第21話 忠誠


「それまで! この決闘、魔王様の勝利とする!」


 決闘の決着がついたので炎焔葬送えんえんそうそうを解除した。周囲を焦がすほどの炎球がゆっくりと消えていく。


 ふう~どうやらなんとかなったようだ。しかしこの魔王の力は本当にチートだった。


 魔王黒焉鎧があれば、魔王軍四天王一の力と速さを誇るジルベを圧倒することが可能となり、魔法でもリーベラとデブラーを圧倒することが可能だった。


 本当に人族を滅ぼすことができてしまいそうだ。……いや、オッサンは絶対にそんなことしないけど。


「他にも俺に文句があるやつはいるか? いるならこのまま相手になってやるぞ!」


「「「………………」」」


 魔王軍四天王一強いというジルベとの決闘において圧倒的な力を見せつけてやったおかげで、今の俺に挑もうとする魔族はいなかった。


 ……というよりも絶対にいないと思って言っているからな。空気を読んで絶対に手を挙げるんじゃないぞ!


「……てめえは何者なんだ? その力は本当に人族のものなのか?」


 呆然としていたジルベが俺の目の前に立つ。だが、そこにはもう戦意はないようだ。


「人族だ。だがこの世界に魔王として召喚されて、この魔王の能力を手に入れたらしい」


「……人族なのに俺達魔族の味方をするのはなぜだ?」


「完全に魔族の味方をする気はない。正直な話、この世界の人族と魔族の戦争に関わる気はまったくなかったが、魔族だからといって子供まで容赦なく処刑しようとするこの世界の現状が気に入らなかっただけだ。


 とはいえ俺は人族だ。だから魔族のお前達に全面的に協力して、人族を皆殺しにするつもりもない。我はこの戦争の停戦を目標に動く。人族も魔族も可能な限り命を奪わず、この戦争を止めるつもりだ!」


 これが今の俺の本音だ。上っ面だけ魔族に味方をするよりもオッサンの本当の気持ちをはっきりと伝えることに決めた。


 可能ならば人族と魔族で協力し合い、共存して生きてもらいたいが、これほど長く続いた人族と魔族の戦争を簡単に止められるとも思っていない。この長い戦争の発端が人族の裏切りによるものならなおさらだ。


「今の魔族の状況はかなりまずい。人族である我を認めたくないだろうし、人族に復讐したい気持ちもあるだろう。家族や親しい者の命を人族に奪われたお前達の気持ちは、我には分からない。


 だが、今は生きている魔族の命を優先してくれ。人族への復讐よりも家族や親しいものを守るために、人族である我に協力してほしい」


「「「………………」」」


 さすがに厳しいか……たとえどんなに力があったとしても俺は魔族が憎んでいる人族だ。そんな俺に助力を求めるたくない気持ちは分かる。


「妾は魔王様に従うことを誓います!」


 静寂を打ち破ったのは凛として大きなリーベラの一声だった。


 そして俺の前に一歩ずつ歩み寄り、片膝をついて頭を垂れた。


「魔王様は妾達が勝手に行った魔王召喚の儀によって無理やり別の世界から召喚されたのだ。そして妾達は魔王様が人族だと分かるや否や、魔王様を殺そうとした。


 そんなことをした妾達を魔王様は寛大な心でお許しになり処刑されそうになった妾達同胞の子供達を救い、妾達を守るために戦ってくれると仰ってくれたのだ!


 今は人族への憎しみよりも、残った妾達の同胞を守るべきである! 妾は魔王様への忠誠を誓います!」


「我も今の魔王様に従う!」


 骸骨姿のデブラーもリーベラと同様に俺の前へと歩み寄り、片膝をついて頭を垂れた。


「今の我らに必要なものはなんだ? 前魔王様のように我らを導いてくださるその圧倒的なお力である! 現在、前魔王様を失った我ら魔族は勇者の力を前にただ滅亡を待つだけだ。


 そんな我らが藁にもすがる思いで行った魔王召喚の儀で圧倒的な力を持った魔王様が現れたのだ! 我はこの魔王様に賭けてみたい! 我も魔王様への忠誠を誓おう!」


 四天王のうちの2人が俺に跪いて忠誠を誓った。ぶっちゃけこの2人が従うことは打ち合わせをしていたが、かれらの言葉には力がある。本気で俺に忠誠を誓っているような思いが感じられた。


「どちらにしろ俺は決闘に負けた身だ」


 先ほどまで戦っていたジルベが両腕を組んでドスンとその場に座る。


「……てめえの力だけは認めてやる。人族ではあるが、別の世界の人間だからまだそれはいい。だがてめえにひとつだけ言っておく」


「なんだ?」


「もしも魔族を裏切って人族につきやがったら、俺がてめえを必ず殺す! 今回はてめえに勝てなかったが、どんな手段を用いてもてめえをブッ殺してやる!」


「………………」


 先刻敗北したばかりだった相手に対して、凄まじい殺気を放ちながら睨みつけるジルベ。その目はたとえ自らの命を引き換えにしても、必ず俺を殺すという強固な意志を感じた。


 ジルベは一族を滅ぼされた復讐のために戦っていると思っていたのだが、思ったよりも魔族全体のことを考えているようだ。


「ああ、いいだろう。だがその前に我のやり方に不満があるのなら、まずは正面から我に挑んでこい。他の者も同様だ。決闘ならいくらでも受けてやる! 他の者の前で自らの力を示してみせろ!」


 本当は決闘なんてもう二度と受けたくはない。だが、下手に決闘を拒んで暗殺や反乱なんてされたらたまったものではないからな。


 それならば、事前に相手のことを調べたり、準備ができる決闘のほうがまだマシだ。


 格好良いことを言ってみたが、頼むからオッサン相手に暗殺とか反乱とかは勘弁してくれ。

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