対峙の時①



 今夜はいつも以上に煌びやかなパーティー会場となっている。

 正式な発表はこれからだとしても勘の良い彼らはきっと今夜の夜会の目的を察している事だろう。

 両陛下と共に僕が姿を現すとふとバルセル侯爵令嬢と視線が交わった。

 今日この場でクラリスとの婚約を解消し、新たにバルセル侯爵令嬢シャーロットとの婚約を結ぶ事を宣言する為の場であり、彼女は事前にその事を知らされているからか、いつも以上に浮足立っている様子に見えた。


 会場を見渡すと離れた場所にはチェスター子爵子息の姿もあった。

 案の定彼の横には、この数か月で随分見慣れてしまったクラリスの姿もあった。

 遠目で確認出来る彼女の姿に心が軋んだ。今夜のクラリスのドレスは、僕が送ったものではない。きっと彼女が、横にいるチェスター子爵子息に強請って送らせたドレスなのだろう。

 例え原因が分かっていても、心が傷つかないわけじゃない。

 何度同じ光景を目にしても、僕の心はいつだって初めて目にした時のような鈍い痛みを覚える。

 表面的な僕はいつだって笑顔を浮かべていても、心はいつも荒れ狂っている。でもそれも今日でようやく終わりを迎える。


 (クラリス……)


 「今宵は皆に王太子の婚約者について大事な話がある。詳しい話は我が息の口から直接話させよう。テオドア」

 「はい陛下」


 父上の言葉を合図に深く深呼吸をし、僕は一歩前へと足を踏み出した。

 集まった貴族達は今日僕が宣言する内容を告知されていなくとも学園でのクラリスの行動を知らない者はいない。

 新たに婚約者にバルセル侯爵令嬢が内定された事も言わずとも周知の事実だ。


 「ハミルトン侯爵令嬢、前へ」

 「はい」


 この時ばかりはクラリスもチェスター子爵子息を伴う事はなかった。

 こちらを見るクラリスの瞳には相変わらず一切の色がない。その事実に気付いている人間は一体この会場にどれ程いるのだろう。


 (……いや、いないだろうな)


 今ではクラリスの評判は地に落ちる所まで堕ちている。

 クラリスが皆の手本だった時はあれ程群がっていた人間も、今のクラリスに旨味がない事は明らかだからか、彼女の周りにいるのはあのチェスター子爵子息だけだ。

 その状況が余計クラリスを救い出す事が出来なかったのかと思うと、自分の不出来さに含めて激しい怒りが沸いた。


 「呼ばれた理由は分かっているかな?」

 「ようやく婚約を解消していただけるのでしょうか?」


 ツンと澄ましたクラリスの態度に既に心が折れそうになるけれど、それでも僕は話を続けた。


 「まずはこの数か月の君の態度を振り返ってみるのはどうかな」

 「私はようやく婚約を解消ないし、破棄していただけるかと思ったのですけれど」

 「……ひとつ聞かせて欲しい。それは君の本心か?」

 「ええ、もちろん。本心からですわ」

 「そうか、君の気持ちはよく分かったよ」

 

 そう僕が言ったと同時にクラリス、バルセル侯爵令嬢、そしてチェスター子爵子息の近くに控えていたリアムの部下が現れ三人を拘束した。

 

 「っ!?殿下何をなさるのですか!!」


 突然の拘束にクラリスは激しく抵抗を見せた。そして離れていたチェスター子爵子息へと手を伸ばし力いっぱい叫んだ。


 「ライアン様!!」


 その痛ましい姿を見ても、僕が拘束を解く指示を出す事はない。

 すぐに目くばせをし、僕の傍へとリアムが控えた。それを確認し僕は会場で困惑の声を上げている参加者へ向け口を開いた。


 「学園でのハミルトン公爵令嬢の噂は、ここにいる皆の知るところだと思う。実は突然変わってしまった僕の婚約者に、禁忌の祝福を施していたものがいる事が分かった」


 僕の宣言を聞き口々に一体どういう事なのかと、困惑した様子で囁き合っている姿が目に入ってきた。それでも僕は構わず話を進めた。

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