第36話 今後のこと
「……さすがに疲れた」
魔王城のとある一室。魔王である俺のために用意してもらった部屋である。
そして部屋にあるやたらと高級そうなベッドの上に鎧を着たまま突っ伏している俺がいた……
「一睡もせずに戦場を駆け巡ったのは少しやり過ぎたな……とりあえずはどこの戦場でも戦いを止めることができたのは良かったけれど」
ひとつ目の戦場の争いを止めて、街に捕まっていた魔族の捕虜を救い出して、今度は人族の捕虜をマドレがいる簡易の宿泊施設に届けたあと、そのままリーベラと一緒に現在も戦闘を続けていた場所を3つほど連続で巡った。
実際に戦闘をおこなっている現場を見てしまったら、一刻も早く他の戦場の戦いを止めたいと思えたので、休むことなく次の戦場へと移動していった。
結果としてはすべての戦場での争いを止めることができたが、実際の戦争の光景のそれは本当に酷いものであった。
「しかし、本当に凄まじい能力だったな……」
他の戦場ではすでに戦闘が始まっていたので、魔族側に撤退を指示したあとに、人族と魔族の間に無理やり障壁魔法と土魔法壁を作って戦場を強制的に分割させた。
そしてそのあとに人族の陣営にひとりで攻め込んで、魔王威圧スキルによって気絶させて捕虜とした。
その中には以前の街で見た炎帝のオーガスのような英雄と呼ばれていた相手もいたが、その相手すらも難なく拘束することができた。
魔王軍四天王であるジルベ達も圧倒できたわけだし、英雄と呼ばれていた相手が弱いというわけではなく、単純に俺の力が強すぎたということだろう。
「さすがに勇者は出てこなかったか……」
今回赴いた戦場に勇者はいなかった。どうやら圧倒的な力を持っているという勇者は魔王を打倒した後は戦場には出てきていないらしい。とりあえず勇者の情報についてはそれほど得ることができなかった。
単純に人族が圧倒的有利な状況に立った今は戦場に出る必要がなくなったか、前の魔王との戦闘で怪我でも負ったという可能性もある。できれば後者のほうがありがたいんだけどなあ……
「捕らえられていた人達を助けることができたのはいいけれど、回復魔法を使えないのがつらいところだ……」
最初の時と同様に攻めてきた人族の街にいた魔族の捕虜をすべて救い出したのだが、最初の街で助け出した女の子よりも酷い怪我をしていた者もいた。
この世界の回復魔法では、相当なレベルの使い手でなければ大怪我を治療することができないらしい。もしも俺が回復魔法を使えれば、瀕死の状態や欠損部位すらも治せてしまいそうなんだがな。
ただこれは魔族に限ったことではなく、魔族の集落で捕虜になっていた人族もの中にも同様に傷付けられていた人もいた。そっちのほうは転移魔法で移動してからリーベラの回復魔法で治療をしてもらった。
「とりあえず助けた魔族は魔族側の集落の人達に任せてきたし、人族のほうはマドレのいる簡易宿泊所に預けてきた。これでしばらく戦闘は起きないと信じよう」
助けた魔族は魔族側の集落で保護してもらい、集落の長には念話スキルによっていつでも連絡が可能だから、何かあったらすぐに連絡をくれるはずだ。
マドレも当然念話スキルによって連絡は可能にしてある。人族が逃亡しようとしたり、結託して何か反乱でもしようものなら、すぐに転移して人族を制圧することができる。
まあ元いた魔族の集落よりも環境は間違いなく良くなっているし、食事も十分にとらせて体罰などは与えないようにマドレ達に指示してあるので大丈夫だと思いたい。
そして今日1日であれだけの魔王としての脅威を示したのだ。さすがに今日明日中に攻めてくるような馬鹿はいないはずだ。
「起きたらまた人族の街に行って、捕虜になっている魔族と捕虜にしている人族の交換を交渉しないといけないな」
とりあえず寝て起きたら、まだ行ったことがない人族の街に向かって、人族との捕虜の交換をしていくとしよう。もちろん断る場合には無理やり魔族を攫って、そのあとに同じ数の人族を解放する予定だ。
今日見たお互いの捕虜の扱いを見ると、チンタラと交渉をしている暇はない。できる限り早く助けてあげたいところである。
それと魔族の集落にいる人族も早く簡易宿泊所に移してやらないといけないな。すでに人族の捕虜をできる限り害さないようにと通達を出してはいるが、魔族側の人族に対する憎しみは強い。早めに魔族から引き離してあげたほうがいいだろう。
「勇者や人族側の強いやつが出てくる前にできる限りのことはしておかないと。今は前の魔王を倒して残りの魔族を殲滅しようとしているが、新しい魔王が召喚されたとすれば、すぐにもっと大きな戦力を投入してくるだろうな」
それまでの間、捕虜になっている魔族をできる限り助けるとしよう。あとは人族側の戦力や勇者の情報を集めて、できれば現状の魔族の内政や食料事情なんかも調べておきたいところだ。
「まったく、オッサンにとってはやることが多すぎるぜ……いや、焦らずにひとつひとつ確実に進めていくとしよう」
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