挫けそうな心①
リアムと連絡を取った数日後、調査を終えた彼と僕の自室で話をする事になった。
すぐに僕は先日禁書を確認する為に書庫へ行った事、そこで“魅了”の症状、加減について記載のある書物を発見した事を彼に伝えた。
「その内容は俺も今、初めて知る内容です。殿下の見つけた資料の内容は、確実に解決への一歩になると思います。これである程度現在の婚約者の方状態を予想する事が出来ます。更に詳しく調べる為にやはり直接対面するか十秒間視線を合わせる事が出来れば、どの程度“魅了”によって精神汚染が進んでいるのか分かるかもしれないのですが、俺は男だから、あれ以上ご令嬢に近づく事は現実難しい」
「どうにかクラリスと二人で話が出来る状況が作れたらいいんだが、あの状態のクラリスとの接触は難しい。僕の言うことは全く耳を傾けてくれないからな」
「困りましたね。俺の方も先日公爵家の使用人達と出入りのある人間一人ずつ調べてみましたが、怪しい人物は確認出来ませんでした。今現在俺が怪しいと思っているのはチェスター子爵子息と、ご令嬢に変化があった前日に二人で話をしていたというロレーヌ男爵令嬢の二人です。ですがロレーヌ男爵については俺の祝福で視てみましたが、彼女の祝福は神殿に登録のある“清掃”の能力で間違いありません」
この行き詰った状況に気持ちだけが急いていく。僕の様子を静かに見ていたリアムは、何かを考え込むように言葉を零した。
「以前もお話ししましたが、前回ご令嬢と対面した際、彼女の周りで俺の祝福は反応を示さなかった。だから結果として彼女の周りに術者はいない事になるとお話しましたよね?」
「ああ、それは覚えている、だが術者が近くにいないなんて事、あり得るのか?」
「そもそもそこがおかしいんです。どんな祝福でも術者が近くにいないなんて事は出来ないし、あり得ない。術者は必ずご令嬢の近くにいる。そうじゃないと“魅了”を施す事すら不可能な筈なんです」
そう真剣な表情で話すリアムに、僕は以前からずっと聞きたかった事を思い切って聞いてみる事した。
「あのクラリスが離れたがらない子爵子息の可能性はないのか?」
「あの子爵子息もあり得ないです。俺も一番に怪しいと思って、すぐに調べてみたんですが彼には“魅了”を操る事は出来ません。神殿で行われた祝福検査でも、彼の祝福は“魅了”ではなく“繕い”だったときちんと記されている。それに“繕い”で人を魅了する事は出来ない。出来るとしても針仕事だけです。“繕い”の祝福が、ある日突然“魅了”に変わった事例なんて、今まで一度も確認されていません」
チェスター子爵子息の祝福は針仕事をする人間に重宝される“繕い”。“魅了”の祝福とは全く関係がないと断言されてしまうと、また大きな壁が立ち塞がった気分になった。
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