幸せはどこ?・シャーロット視点⑥
「シャルには少し難しいかな?もっと簡単に言うとさ、女神様の考える幸福と、人間の考える幸福には明らかに差があるって事なんだ」
「で、でもアルテナ様はわたくし達人間を想って、祝福を授けて下さっているのよね?」
「それはそうなのかもしれないね。でもさ、アルテナ様が望む幸福は明らかに人間としての範疇を超えていると思わない?」
「それはいくら何でも考えすぎじゃないかしら。だってこの世界の人達は今までずっと祝福を使って生活を豊かにしてきたのよ?そうして私達人間は繁栄を遂げてきた。その過程で多少の諍い(いさかい)はあっても、ずっと祝福に助けられてきたじゃない」
「表向きはね。でも祝福の中には禁忌とされた類のものもある、まさかそれを忘れてないよね?」
「それは分かっているわ。でも禁忌の祝福があるからと言って、アルテナ様との考えに差があるとは狭量すぎないかしら」
「禁忌に指定されている祝福の中には精神に干渉するものもある。それって人間の立場で考えた時に本当に人生の幸福に繋がるのかな?」
「そんな……」
ライアンの疑問が何を意図しているのかは分かったけれど、それでも彼の本心が測り兼ねた私は言葉を選んで慎重に言葉を紡いだ。
「精神に干渉する祝福がある事実も、それが今では禁忌に指定されて封印対象だという事実も知らないとは言わないわ。でもだからと言って、全ての人間が不幸になっているわけでもないじゃない。わたくしは祝福をアルテナ様からのギフトだと思うわ」
「それは祝福の恩恵を正しく受ける事が出来た人間限定の話だよ。全ての人間が祝福の恩恵を正しく受けられるわけじゃない。例えば精神干渉系の祝福を使われた被害者の人生は幸福だと言える?」
「そんなの言えるわけないじゃない。でもそれは使い方を間違えたり、たまたま被害にあったからでしょう?皆が皆、被害にあってその後苦しんでいるわけではないと思うわ」
「アルテナ様は、女神を名乗るならどうしてみんなを幸福にしてやらないんだ?そんな大層な名を名乗っているくせに、救済し幸福を与える人間は限定している」
「……」
「祝福って僕達の生活の大半を支えてくれているよね。でもさ今の僕達の使い方って、祝福の一部にしか過ぎないと思うんだ」
「一部?」
「例えば僕の祝福は“繕い”だけど、これはお針子の仕事をする人間にとっては欠かせない能力だろう?でもそれって本来の祝福のほんの上辺部分なんじゃないかって思うんだ。今のこの世界では、“繕い”の祝福の効力を正確に生かせていない気がするんだ」
「ライアンは他に使い方があるって言いたいの?」
「端的に言えばそうだね。だから僕、“繕い”がどの範囲まで影響を及ぼし、その効果を発揮するのか色んなもので試してみたんだよ」
「試すって……」
「“繕い”って言葉は色々な意味で使えるだろう?だから僕、考えたんだよね。この世界の人間が上辺でしか利用する事が出来ていない祝福の本当の価値を見つけたら面白いんじゃないかって」
ライアンの話す内容が、どうしてだかわたくしには恐ろしいもののように感じた。もしわたくし達が祝福の意味を正しく理解出来ていないのだとすれば、今現在使用が許されている祝福でさえも禁忌に指定されかねないという事なのだ。
「あくまで僕の持論だけど、アルテナ様の考える幸福って『何をしても目の前の幸せを掴め』って事なんじゃないかな?」
「何をしても掴めって……それじゃ犯罪に祝福を利用した人の末路と辻褄が合わないわ」
「確かにそうだね。じゃあどうして人間には明らかに不要な祝福でも、アルテナ様は授け続けるんだろうね」
「……」
「僕はさ、祝福って幸福を運んでくれるギフトでもあるけれど、一方では呪いだとも思ってるんだよ」
私が言葉を失っているとライアンはふと真剣な表情でこちらを見つめ、考え込んだ後ゆっくりと口を開いた。
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