幸せはどこ?・シャーロット視点⑨



 わたくしが殿下とエイブリー様にした事は、決して許される事じゃない。

 エイブリー様をあんな風にして、あまつさえお二人を引き裂いたわたくしが罰を受けるのは当然だと思う。

 でも、それでもわたくしの心は、この罰を受け入れる事が出来なかった。

 心の中では「どうして?」、そんな言葉が何度も浮かんでは消えていった。


 それでも現実は変わらない。

 わたくしはこれ以上苦しみたくなくて、必死で下働きの仕事をした。それは現実から目を逸らす為でもあった。

 来る日も来る日も、死に物狂いで働いた。

 あの男はわたくしに妙な真似はするなと忠告したけれど、わたくしにはそんな気力も度胸すらなかった。

 基本的に一人行動だけれど、他の人には見えない位置から常に男が監視しているのが視界の隅で確認出来た。

 そして男の視線には明確な殺気が込められていた。そんな相手に対して妙な真似をする勇気がわたくしにはない。


 あんな事をしでかしたわたくしだけど、死にたくなかった。

 容姿は変えられてしまって見る影もないけれど、それでも確かに死にたくないと心が叫んだ。

 自分でも図々しいのは分かっているけれど、それでも罰を与えられないように、殺されないように必死で目の前の仕事をこなした。

 それからの日々は男の指示の下、掃き掃除や洗濯、窓ふきなどの仕事を必死でこなした。

 

 季節が変わりこの屋敷で働くようになってから、気付けば半年もの時間が経過していた。

 わたくしには妙な行動を起こす意志がないと分かってもらえたのか、最近は男の纏う雰囲気が前より柔らかくなったように感じた。

 この頃のわたくしにはそれだけでも救われたような、許されたような気分だった。

 今まではずっと屋敷の人間と極力会わないような場所で仕事をしていたけれど、最近では少しずつ使用人とも交流を持つ事を許されたりもした。


 常に監視の目があるから下手な動きは出来ないけれど、それでも自分ではない人間との交流はわたくしの荒んだ心を修復してくれる作用があった。

 屋敷の使用人達はわたくしが口のきけない奴隷出身だと思っている。最近は影からではなく常に横に控え燕尾服を身に纏った使用人に扮した男がいる為か皆優しく接してくれる。


 自分のした事を忘れたわけではなかったけれど、わたくしはこの優しく過ぎていく時間がこの上なく心地の良いものになっていた。

 姿は変わってしまったし話す事は出来ないけれど、この先ずっと誠実な姿勢を見せ続けていたらいつか祝福を使ったというこの容姿を、元に戻してくれるのではないかと、そんな淡い期待も抱いていた。


 (いつか許され、そして叶うなら、殿下とエイブリー様へ直接謝罪をしたい)

 

 もう二度とお二人を傷つけたり他人を苦しめるような事はしないと、今のわたくしの姿を見て判断してもらいたい、そう思っていた。


 でもわたくしはどこまでも浅はかだった。

 わたくし自身の罪を軽く捉えすぎていたのだ。

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