第38話 街へ潜入
「さて、それではいくぞ」
「はい、魔王様」
「ここではジンと呼んでくれ、ルーガ」
「失礼しました、ジン様」
「………………」
俺の目の前にいるのはローブを着た人族の魔法使いに見えている四天王のルガロだ。変装の魔法が使えるようで、その青い肌は肌色になり、頭から生えていた角は完全に見えなくなっており、どこからどう見ても人族にしか見えない。
しかもどこからどう見てもイケメンなんだよな……
無駄なトラブルを招きそうなので、普通の容姿のほうがいいと思うのだが、肌の色や角を見えないようにすることはできても、骨格を変えたりはできないらしい。
「それではまずは情報収集からだ。この街にいる魔族は我のほうで探す。この街の領主のいる場所と人族と魔族の戦争の状況についての情報収集を頼む」
現在はルガロと一緒に人族の街へとやってきている。俺ひとりで先に街へ入り、そこから人気のない場所で一度魔王城へ戻り、転移魔法でルガロと一緒にもう一度街の中に転移してきた。
一番の目的は捕虜になっている魔族の救出で、ついでに現在の人族の状況を確認しにやってきたわけだ。
「承知しました」
「くれぐれも騒ぎは起こさないようにしてくれ」
「はい。昔は何度か人族の集落に潜入したこともあるので大丈夫です」
「うむ。何かあれば念話スキルで連絡をいれるように」
「承知しました」
ルガロは昔人族の集落へ潜入してスパイのような仕事をしていた時期もあったらしい。人族を恨んではいるが、ジルベと違っていきなり暴れだしたりはしないだろう。
何かあればすぐに念話で連絡できるのも非常に便利だ。問題が起こったらすぐにルガロと合流して転移魔法でこの街を脱出する予定だ。まあ俺とルガロがいて問題になるなんてことはないとは思うがな。ぶっちゃけた話、俺ひとりでこの街を制圧することも可能だ。
「しかし、空を移動できないとなると、街全体を調べるのはだいぶ時間がかかるな……」
昨日は風魔法で街の空を飛んで魔族を探したから早かったが、今は街の人達から変に思われない程度の速さで走っているから時間がかかってしまう。
人族側がなんらかの反応を起こす前に多くの捕虜となった魔族を助け出したいから、できる限り急ぐとしよう。
「よし、これで把握できた。この街にいるのは全部で7人か。念話スキルを使ってと……」
『ルガロ、聞こえるか?』
『はい、魔王様。聞こえます』
『この街にいる魔族の数と位置は確認をした。領主の位置は確認できたか?』
『はっ! 領主の屋敷はすでに確認しており、屋敷内にいることも確認できております。現在は酒場にて情報を集めております』
さすがだな。隠密の魔法とかを使えると言ってはいたが、本当に人族の街でいろいろな情報を集められるのか不安だったが、問題なかったようだ。できる部下を持つと仕事が早くて助かる。
『よくやってくれた。情報収集は切り上げて一度合流するぞ』
『はっ! ありがたきお言葉です!』
「……さて、屋敷の中には領主の他にも人はいるが、面倒な騒ぎは起こさずにさっさと領主へ会いに行くとしよう」
「はっ!」
気配察知スキルで領主がいるという大きな屋敷の中を確認をすると何人かの人影がある。領主と思わしき人の気配があるのは2階で、2人ほどの人が一緒にいる。
転移魔法でルガロと一緒に屋敷の2階へと転移して領主がいる部屋の真上に移動する。
「んなっ!?」
「な、何者だ!?」
できるだけ音を立てないように屋根を破壊して、領主がいる部屋の中に無理やり入る。ひとりは剣を携えており、突然乱入してきた俺とルガロに剣を向けてきた。
「うぐっ……!」
「がはっ……」
魔王威圧スキルを弱めに発動して、相手の戦意を挫く。
「まずは落ち着いてもらおう。こちらに戦意はない、
「こ、交渉だと……!?」
まあ禍々しい鎧を着た怪しい男が、いきなり領主の部屋の屋根をぶち壊してきて交渉もクソもない気はするがな。
「き、貴様は何者だ!?」
こいつがこの街の領主の男か。歳は40代くらいで、顎髭を生やしている。今までいくつかの街の領主を見てきたが、恰幅が良くて高価そうな装飾品や宝石を身に付けた男が多かったが、この男はそこらへんにいる普通のオッサンに見えるな。……オッサンと一緒だ。
「我は魔王だ。すでに我の噂は聞いているのではないか?」
先ほどルガロが集めた情報によると、すでにこの街にも新しい魔王が現れたという情報が広まっていたらしい。街で広まっているのなら、当然街の領主であるこの男もある程度の情報を集めているはずだ。
「……なるほど、おまえがここ最近暴れまわっている新しい魔王か。剣を引け、どちらにせよこの者を倒すことはできん」
「物わかりがよくて助かるぞ」
魔王威圧スキルを解除する。この領主は俺について多少知っているらしい。
「りょ、領主様! こやつから離れてください!」
「よい、おまえ達はそれほど騒ぐな。この者達がやろうと思えば、私達はとっくに殺されている」
「うっ……」
「さて、新たなる魔王殿、交渉と言っていたな。話を聞こうではないか」
「………………」
突然現れた魔王という侵入者に対しても平然とした態度で接してくる領主。
だいぶ肝が据わっているな。
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