それはあまりに突然に①



 いつものように学園での授業を終え、クラリスを寮まで送ろうと思っていたのに、今日に限って彼女は先約があるらしく、寮までエスコートする事を断られてしまった。

 僕はこれから公務の為、このまますぐに王城に戻らなければならない。泣く泣く迎えの馬車に乗り込み、すぐに先ほどのクラリスとの会話を思い返した。


 「先約?」

 「ええ、ひとつ下の学年に在籍しているマリー様が、どうしても相談に乗ってほしい事があるそうなの」

 「クラリスにそんな名前の友人なんていたっけ?」

 「先程声を掛けられて、その時初めて話したわ。ルイ、彼女“清掃”のギフト持ちなのだけれど、祝福の事で彼女のご両親と折り合いが悪くて悩んでいるみたいなの。この学園も高位貴族が在籍している場合はその学生が取りまとめる決まりでしょう?だから今日は寮まで一緒にはいけないの、ごめんなさいね。……もう、ルイったらそんな顔しないで。私だって寂しいと思っているわ」


 少しの時間でも共に居られると思っていた僕はクラリスに予定があった事に大いにショックを受けたし、寂しいと感じてしまった。

 それがあからさまに顔に出ていたのか、クラリスは僕を気遣うように言葉を発した。

 妃教育が進むにつれクラリスの態度が僕よりもずっと大人になってしまって、時々とても寂しく感じるのは僕だけなのだろうか。

 

 「クラリスが頑張っている事は十分すぎるくらい分かってるつもりだよ。でも今日はこの後公務で王城に戻らないといけないから、これ以上共にいられないと思うと複雑なんだ。ねぇ、その相談、僕も一緒にいたらダメかな?二人で話すんだろう?やっぱり心配だよ」

 「相手は同姓のご令嬢よ?何かあるはずないわ。それにこの学園の警備が厳しいのはルイが一番よく知っているでしょう?」

 「それは、そうだけど……顔見知りじゃない相手と二人きりなんて僕は心配だよ」

 「ルイ……私だってあなたとずっと一緒にいたと思うわ。でも学園を取りまとめるのも次期王太子妃としての務めなのよ。それに何かあれば護衛もいるもの、心配ないわ」

 「うぅ。分かったよ、でも心配なのは変わらないから、人気のない所には行かないでね?」

 「ええ、約束するわ。明日の朝、また寮まで迎えに来てくれる?」

 「もちろんだよ、必ず迎えに行く。あー、何で今日に限って公務が重なるんだろう……」

 「ルイったら」

 「ごめん、冗談だよ。じゃあクラリス。絶対一人にならない事。いい?約束だよ?」

 「ええ、約束するわ。ルイも気を付けて王城まで戻ってね」

 「ああ、じゃあまた明日」

 「また明日」



 クラリスとは反対の方向へ向かう為足を進めたが、ふと僕はクラリスの方を振り返った。

 彼女の言う通り次期王太子妃として、この学園の女生徒を取り纏めるのも彼女の大切な役割だ。それは分かっていても、普段交流のない生徒と突然の二人きりの相談というのは不安が残る。

 例えそれが、『警備が厳重な学園内であっても』、だ。

 言い知れぬ不安を覚えた僕は、近くにいた護衛の一人にクラリスの護衛に付くように伝え、その場を後にした。

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