第16話 戦争の状況


「……それにしてもすごい城だな」


 あのあと一旦子供達を魔王城にいた別の者に任せて、俺は魔王城のとある部屋に案内された。どうやら魔族の子供達を助けたこともあり、そこまで警戒されてはいないようだ。


 城の中には様々な種族の魔族がいた。俺とすれ違う度に思いっきり見られるのだが、この鎧はそんなにおかしいのだろうか?


 コンッコンッ


「魔王様、失礼します」


「入れ」


 部屋がノックされ、扉が開く。そしてリーベラと一緒にが現れた。


「魔王様、先日は大変失礼いたしました。改めましてデブラーと申します」


 自らをデブラーと名乗る骸骨。そう、こいつは俺が魔王召喚された時にあの場にいた魔王四天王のひとりだ。リーベラによると、俺が知りたい知識はこいつが知っているらしいので同席を許可した。


 とはいえこいつは俺を実験台にしようとした相手だ。用心しておくに越したことはない。


「……残りの2人には知らせてないようだな」


「はっ! 魔王様の仰せの通りに!」


 先ほどリーベラから話を聞いたところ、俺が魔王城を出た後、魔王召喚の儀については四天王および幹部の間での秘密にすることになったらしい。まあ魔王召喚をして人族を召喚してしまったとなるととんでもない不祥事になるからな。


 そして俺に倒された残りの四天王の2人は俺を探し出して殺してやると怒っているらしい。どうやら予想通り俺を侮って、本気で戦わずに敗れたことを根に持っているようだ。


 そんな中でのこのこと俺が魔王城にやってきたと伝えたら、間違いなく俺に攻撃してくるに違いない。


「それでデブラーといったな。まずは人族と魔族の戦争の現状を教えてくれ」


「承知しました!」


 このデブラーという骸骨はリーベラと同様に俺のことを魔王と認めているらしい。俺が出ていったあと、リーベラと相談して、何とかして俺を魔王として魔族側に引き戻そうと様々な策を考えていたようだ。


 俺が元の世界に帰るのに必要な魔鋼結晶を集めようとしていたらしいからな。実際のところどうなのかは分からないが、とりあえず知識は魔王軍一あるらしいので、話を聞くだけは聞くとしよう。


「まず魔族と人族との戦争は……」


 デブラーからこの戦争の話を大まかに聞いたところ、その概要はこんな感じだった。


 まず魔族と人族との戦争は300年も昔から始まったらしい。それより昔は魔族と人族で領地をはっきりと区切り、小さな小競り合いを起こしつつも、大きな争いにまで発展することはなかったようだ。


 魔族と人族で共存する国があったり、結婚する者がいるくらいには友好的な関係を築き上げてきたらしい。


 だが、300年前を境に戦争が始まってからの両種族の争いは次第に苛烈なものへと変わっていった。血で血を洗う抗争、敵にやられたら相手に倍返し、ひとりやられたら敵を皆殺しにと、この時点でお互いの種族の壁は決定的なものとなっていた。


 魔族と人族の戦いは長きにわたり、少しずつだが人族が優勢な状況へと移り変わっていった。魔族はほぼ全員が魔法を使いうことができるため、個々の力は魔族のほうが強いが、人族はその数と数を生かした連携により魔族を苦しめていった。


 しかし50年ほど前に魔族側にひとりの救世主が舞い降りた。その者は圧倒的な力を持ち、我が強く連携の取れていなかった魔族をまとめあげ、自らを魔王と名乗って魔王軍という組織を作り上げた。


 たったひとりの魔族の出現により、戦況は一気に魔族側へと傾いていった。これまで人族に奪われていた土地を奪い返し、劣勢だった戦況をひっくり返して均衡状態へと持っていく。勢いを考えれば優勢といっても過言ではなかった。


 だが、人族もただ黙っていたわけではない。5年ほど前に勇者召喚の儀により、異世界から勇者を召喚することに成功した。そして勇者の圧倒的な力により、またしても人族が優位な状況となった。


 そして1年前、起死回生の手段として魔王が勇者へ一騎打ちを申し込んだが、かの魔王も件の勇者には勝利することができなかった。


 魔王を失った魔王軍は完全に瓦解し、今まで以上に人族に追いつめられていった。そして最後の手段として魔王召喚の儀を執り行い、俺がこの世界に召喚されたというわけだ。


 


「……なるほど、こちらの世界もいろいろあったんだな」


「現在では魔王様のいない魔王軍はバラバラとなり、人族にまったく勝ち目のない状況なのです……」


「魔王様、どうか我らをお救いくださいませ!」


 リーベラとデブラーが片膝をついて俺に頭を下げてくる。オッサンは小市民だから頭を下げられても嬉しくはないし、土下座とかされても逆に困ってしまう派だ。


「事情はある程度呑み込めた。多少は魔族に協力してもいいと思っている」


「ほ、本当でございますか!?」


 あの魔族の子供達や他の魔族を見ても、生まれつき残虐な性格をしているとは到底思えない。それに昔は人族と魔族で共存していた時期もあったようだし、魔族を完全に排除するというこの世界の人族の考え方には賛成できない。


 もちろん人族と真正面から戦って殺すなんてことは絶対にしないが、多少協力してもいいとも思っている。


「ああ。もうひとつ聞きたいことがある」


 そう、今のデブラーの説明でこの戦争のことについてある程度は理解したが、これだけは聞いておかなければならない。


「300年前にこの戦争が起こった理由はなんなんだ?」

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