対峙の時②



 「君は僕の言っている意味を理解しているよね、チェスター子爵子息」

 「……殿下の仰る意味も、この僕が置かれている状況にも全く身に覚えがありません」

 「あくまでもシラを切るつもりなんだね。ならばリアム、遠慮せずやってくれ」

 

 僕の掛け声と共に傍に控えていたリアムは部下の一人に命じ、クラリスに対し“繕い”の祝福を使った。

 僕も今回の件で祝福に対する見方が大きく変わったけれど、“繕い”、その言葉だけを切り取るのではなく、もっと広い目で祝福を視る必要があったのだ。

 “繕い”と言葉ひとつだけでは裁縫など針仕事を連想させるだけだったが、言葉をもっと深く見つめる必要があった。

 だから僕もリアムも祝福に関する考え方を根底から覆す事にしたのだ。祝福が持つ力がどこまで影響を及ぼすのかを知る為に。

 その結果、祝福のひとつである“繕い”は、針仕事だけではなく補正や復元といった効果があることがわかった。


 この効果により魅了に犯された状態から、犯される前のクラリスへ復元、つまり魅了の効果をなかったことにしたのだ。

 祝福を使われその場に崩れ落ちるクラリスに素早く駆け寄り、彼女の細い身体を抱き留める。


 「クラリス、もう大丈夫だから」


 対するリアムは神官と共にチェスター子爵子息へと近づき、彼の祝福を調べる為、祝福検査を施した。

 今日この場には祝福管理局の人間以外に、神殿の神官も複数人呼んでいる。これ以上彼が言い逃れの出来る状況などどこにもなかった。


 「君がクラリスに“魅了”の祝福を使い、錯乱状態にした事はこれではっきりした。これだけ君のした事が露呈してもなお言い逃れをするかい?」

 「ふふっ……あーあ。やっぱり上手くいかなかったかぁ。途中までは確かに手ごたえがあったんだけどな」

 

 笑いながらこの場にそぐわない口調で話始めたチェスター子爵子息は暴れる様子もなく淡々と言葉を続けた。


 「クラリス様は丁度良かったんですよ」

 「……丁度いい?」

 「僕が“魅了”の術者だと突き止めたという事は、殿下は僕達の関係もご存じなんですよね?」

 「君とバルセル侯爵令嬢の事か」

 「やっぱり知ってるんだ、なら話は早いですね。僕は純粋に、祝福の利用方法に疑問を抱いていたんです。だって使い方を誤ってアルテナ様から罰せられるからと言って、正しく祝福を理解しようとしないこの世界のあり方に疑問を持ちました。だからエイブリー様を使って実験する事にしたんです。彼女はシャルの友人だった、動機はそれだけですよ。丁度いい実験体がそこにいる、探究者としては試さない理由はありませんからね」

 

 あっけらかんと話すチェスター子爵子息には、己が犯した重大な罪の意識というものを微塵も感じられなかった。


 「君は自分の探求心だけで、無関係なクラリスを巻き込んだのか?」

 「無関係だったのは認めますけど、何事にも犠牲は必要でしょう?ただエイブリー様に限っては激しく抵抗されたので、今僕が出来る最高の強さで“魅了”を施すしかなかったんです。だって自我があると色々面倒でしょう?」

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