幸せはどこ?・シャーロット視点⑤



 「ライアン、この話はもう終わりにしましょう。お互いにとって何の得にもならないわ」

 「……そう。じゃあシャルはこの先もずっと何もせずただ現状を指を咥えて見ているだけの負け犬って事だね」

 「負け犬なんかじゃない!貴方一体どうしたの?今日のライアンは明らかにいつもと違うわ」

 「そう?僕は至って普段通りなんだけど」

 「いつもと違って意地悪だし、それに普段はわたくしを傷つける事言ったりしないのに、どうして……」

 「どうして、か。僕はさ、シャルの本心が知りたいんだ。さっきだって何てことはない風に殿下への気持ちを語っていたけれど、本当は違うだろう?どうして自分を偽ったりするの?僕にはシャルが分からない。好きだという気持ちを隠す事すら難しいくせに、どうして偽ったりなんかするの?」


 心底分からないという表情のライアンに、出来るだけわたくしの気持ちが伝わるように、彼の手を取りそっと握りしめ優しく語りかけた。

 

 「知ってると思うけど、あえてもう一度だけ言うわ。殿下はエイブリー様という婚約者がいるの。婚約者同士、お互いを想い合っているのに、そこに部外者のわたくしが殿下を好きだと告白したらどうなると思う?そんなの余計な溝を作るだけだわ」

 「……」

 「ライアン。わたくしもういいのよ。それに、今のわたくしはエイブリー様と友人なの。二人とも大事に思っているのよ。だから、分かってくれるわね?」


 どうしても伝わって欲しくて、気付かぬうちにライアンの手を握る自分自身の手に力が籠っていた私は、慌てて手を離し早口で残りの言葉を続けた。


 「これ以上わたくしの話をするのはやめにしましょう。あ、そうよライアン。この前貴方が言っていた『祝福を使った面白い実験』について話をしましょう?」

 「……ああ、いいよ。『祝福を使った面白い実験』についてだよね。じゃあ話を始める前にひとつだけ質問させて。君は祝福って何だと考えている?」

 「え、そんなに真面目に考えた事ないわ。アルテナ様が人間であるわたくし達の生活が少しでも良くなるように授けて下さる能力ではないの?」

 「模範解答だね、それは」

 「じゃあ、正解が別にあるって言いたいの?」


 先程から勿体ぶるライアンにいい加減しびれを切らしたわたくしがイライラしていると、彼はこちらの態度には興味がなさそうに言葉を続けた。


 「シャルは頭が固すぎるんだよ。もっと柔軟に、広く物事を見ないとこの先いつか失敗するよ?」

 「さっきからライアンの言い方が難しいからじゃない!!貴方、わたくしに正解を教えてくれる気ないでしょ!?」

 「いやあるよ?でもすぐに答えを急かすのは関心しないな。もっと自分の頭で考えようとは思わないわけ?この先、相手に与えられた情報が全て正しいとは限らないんだよ。僕達が生きている貴族の世界って、相手を欺く事が美徳みたいな世界だし」

 「はいはい、もう分かったわよ。いつもの小言はこれでおしまいにしましょう。わたくしだってきちんと考えられるから。一先ず、続きを話してくれる?」

 「今、体よく逃げられた感じがする。はぁ、それでどこまで話したっけ?ああ、そうそう『祝福って何だと考えている?』だったよね。僕はさ、祝福って一見聞こえも内容も素晴らしいんだけど、実際は違うんじゃないかって考えているんだ」

 「どういう事よ」

 「んー、シャルにも分かるように伝えると、祝福は果たして本当にアルテナ様からのギフトなのか?って事」

 「この世界の人間は、皆アルテナ様から授かった祝福をギフトだと思って大切にしているわ。それに現に祝福を悪用した人間は、皆悲惨な最後を遂げているじゃない」

 「あー、僕の言い方が悪かったね。前提として祝福はアルテナ様からのギフトだと思う。そこに異論はないよ。だけどアルテナ様の考える幸福と、僕達人間が考える幸福は必ずしも合致しないのでは?って話」

 「ますます分からなくなってきたわ」


 ライアンの話す内容が難しすぎて、わたくしはだんだんと頭の中が混乱してきてしまっていた。

 そもそもアルテナ様の考える幸福と、私達人間の考える幸福が違うって何?

 わたくしにはライアンの意図する事が全く理解出来なかった。

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