第19話 決闘


「てめえ、よくもノコノコと俺の前に顔を出せやがったな!」


「……むしろ俺に一撃でやられたお前のほうがよく俺の前に顔を出せたな」


「んだと! 調子に乗りやがって、ブッ殺してやる!」


「待て、ジルベ。これは正式な決闘なのだ! 開始の合図があるまで攻撃することは許さん!」


「リーベラの言う通りである。これはお前の望んでいたことでもあるはずだ。説明が終わるまで待つがよい!」


 ジルベが決闘開始の合図を出す前に、俺の挑発に乗ったジルベが今にも俺をブン殴りに向かってきそうだが、それをリーベラとデブラーの2人がかりでなんとか止める。


 とりあえずジルベや他の者の前では強者の態度を取るようにしているが、本当に大丈夫かよ……


 普段強者の態度を取ったり、挑発なんかしたことがないから、挑発しすぎてしまったみたいだ。


 ここは魔王城の中で決闘を行う場所だ。どうやら魔族は力こそがすべてとまではいかないが、個々の戦闘能力を最重要視しているため、頻繁に決闘をおこなうらしい。……どこの戦闘民族だよ。


「それではこれより決闘をおこなう! 両者所定の位置へ!」


 いよいよジルベとの決闘が始まる。巨大な円状のリング中央に俺とジルベが立ち、審判役のリーベラとデブラーもそれに合わせて前に出る。


 そしてリングの周りには魔王軍四天王のもうひとりのルガロや、俺が魔王召喚された時にいた魔族の幹部達がこの決闘を見守っている。昨日中にリーベラとデブラーがこの決闘の場を準備してくれた。


 俺は人族だが、条件付きで魔族の味方をするというをデブラーやリーベラがすでにみんなに伝えている。しかしやはりというべきか、ジルベとルガロが猛反対したため、俺と決闘することになってしまった。


「ルールは単純明快! 勝敗は相手を戦闘不能にするか降参させるかのみ。反則事項はなし、自身の力であればなんでもアリである!」


 デブラーがこの決闘のルールを説明する。


 ……改めて考えても酷いルールだな。当然武器でも金的でもなんでもオッケーだし、相手を殺してしまってもオッケーだ。


 普通の決闘なら相手の立場や周りの空気を考えて、決闘でも相手を殺してしまうことはめったにないらしいが、今回に関してはジルベは本気で俺を殺す気で来るだろうな。


「この決闘に負けた者は勝った相手に従うこと! 例外は認めぬ!」


 魔族が決闘をする際には様々なものを賭けるが、今回は敗者が勝者に従う。シンプルにただそれだけだ。といってもあいつは俺を殺す気でくるだろうし、俺は今後のことを考えてもあいつを殺すことができない。


 とんだ縛りプレイだと言いたいところだが、どちらにせよ俺はあいつを殺す気なんてない。


 人を殺すということ、それはとても覚悟のいることだ。チートな力を労せず手に入れ、まともに戦ったことのないオッサンにはそんな覚悟があるわけがない。

 

「それではこれより決闘を執り行う! ……始め!」


「ケッ、変な鎧なんて着込みやがって! その鎧ごと串刺しにしてやるぜ!」


 俺のほうは昨日からずっと身に付けている魔王黒焉鎧スキルでできた漆黒の鎧と兜を身に付けている。対するジルベは武器や防具などは何ひとつ身に付けていない。


 リーベラとデブラーから聞いた話ではジルベは自らの肉体のみで戦う完全な脳筋タイプだ。しかし、そのシンプルな戦い方が最も彼に適した戦い方で、その戦闘能力だけで魔王軍四天王にまで上り詰めた。


「ブッ殺す!」


 開始の合図と同時にジルベが俺を目がけて一直線に突っ込んできた。


「くっ!?」


 前回と同じように、まるで走馬灯のように周囲のスピードが遅くなる。だが時間の流れが遅くなったこの世界で、ジルベのスピードは魔王召喚の時とはまったく違うスピードだ。どうやらあの時はまったく本気ではなかったらしい。


 ギリギリでジルベの攻撃をかわす。今回はカウンターを叩き込む余裕はなかった。なんとかかわすことができたジルベの鋭い右手の突き。だがその脅威は攻撃のスピードだけではない。


 銀狼族であるジルベの鋭い牙と長い爪。これこそがジルベが武器を必要としない理由でもある。昨日リーベラやデブラーの攻撃をほとんど防いだこの鎧でも防げるか分からない。


「ちっ!」


 ジルベはそのままのスピードで身を反転させ、もう一度俺に向かって突進してきた。


 しかし二度目ということと、先ほどと同様に一直線に突っ込んでくるだけだったため、今度は攻撃をかわしつつもカウンターの要領でこちらが攻撃を仕掛ける。


「ぐっ!?」


 思考加速スキルがないはずなのに、その反射神経と身体の強靭なバネにより、俺のカウンターを身をよじってかわすジルベ。やはり、前回は完全に油断していただけのようだ。


「ファイヤーバレッド!」


 間隙を縫って、こちらから火魔法を放つ。ファイヤーバレッド、この魔法は複数の火炎の弾丸を放つ中級レベルの魔法らしいが、魔王のチートな力でこの魔法を放てば、20発近くの大きな火炎弾が高速で敵を襲う。


「……ちっ、やるじゃねえか!」


 しかしその火炎弾は1発たりともジルベに届くことはなかった。驚くべきことにジルベはその20発の火炎弾をすべてかわしきった。やはりこいつの速さと反射神経はとんでもないものだ。


「そんじゃあ、こっちも本気で行くぜ! 銀狼なる力シルバーフォース


 ……しかもジルベの身体能力には、このさらに上があるんだよな、これが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る