挫けそうな心②

 「チェスター子爵子息本人だけではなく子爵家自体にも調査の手を伸ばしてみましたが、子爵が神殿に金を積んで虚偽の事実を記録させた事実もありませんでした。当代のチェスター子爵は不正を働くような野心家などではなく、おっとりとした性格で領民からも慕われています。大それた事を企む事も行動に移している様子もありませんでした。そもそも子爵自体、必要以上に領地からほとんど出てくる事はないそうです。それに子爵家は中立派です。仮に中立派の彼が国家転覆を目論んでいても、メリットがひとつもありません」

 「っ、一体誰がクラリスに“魅了”の祝福を施したと言うんだ」


 “魅了”の祝福持ちも見つからない、疑惑のある人間の潔白が証明されていく。その度に僕はどうしたらいいのか分からなくなってしまっていた。

 一番の容疑者であるチェスター子爵子息の線が完全に消え去った今、僕は途方に暮れていた。

 これ以上どこへ調査の手を伸ばしたらいいの分からずその場で両手で顔を覆ってしまった。

 そんな僕を見てリアムは固い声色で言葉を発した。


 「殿下は婚約者を諦めるのですか?」

 「っ!?そんなわけないだろう!!」

 「こんなにも手がかりがない状況に、落ち込む気持ちも焦る気持ちも理解しているつもりです。ですが殿下が立ち止まって貴方の婚約者が救えますか?以前殿下が仰ったように、本当に婚約者が助けを求めているのだとしたら、彼女を助ける事が出来るのは貴方だけなのではないでしょうか?」

 「……」

 「厳しい事を言うようですが、俺の婚約者じゃない。助けを求めている彼女は、殿下の婚約者です。そして殿下、貴方が彼女を助けたいのでしょう?」


 リアムにもっともな事を言われ、僕は何も言い返す事ができなかった。だって本当にその通りだと思ったから。クラリスが助けを求めている事も、彼女を助けたいと思っている事も全部僕がそう思ってる事だった。


 「ああ、僕がクラリスを助けたいんだ」

 「じゃあ落ち込んでいる暇はありません。貴方が助けたいと言うのなら俺は全力で協力します。それに今回の件はきっと何かカラクリがある筈。それをみつけない限り俺達に勝ち目はないでしょう」


 僕の返答を聞いて力強い笑顔でそう言ったリアムは、すぐに次に調べる場所と人物の話を始めた。

 僕にはこんなにも頼りになる協力者がいる。だからもう落ち込んだりしない、僕にはそんな時間はないんだ。


 「リアムありがとう。僕はもう迷わない」

 「俺は何もしてないですよ。さあ一緒に頑張りましょう」


 それから僕達は次の調査先の選定や、リアムがクラリスとどう接触するかを夜が明けるまで話し合った。


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