退屈な人生・ライアン視点①



 どれだけ叫んでも、無情にも一度閉じられた扉はこちらの都合では開いてはくれない。

 それもそうか。僕は罪人なのだから。

 でも彼女は……僕の光はどうなるのだろう。



 十八年間生きてきた中で、僕の目に映る世界が輝いて見えた事は一度だってなかった。

 平凡が取り柄と言っても過言ではないチェスター子爵家の長子として生まれた僕は、見た目や中身すらも平凡を絵に描いたような家族とは違い、酷く異質な存在だった。

 大した努力をせずに全ての事がさも当たり前に出来てしまう事も、僕の異質さに拍車をかけていたと思う。

 家族はどこにでもいるような平凡な容姿なのに対し、色だけは辛うじて同じでも僕だけが顔の作りすら違う。

 だからだろうか。そんな異質な存在の僕を大切にしてくれる家族に対しても、目の前で起こる出来事にすらも幼い頃から酷く達観していたのは。

 

 そんな子どもらしくない僕を見ても、両親は変わらず愛してくれていたと思う。

 でも何をしても、何を見ても、世界が色付く事はなく、まるで僕だけが靄がかかったような薄暗い世界に生き、ただ息をするだけの人形のようだと感じた。


 (刺激が欲しい)

 (魂を揺さぶるような、強烈な刺激が)


 そんな叶うかも分からない不確かな願いを茫然と抱きながら、日々淡々と日常を生きているだけの僕に、ある日転機とも言える出会いが訪れた。

 その日はいつものように屋敷を抜け出し、領地にある市場まで遊びに出かけていた僕は、そこで一人の少女と出会った。

 シャル──シャーロット・グレース・バルセルとの出会いはまさに僕にとって運命そのものだったように思う。


 彼女の第一印象を一言で表すなら『ずいぶん甘やかされた少女』だろうか。

 愛されているからこその絶対的な自信があるくせに、ふとした瞬間に寂しそうな表情をする。そんな不思議なシャーロットに、最初の頃の僕は珍しいおもちゃを見つけたと興味を抱いた。


 (いいおもちゃになるかもしれない)


 そして会話を通して感じた彼女の印象は、色んな意味で『自己中心的』だった。

 でもシャルの育った環境は、それが許されるのも事実なんだけど。

 まるで自分が世界の中心のような彼女の考えも、不思議と不快感は感じなかった。

 いつもの僕なら絶対に関わり合いたくないような相手なのに、どうしてだか彼女に対してはそれがなかった。

 そもそも高位貴族のご令嬢なら彼女のような態度でも不思議はないし、現にシャルは両親からとても溺愛され、本人もその事を自覚している。


 そんな高位貴族の令嬢である筈の彼女が、何故か平民のような口調で気安く話しかけてくれた事も、僕の警戒心を解くきっかけとなった。

 すぐに意気投合した僕達は、シャルが王都へ戻っても家族に内緒で手紙のやり取りをするくらい親しくなっていった。

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