド・メンバーズ第2勢力のメンバーに監視されてるそうだ。さあ、どう出る全一教会。勅使河原みたいな奴…………勅使河原? 俺、何で勅使河原の事を知ってるんだろ? 俺と全一教会に接点はないはず。いや、俺はハビィを助けた。それを狙ってたのが勅使河原だ。


俺は自分の部屋に入る。ハビィは元気だろうか。


「ただいま、ハビィ」

『お帰りー……って! レイ、ヒュムの気配がする!』

「何!? どういう事だ?」

『ちょっとじっとしてて』


ハビィが俺の周りをくるくると見渡して、じっくり鑑定をしている。


『レイの右手にヒュムの毛が付いてる』


毛? 思い当たるのは…………。用心棒! アイツの頭を電動バリカンで十字型に刈ってやった。その時に付いたのだろう。あの野郎、ヒュムだったのか。異世界の王族。地球を乗っ取ると企む連中。俺は今日の出来事を全てハビィに教えた。


『僕が思ってたより複雑になってきた』

「用心棒の事か?」

『もしかしたら、異世界の王族は薬物を撒いて人間を徐々に減らすつもりかも』

「厄介だな」

『レイが用心棒に勝てたのは、光と闇の属性があるからだと思う。元々の戦闘力が高いのもあるけど』

「光と闇、いつ聞いても中二病っぽい」

『真面目に!』

「すまんすまん、つい」

『光属性の弱点は闇に弱い事、闇属性の弱点は光に弱い事。毛から見て用心棒は火属性だね。光と闇より下位の属性だから、レイに大したダメージを与えられなかったんだと思う』

「ボディーブロー、痛かったぞ?」

『でも、レイよりガタイが良い鈴木って人はやられちゃったんだよね。その差はやはり属性のお陰なのさ』

「そんなに強いのか、俺。相手は手練れだと思ったけど、属性の差で」

『確かにね。瞬時にレイの背後を取ったけど頭突き一発で倒せた。レイ、無意識に魔法を使ってない? 例えば攻撃の前に何か言うとか』

「攻撃の前…………攻撃の前…………。パパの教えで何かのナンバーワンになれと言われて育ったから、口癖でアイム・ナンバーワンって言ってるわ」

『僕に言ってみて。あ、殴らないでね』

「当たり前だ。行くぞ」

『うん』

「アイム・ナンバーワン!」

『……………………うん、分かった。これは古(いにしえ)の初期魔法だね』

「手からビーム出てねえぞ」

『この魔法は唱えた後に0.5秒ほど相手を硬直させる効果があるようだ。古代魔法だから正しい詠唱は知らないけど、使いこなせば相手を行動不能させる事が出来るよ。レイは打撃が強いから0.5秒も相手を止めてるなら接近戦は無敵だよ』


俺は、魔法のお陰で強かったって事か。嬉しいような虚しいような。子供の頃も、第1勢力50人をのした時も、用心棒に勝てた時も。


「魔法は俺の実力なのか?」

『勿論。産まれ持ったものだからね』

「少し安心した」

『どういう意味?』

「いや、ズルして勝ってきたのかなと思って」

『魔法や魔力は立派な実力だよ』


俺の携帯電話にメールが入る。誰からだ? 俺は携帯電話を取り出す。ママからか。


【明日には飛行機が飛べそう。明後日までには帰れそうだから】

【了解】

【ちゃんと食べてる?】

【勿論。冷凍食品のストックがまだ大量にあるし、学園の学食はタダで食えるし。大丈夫だよ】


ママとパパが帰ってきたら少しは日常を取り戻せるかな? ここんとこ色々ありすぎた。待てよ? 俺に魔法が使えるって事はママとパパも? 聞くのはやめておくか。下手したらバカが進んだと思われる。


また携帯電話が鳴った。今度はゴールド・メンバーズの特設SNSだ。俺は新着をタップする。動画か。エロ動画ではない。東京犠牲者学園の連中を閉じ込めてる部屋の動画だ。このアングルからして監視カメラだな。メッセージが来た。誰だ? 役職は第4勢力のリーダーだが、名前の欄にアンノウンと表示されてる。ハーフか?


【今、いいですか? キャプテン・ジャパン】

【大丈夫だ】

【ボイスチャットにしますね】

【分かった】


何だろう? 他のメンバーには聞かれたくない事かな?


「第4勢力リーダーです」

「キャプテン・ジャパンだ。どうしたの?」

「キャプテン・ジャパン。勅使河原って人知ってます?」

「知ってるよ。勅使河原は全一教会の幹部だ」

「やっぱり。勅使河原って人に、我々の組織に入れば10倍のリターンを出すと勧誘されまして」

「無視しろ、アンノウン。クスリの事もあるし、全一教会は犯罪組織だ。子猫を生き埋めにするしな」

「ヤバい連中ですね、極力関わらないようにします。それと僕の名前はアンノウンじゃないです」

「取り敢えず名前を教えてくれ」

「大阪ちゃうねん」

「え? 出身地は聞いてない。急にどうした?」

「ですから、大阪ちゃうねんです」

「意味が解らない」

「もう! いつもこうだ! 後でチャットでメッセージを送りますから」


ボイスチャットが切られた。言われた通り、代わりにメッセージが来た。


【第4勢力リーダーの大阪茶宇念(おおさか・ちゃうねん)という名前です。親が再婚するまでは、加藤だったんですけどね】

【それはそれで問題だったね。すまん、理解力なくて】

【分かって頂けたところで仕事に戻ります】

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