第18話 説得方法


「ジルベとルガロの説得は2人に任せたいんだけどな」


「それは難しいかと……。我々が言ったところでジルベのやつは止められません。特に戦闘能力だけなら今はやつが魔王軍の中で一番強いですからな」


「ルガロでしたら妾と同格ですので、力での説得はなんとか可能かと存じますが、ジルベは妾達では難しそうです……」


 どうやらあのジルベを説得することが、魔王軍をまとめる一番の障害になるようだな。


 遠征軍の英雄である炎帝のオーガスを倒して魔族の子供達を攫ったことにより、すぐにあの街に人族が進行してくることはないと思うが、できるだけ早く魔王軍のほうをまとめておきたい。


「ジルベを納得させる方法はひとつでしょうな」


「……大体の予想はつくけれど、とりあえず言ってみてくれ」


「ジルベと1対1の決闘でやつを倒すことです。先代の魔王様もそうやってジルベを説得して魔王軍四天王に引き入れました」


 やっぱりかあ……あいつ決闘とか好きそうだもんな。身体能力めちゃくちゃ高そうだし……


 というか説得という名の肉体言語じゃねえか!


「妾達魔族は基本的に強い者へと従います。魔王という称号も一番強き者に与えられる称号でもあるのです」


 マジか……もちろん魔法も込みなんだろうけれど、魔族ってだいぶ脳筋な種族なんだな。まあ元の世界でも、昔は強ければ一番偉いみたいなところもあったから、同じといえば同じか。


 オッサンとしては肉体言語ではなく普通の言語で語り合いたいところだが、多分あいつと話し合うのは無理だろうな。俺が人族であったと分かったらすぐに殺そうとしてきたやつだし。


「というか命を賭けてまで俺が魔族のために戦う理由もないんだよなあ……よし、やっぱり子供達を連れて人族の来ない場所でのんびりと暮らすか」


「お願いします魔王様! どうか我々を見捨てないでください!」


「どうか魔王様、妾達をお助けください!」

 

 そう決意して立ち上がると、両足にデブラーとリーベラが縋り付いてくる。


「いや、だって無理じゃね? 前回はジルベが油断していたからいいけれど、真正面から戦ったらあんなやつに勝てる気はしないぞ」


 もしも鎧を脱いでおけばデブラーはともかく、リーベラの豊満な胸の感触を右足で味わうことができたな、とかくだらないことを考えているどこにでもいる小心者のオッサンだぜ?


 ここは小さな魔族の集落でも探して、狩りでもしながら子供達と一緒にのんびりと暮らすのが一番な気がしてきた。オッサンはここで魔族を助ける義理もないのである。


「いえ! あの時の魔王様のお力ならジルベにも絶対に勝てます!」


「我らも協力しますゆえ、どうかなにとぞ!」


「………………」


 正直な話、たとえあのジルベが相当強くても、勝負の途中に転移魔法で逃げ出すことは可能なはずだ。障壁魔法で数秒稼げれば、その間に転移魔法で離脱することができる。オッサンはしっかりと保身に走るものなのである。


 唯一の不安は俺が回復魔法を使うことができないことだ。大怪我を負ってしまった時が少し不安だな。そもそも魔王に回復魔法の効果があるのかも怪しいところだ。逆に回復魔法でダメージを負うなんてこともあるかもしれない。


 俺のスキルに関してもいろいろと一人では検証できないこともあるし、スキルや魔法に関して分からないこともある。この機会に2人に手伝ってもらうか。


「分かった、できる限りはやってみる。その代わりに2人も協力してもらうぞ」


「もちろんでございます!」


「お任せください!」






「おっ、3人ともだいぶ綺麗になったな」


「あっ、ジンさん!」


「ジンおじさん!」


「………………」


 あのあとリーベラとデブラーと一緒に俺のスキルや魔法の確認と基本的な戦い方を確認した。ジルベとの決戦は明日になる。2人からはお墨付きをもらったが、どうなることかだな。


 夜になってルトラ達の様子を見にやって来た。3人は水浴びをしてちゃんとした服を着せてもらっているため、街で捕らえられていた時よりもだいぶ身綺麗になっていた。


「ご飯はちゃんとしたものを食わせてもらったか?」


「うん! 今まで食べたご飯よりもおいしかった!」


「はい、お腹いっぱい食べさせてもらいました」


「……うまかった」


 どうやらリーベラの部下達はちゃんと3人の面倒を見てくれていたらしい。俺がリーベラとデブラーと話をしたり、戦闘の訓練をしている間は魔王城の外にある部下達の居住区で相手をしてもらったようだ。


「3人の面倒を見てもらって悪かったな」


「いえ、魔王様のご命令ですから。外におりますので、何かございましたら、すぐにお申し付けください」


 そういうと部屋の外へ出ていく。ちなみにあの人はリーベラの部下で、魔王軍の幹部らしい。


 あの状況で覚えてはいなかったが、魔王召喚の儀の際もリーベラと一緒にいたようだ。なので他のリーベラの部下の中でも、あの人だけは俺が人族であることを知っている。


「とりあえず今日はここで世話になることになった。もしかしたらこのまましばらくここでお世話になるかもしれない」


 ジルベに負けそうになったら別の場所に逃げる予定なのはまだ伝えないでおくとしよう。最悪俺に何かあったら、この子達の面倒を見てもらうようにリーベラには伝えてある。


「オッサンが魔王ってどういうことなんだよ?」


「ちょっといろいろとあってな。まあ追い追い説明していくとするよ。とりあえず今は通りすがりの魔王のオッサンだと思っていてくれ」


「通りすがりの魔王ってどんな話だよ……」


 アレクの疑問は最もだが、この子達にいろいろと話すのはまだ早い。


「あの、ジンさん。本当にいろいろとありがとうございます」


「ああ、昨日も言ったが、俺がやりたいようにやっているだけだ。だからルトラ達が気にする必要はない」


 この子達のためにも明日は頑張るとしよう。

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