第25話 戦場
「……よし、転移は大丈夫みたいだな。リーベラのほうは大丈夫そう?」
「はっ! 妾も体調は問題ありません。それにしてもこれが転移魔法ですか。本当にすごい魔法ですね!」
「確かに転移魔法はすごいよな。伝説的な魔法と呼ばれるのも分かる気がするよ」
リーベラと一緒に俺が以前にスキルや魔法を検証した草原へとやってきた。ここから空を飛んで人族と魔族が戦争を行っている場所へと移動する。
改めて考えると転移魔法って便利すぎるよな。一応結構な魔力を消費すると聞いたのだが、俺にはそんな感覚はほとんどない。昨日転移魔法を検証したが、20人を同時に転移した辺りでさすがに多少の疲労感を感じた。
しかしそれもすぐに回復したことを考えると、俺の魔力量と魔力の回復量は常識的な量を超えているようだ。魔王の力はチート過ぎるよな。
「それじゃあここからは空を飛んでいくよ」
「はっ!」
風魔法で空へとゆっくり浮かぶ。リーベラのほうは背中から大きなドラゴンのような翼が生えてきて、それをバサバサと上下することによって空を飛んでいく。
「リーベラ、それくらいの速度で頼むよ。あんまり速すぎると俺がついていけないから」
「はい!」
たぶんもっと速度を出そうと思えば出せると思うのだが、その場合俺は間違いなく嘔吐する自信があるぞ。身体能力はかなり上がっていても、オッサンの三半規管はそこまで強化されていないっぽい。
「……というかそんなに俺に畏まった口調をしなくていいんだぞ。むしろもっと砕けた口調のほうが助かる」
空を飛びながら、俺が嘔吐しないギリギリの速度で戦争の最前線を目指している。
そんな中で俺からリーベラにひとつ提案をする。
「い、いえ! 魔王様にそんな口は聞けません!」
「まあ無理にとは言わないけれどさ。デブラーとリーベラはもう俺の素の言葉遣いは知っているわけだし、本音を言うと2人といる間くらいは俺も少し気を抜きたいんだよね」
魔王軍四天王や幹部達といる時は常に魔王黒焉鎧を身に纏い、魔王っぽい口調をしているが、中身は普通のオッサンだから肩が凝って仕方ないんだよ。2人といる時くらいは普通に話をしたい。
「う……そ、それではジン様とお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「………………」
おっと、そうきたか。まあ名前で呼ぶのも砕けた感じではあるからな。
「あ、あの! やはり魔王様とお呼びします!」
「いや、名前で呼んでくれるほうがいいな。まあ急には難しいだろうけれど、口調のほうももっと適当でいいからな」
「は、はい!」
四天王とはこれからも長い付き合いになりそうだし、友好的な関係を築いていきたいところだ。
「どうやらまだ戦闘は始まっていないみたいだな」
「ええ。ですがもうそろそろ始まるかと思われます」
風魔法で飛ぶこと約30分。人族と魔族が争っている戦場へとやってきた。朝早くから魔王城を出ていたおかげで、まだ戦闘は始まっていないようだ。
「……しかしこれは酷いな」
今はまだ戦闘が始まっていないため、人族側と魔族側で左右に分かれて陣を張っている。そして両陣営の間には、昨日以前の戦闘で亡くなったと思われる死体があちこちにあった。
四肢がちぎれていたり、内臓が飛び出していたり、槍や剣により身体を貫かれていたりと、人族と魔族関係なく無残な死体が山のように積み重なっている。
空からでは死体がそこまで鮮明に見えないのは幸いだった。もしもまともに人の死体なんか見たことない俺があれを間近で見たら耐えられなかったかもしれない。
「やはり魔族陣営が押されているようですね……」
「そうなのか」
俺にはどちら側が優勢なのかよくわからない。
確かに戦闘員の数は魔族のほうが圧倒的に少ないが、個々の強さは魔法を得意とする魔族のほうに軍配が上がる。しかし人族にはそれを補う装備に戦略、そして何よりその人数によって戦力の差を覆しているらしい。
いくら魔法を使うことができてもその魔力は無限ではない。魔法に長けた魔族に対する戦術として、人海戦術による消耗戦が有効のようだ。
じわじわと体力と魔力を奪っていき、疲弊しきったところで総攻撃を仕掛けるのが魔族に対する人族の戦い方らしい。反対に魔族側はそれまでに敵陣営を落とすことが求められるわけだ。
「魔族陣営のほうは疲弊しているようです。このままでは少しまずいですね」
「まずはこちらの陣営のほうに魔王が来たということを伝えよう」
「はっ!」
戦場に降り立った途端、人族と間違われて味方である魔族側からも攻撃を受けたらたまったものではない。
「これは魔王軍四天王のリーベラ様ではございませんか! みなのもの、リーベラ様が来てくださったぞ!」
「「「うおおおおおお!」」」
魔族陣営に降り立つとすぐに魔族陣営のお偉いさんがいる場所に通された。どうやら俺が思っているよりも魔王軍四天王のリーベラの名は大きいらしい。
……特に女性で露出の多い服を着ているリーベラは目立つもんな。一気に大歓声が上がり、魔族側の士気が上がったぞ。
「ところでリーベラ様、そちらの者は?」
こちらの陣営の指揮官である腕が4本あって赤黒い肌の色をした巨体の男が俺のことを指さす。ここは最前線であるので、まだ魔王である俺が召喚されたことを知らない。
「みなの者、喜ぶがいい! このお方は魔王様である! この戦い妾達の勝利である!」
「「「………………」」」
残念ながら歓声は上がらなかった……
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