幸せはどこ?・シャーロット視点③
わたくしが女神様から授かった祝福は、特別珍しくもない“調合”の能力。
しかも我が家は薬師の家系ではないから使い道もない。その能力を活かすなら、せいぜい薬師の家門に嫁ぐか、自分自身が薬師の道を選択するしかないのだ。
女神様の祝福が“繁栄”だと言うだけで殿下の婚約者に選ばれたハミルトン公爵令嬢が、せめて傲慢で自己中心的な相手だったなら、もっと強く両親に婚約者になりたいと願っただろう。
でも実際に茶会で話した彼女……エイブリー様は人当たりも良く、下位貴族の人間にも心を砕くとても優しい少女だった。
テオドア殿下にエスコートされお二人で茶会に現れた時は、悔しいけれど本当にお似合いだと思ったもの。
お互いがお互いを尊重し、尊敬と愛情を持って接しているのは他人であるわたくしにも充分すぎるくらい伝わってきたから。
(もう忘れよう)
(わたくしはスタートラインにすら立てなかったけれど、テオドア殿下が幸せならそれでいいじゃない)
苦しい程の恋心に強制的に蓋をしたわたくしは、変わらず血を流す自分の心から強制的に目を背け、忘れるという選択をした。
あの辛い失恋から数年が経ち、わたくしは感傷に浸らない程度には二人を祝福出来るまでに傷が癒えてきていた。
時間が傷を癒すという言葉があるけれど、本当にその通りだった。
時間が経過すると共に、友人となったエイブリー様やテオドア殿下とも、自然な表情で会話する事が出来ていたと思う。
(わたくしもいい加減、前を向かないと)
(そろそろお父様の持ってくる縁談の話にも耳を傾けてみようかしら)
そんな風に前向きに思えるくらい前へ進めていたと思う。
なのに……。
「僕なら叶えてあげられる。君のその恋心を、現実にしてあげる事が出来るんだ」
あの日そう言って子どもみたいに笑った彼に、わたくしはどう返答を返せばよかったのだろう。
その年家族で領地へ向かい、みんなで休暇を楽しんでいたわたくしは、隣の領地だという少年と偶然話す機会があった。
お父様に用事のあったチェスター子爵に同行していた彼、ライアン・ジョン・チェスターとの出会いは、大人が仕事の話をしている間子ども達だけで遊んでいなさいという理由でライアンのお守りをさせられた為だった。
彼に対する最初の印象は『顔の綺麗な男の子』、ただそれだけだった。
でも二人で過ごしていくうちに、意外にもライアンは全てに対して冷めている事、そして経験した事のない程の強烈な刺激を求めている人だという事を知った。
どこか冷めているライアンにわたくしが一方的に構う、そんな毎日だったけれど次第にライアンが心を開いてくれるのが分かって純粋に嬉しかった。
前世で独りぼっちだったわたくしだからこそ、放っておけなかったのもあったけど、話してみると意外と物知りで興味のある事には寝食も忘れ没頭するライアンを放っていけなかったというのもあった。
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