第17話 戦争の理由


 人族の冒険者であるマルコ達にこの疑問をぶつけたところ、彼らは知らないと答えた。だが、魔王軍四天王で一番の知識を持つというデブラーなら、この答えを知っているに違いない。


「そういえばそちらをまだ説明しておりませんでしたな。300年前の戦争の発端となったのはによるものです」


「人族の裏切りか……」


「とはいえ、その頃は我もまだ今の魔王軍四天王という立場ではなく、一介のアンデッドでございました。ですので、この話は実際に我が見たものではなく、当時の者から聞いた話となります」


「………………」


 完全に骸骨だからもしやと思ったが、このデブラーとやら、300年以上昔から生きているらしい。ファンタジーの世界すげえな……


「当時人族と魔族の領地の境にウォルテアという国がありました。その国は小さいながらも人族と魔族が共存して平和に暮らしていたのです」


 確か戦争が起こる前は人族と魔族が共存していたと言っていたな。


「ですがある日、何の前触れもなく、突然その国に人族の軍隊が攻め入ってきたのです。そしてその国にいた魔族が皆殺しにされました。もちろん魔族も抵抗したようですが、突然の奇襲とその国にいた人族も襲ってきた軍隊に味方したようで、なす術はなかったようです」


「………………」


「当時の魔族達はその裏切りに当然怒り、人族の国や街を攻め始め、それに対して人族も応戦を始めましたこれが300年前より始まった戦争の起源となります」


 人族の裏切りか……


 たとえ始まりが人族の裏切りであったとしても、今となってはもはやこの長く続いている戦争を止める理由にはできなそうだ。もっとシンプルに魔族の宝を奪われたとかだったら、ある程度は解決する手立てもあったかもしれないのにな。


「……事情はある程度分かった。いくつか条件を吞むならば、協力しようと思う」


「本当ですか、魔王様!」


「どのような条件でしょうか!」


「それはだな……」


 俺が考えた魔族に協力する条件はいくつかある。


 ひとつ、俺が元の世界に帰還するために必要な魔鋼結晶を無理のない範囲で集めること。今すぐ元の世界に帰りたいということではないし、ルトラ達のこともあるが、一応は元の世界に帰還するための準備だけはしておきたい。


 ひとつ、できる限り人族を害さないようにすること。異世界とはいえ、相手にするのは俺と同じ人族だ。できる限り直接的な争いはしたくない。当然俺は本当に自分の身が危なくなった時以外、人を殺す気はない。


 ひとつ、この戦争の落としどころについては停戦協定を目指すこと。これだけ長く続いてきた戦争だ。たとえ俺が魔王の力を見せたところで、そう簡単に人族が降伏したり、この戦争をやめようとすることはないだろう。とりあえずは一度この戦争を止めることを目標とする。


 意外にもこれらの条件をリーベラもデブラーも吞むらしい。ひとつめはともかく、2つ目と3つ目の条件についてはなんらかの譲歩を要求されると思っていた。


 本音はどうか分からないが、その条件を呑んでもいいくらいに現在魔族は追いつめられているようだ。


「ですが魔王様ひとつだけ問題がございます」


「なんだ、リーベラ?」


「妾達2人は問題ないのですが、おそらく同じ魔王軍四天王であるジルべとルガロのやつは反対するでしょう……」


「我もそう思います。特にジルべは一族全員を人族に滅ぼされたため、人族に対する憎悪は普通の魔族以上です。人族を根絶やしにするまで、戦い続けようとするでしょうな」


 ジルべ……確か銀色の美しい毛並みをした大きなオオカミ人間だったな。真っ先に俺を襲ってきたやつだ。


 詳しい話を聞くとジルべの一族は銀狼と呼ばれ、その美しい毛皮は人族の貴族や権力者に人気があり、人族と魔族の戦争が始まってすぐに銀狼の一族は人族に狙われたようだ。


 今ではジルべ以外の銀狼はすべて滅んでしまったらしい。それを聞くと確かに人族は残虐な性格をしていると言われても返す言葉がない……


「もうひとりのルガロのほうは?」


 俺に向かって炎の魔法を撃ってきたやつだな。アレクと同じ青い肌をしていたが、あいつはそれに加えて頭から2本の角が生えていた。個人的には外見だけでいうと、彼が一番魔族らしいイメージだ。


「ルガロも一族とまではいきませんが、両親を人族に殺されております。やつも人族に復讐を考えておりますので、魔王様の条件には賛成しないでしょう」


「なるほどな……」


 アレクと同じで人族に強い恨みを抱いているか……確かにそんな状況で人族を殺さないなんて俺の甘い考えに従うとは思えない。


 というより、そもそも人族の俺を魔王として認めさせることすら難しいだろう。


「……お前達2人はどうなんだ? やはり家族や親しい人達を人族に奪われたりしたのか?」


「我の場合はそもそも家族すらおりませんでしたからな。同族は殺されてはおりますが、それはお互いさまです」


「妾は父親を人族に殺されましたが、戦争ですのでそれも仕方のないことかと……それよりも今はこれ以上魔族が虐げられないようにするほうが先決です!」


 魔族でもそれぞれいろんな考え方があるようだ。

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