第37話 食料調達


「さて、それでは今後についてだな」


「はっ! 昨日はお疲れさまでした。魔王様のおかげで、戦況が悪かった地域での戦闘も無事に落ち着きました」


「さすがは魔王様です!」


 翌日、また改めて魔王軍四天王を部屋に集めて、今後のことについて話し合うことになった。


「……っち、多少は認めてやる」


「まさか、たった一日で戦争状態にあった地域をすべて抑えるとはさすがでございます」


 どうやらジルベもルガロも多少は俺のことを認めているらしい。まあジルベの口調は今に始まったことではないから気にしてはいない。


「デブラー、今後の人族はどのような出方をしてくると予想する?」


「はっ! まずは昨日魔王様の見せた圧倒的な力がすぐに人族の連合国本部へと伝わっていくかと思います」


 現在は魔族と人族で戦争を行っているが、人族も一枚岩というわけではない。人族側には多くの国があり、その国々が連合国となって魔族と戦っている。


 昨日いろいろな戦地を巡って戦闘を止めたが、それぞれは別々の国であった。ちなみに魔族側はこの国ひとつしかない。もちろん地域によっては小さな独自の集落や国なんかもあるみたいだ。


「そしてそのあとすぐに魔王様の討伐部隊が組まれると思います。当然その中心となるのは前魔王様を倒した勇者となるでしょう」


「我が提案している停戦協定が受け入れられる可能性はないか?」


 今回圧倒的な力を見せつけた人族達に対しては魔王の力を伝えるとともに、俺がこの戦争の停戦を望んでいることも伝えたはずだ。うまくいけば、これで停戦協定を結べないだろうか。


「まずないかと愚考いたします。新しい魔王様が現れたとはいえ、未だに戦況は人族が圧倒的有利な状況であるため、停戦協定を受け入れる可能性はほぼないかと」


「なるほど……」


「人族側が停戦協定を受け入れるとすれば、魔王様が勇者を討ち破った時かと思われます。魔王召喚の儀と同様に勇者召喚にはなんらかの大きな代償が必要となるはずです。今回召喚された勇者が敗れたからといって、すぐに新たな勇者を召喚するということはありません」


 やはり今の状況で人族が停戦協定を受け入れるには勇者を倒す必要があるらしい……


 嫌だなあ……勇者はいつでも魔王の天敵だと相場は決まっているのに……


 しかしまあ、その勇者を倒したら次の勇者が現れるとかいう事態はない可能性が高いらしい。


「けっ、それならさっさとこっちから攻めていこうぜ。人族の街を次々と襲えば勇者のほうから出てくんだろ!」


「ジルベ、魔王様はそれをしないと言っているだろう」


「ちっ、今まで奪われてきたものを取り返すくらいはいいだろうが」


「……そうだな。今回の件でこちらの意図は伝えたはずだ。人族がもう一度攻めてくるようなことがあれば、攻めてくる度に人族の領地を奪ってもいいかもしれないな」


「なるほど。攻めれば攻めるほど領地を失うのであれば、敵も攻めようなどとは考えなくなるかもしれませんね」


 ルガロの言う通りそういうことである。もちろん人族を害したりはしないがな。


「まだるっこしいな……さっさと戦場に戻りてえぜ」


「ジルベには食料調達を任せる予定だ。人族によって捕虜にされていた魔族も戻ってきたことだし、今後のことを考えても食料をできる限り用意しておきたいからな」


 もともとジルベは戦争の最前線にいたのだが、魔王召喚の儀を行うために一時的に魔王城までやってきていた。現在は戦闘を行っている場所がないから力を持て余しているに違いない。


 デブラーと相談をして、魔物を狩る食料調達を任せる予定だ。今後のことを考えても食料調達は必須だからな。


 それにジルベやルガロに言う気はないが、人族の簡易宿泊所に集めた人族の食料も確保しておかなければならない。現在も畑を作っているが、すぐに収穫できるわけではないしな。


「……まあこの城にいるよりも魔物を相手にしているほうがマシか」


「食料調達も重要な仕事だ。ジルベの部隊が一番適していると他の者から聞いている。仮に人族との戦闘が再開した場合には食料物資は戦局も左右する、しっかりと頼むぞ」


「わかっている。しゃあねえな、そっちのほうは任せておけ!」


 多少おだてているような気もするが、食料調達は本当に大切な仕事だからな。あれだけ身体能力の強いジルベなら、巨大で大量の食料になる魔物も倒すことができそうだ。


「その代わりに、俺との戦闘訓練にたまには付き合えよ。癪だが俺とタメを張れるやつはほとんどいねえからよ」


「……ああ、考えておこう」


 俺としてはもうジルベとやりあうなんてまっぴらごめんだが、今後勇者や人族の強敵を相手にする場合には戦闘経験をもっと積んでおかなければならない。


 たとえ魔王のチートな能力があっても戦闘経験はまったく足りていないからな。ジルベやルガロとはすでに念話スキルを登録してある。それに転移魔法を使えば、移動に時間はかからない。


「とりあえず人族に動きがあるまでは、人族陣営側の情報集めと捕らえられた魔族の解放を進めていくとしよう」


「承知しました」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る