幸せはどこ?・シャーロット視点④
「シャルは今の生活で満足しているの?僕には毎日が退屈で、とてもじゃないけれど楽しいと感じた事はないよ」
「目の前の幸せを気付けない人間は何を得たって同じだと思うわ」
そんなライアンは年の割に酷く大人びていて、常に物事を客観的に見ている節があった。
それでいて時々、ふとした瞬間に寂しそうに笑う彼に、わたくしが心を砕くのも時間の問題だった。
それにライアンにだけは前世の記憶の事も正直に話す事が出来たから。
最初は笑われるか呆れられるかだと思っていたのに、彼は最後まで興味深そうに話を聞いてくれた。
だからついつい話過ぎてしまい、気づけば自然に初恋の事まで口にしてしまっていた。
今ではきちんと思い出として昇華出来ている。
だからこそ笑い話として、ライアンに話したつもりだった。
ずっと真剣に、それでいて興味深そうに話しを聞いてくれていたライアンが、ふとわたくしの顔をまじまじと見つめてきた。
「ちょっと、今のは笑う所なんだけど」
「……」
「ねえライアン、一体どうしたの?」
こちらをじっと見つめたまま微動だにしないライアンに、わたくしは微かに苛立つ気持ちを隠す事もせず、口を開いた。
「ちょっとライアン。何か言ってくれてもいいじゃない!さっきからどうして固まっているのよ」
「……ねえシャル。もしも僕が、君のその初恋を叶えてあげられるとしたらどうする?」
そのあまりにも真剣な眼差しと、突拍子もない発言にわたくしは彼の真意を図りかねた。
まるでわたくしの本心を探ろうとするようなライアンの眼差しを、受け止め続ける事が出来なかった。そして気付けば逃げるようにライアンから視線を逸らし、畳みかけるように口を開いた。
「……ライアン、わたくしをからかって遊ぶのはやめて。いくら貴方でも怒るわよ」
「からかってなんかいないよ。僕はいつだって真剣にシャルと接してるよ?」
「貴方にわたくしの初恋を叶える事なんて出来ない。殿下と婚約者のエイブリー様は、お互いを想い合っているの。わたくしが入り込む隙なんか一ミリもないわ」
「じゃあ、シャルは殿下を諦めるの?はっ、そんな事出来ないくせに」
「いいえ!わたくしはきちんとこの気持ちに区切りをつけているわ!何も知らないくせに分かったような口を聞かないで」
ライアンの口調に馬鹿にされているのだと感じたわたくしは、彼に向かってこれ以上踏み込まれないよう心のままに叫んだ。
でも目の前に座る彼の態度は変わる事なくいつもと同じ。
しかも更にわたくしを追い詰めるような事を、普段と変わらないのんびりとした口調で伝えてくる。
「シャルは全く気持ちに区切りなんか付けられていないじゃないか。現に今でも殿下を諦められずに心の中に澱として溜まってる。吐き出す先も、方法すら分からず、ずっとずっと一人で抱え込んでる」
「違う!!」
「いいや、少しも違わないね。ねえ、そんなに素直になる事がいけない事なの?少なくともシャルが今、素直に殿下への想いを口にしたくらいで困る人や苦しむ人はここにはいないよ」
「っ、わたくしは……」
射貫くようなライアンの視線に私はこれ以上言い返す事が出来ず、逃げるように視線を逸らした。
これ以上彼と目線を合わせていたらきっと取り返しのつかない事になる、そんな気がしたから。
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