第41話 秘密の回線


「あ、あんたは何者なんだ……?」


「あの、私達は助かったのでしょうか?」


 あの街にずっと捕まっていたため、今の状況がまったく分かっていない様子だ。


「我は新たな魔王である。あの街の者と捕虜の交換をおこなった。のちほど魔族の集落へ送るから、しばし待つがよい」


「ま、魔王様!?」


「もうおひとりは魔王軍四天王のルガロ様よ!」


「ということは本物の魔王様……私達、本当に助かったのね!」


 当然俺のことは知らないらしいが、四天王のルガロのことは知っているようだ。


「ルガロ、しばらくの間この者達を頼むぞ」


「はっ!」


「サンドル殿、これで捕虜の交換は無事に完了した。少しだけ2人だけで話さぬか?」


 捕虜の交換は無事に終わったが、あのサンドルという領主の男とはまだもう少し話がしたい。彼は今まで会ってきた人族とは少し異なっていた。


 こちらが人族と魔族の戦闘を望んでいないということを察していたうえで、魔族である俺達と交渉をしたり、対等に話をしようとしてくれていた。


 俺がひとりで魔族と人族の中間の位置にまで行くと、周りの兵士達に止められているようだが、しばらくの間説得をして、こちらの要求通りひとりでこちら側にやってきた。


「ふう……待たせてしまってすまないな。彼らも私を心配して止めようとしてくれたみたいだ。まあ、魔王殿がやろうと思えば、無理にでも私だけを連れてくることなんて簡単だというのにね」


「……先の屋敷にいた者達もそうであったが、ずいぶんと民に慕われているようであるな」


 少なくとも無理やり力で他の魔族を従えているオッサンとはえらい違いだ。できれば俺もそっちのフレンドリーなほうがよかったな。


「できるだけ領民のことは気にかけてきたつもりではあるからな。まあ、貴族の連中には領民に甘くしすぎだと声を上げるものも多いが、私はこれでもい良いと思っている。それよりも聞くところによれば、魔王殿は人族の捕虜をずいぶんと丁重に扱ってくれていたようだね。


 それぞれの魔族の集落で酷い目に遭っていたらしいが、昨日人族だけの場所に移されて、もともな服や食事まで与えてくれたと話していたよ」


「たとえ今は敵同士であっても、できれば今後は共存していきたいと思っている。他の人族の捕虜も丁重に扱い、今後捕らえたり保護した人族も同様に扱うことを魔族の領域にあるすべての集落に伝えてある」


「なるほど……もしかすると、ふたりきりで話がしたいというのはその件についてかな」


「察しが良くて助かるぞ。今後サンドル殿の街で魔族を捕らえたり、魔族の奴隷が売られていた時には保護をしてほしい。当然対価はしっかりと払わせてもらおう」


「……魔王殿との取引か。他の国の者へバレたら大変なことになりそうだな」


「なに、対価と言っても今回のように人族の捕虜との交換でも構わぬ。捕虜同士の交換であれば、過去に何度でも行われている。もちろん魔族領でとれる貴重な品でも良いがな」


「……その際はぜひとも捕虜の交換でお願いするよ」


「くれぐれも我が同胞達を丁重に扱うことを期待しているぞ」


 まずは他の街と同様に魔族の保護を求める。そっちのほうは他の街でも問題なかった。


「それでは今後ともよろしく頼む」


 こちらのほうから右手を差し出した。


「そうだね。さすがに表立っていろいろと協力することはできないけれど、魔族の捕虜がいた場合にはできる限り丁重に扱うとしよう。今後ともよろしくお願いするよ」


 サンドルが俺の右手を握る。それによって俺の念話スキルの条件を満たしたこととなる。


『さて、勝手にだが我の念話スキルによって、サンドル殿と回線をつなげさせてもらったよ』


「っ!?」


 突然頭の中に俺の声が届いたため、一瞬サンドルの身体がビクッとはねた。


『お、驚いたね。まさか魔王殿は念話スキルまで使えるとは……というかこちらの心の声は届いているのかな』


『うむ。ちゃんと聞こえている。このスキルはそちらが心の中で念じれば、サンドル殿のほうからも我と連絡を取ることが可能だ。我が同胞を保護したら連絡をしてくれ』


『……念話スキルとはとんでもないスキルだね。実際に体験するのは初めてだよ。このスキルだけで戦闘能力がなかったとしても、戦場でおおいに役に立つスキルだ。了解だ、こちらで魔族を確認したら魔王殿に連絡をしよう』


『うむ、期待しているぞ。そしてもちろん、それ以外の我に有益な情報について連絡してくれて構わないからな』


『それ以外……まさか私に人族の情報を売れと?』


 おっと、俺の言いたいことをすぐに察してくれて本当に助かる。そう、俺は人族側に協力者がほしいというわけだ。


『もちろん人族を裏切れと言うわけではない。だが、もしもサンドル殿が少しでも魔族と人族の戦争を止めたいと思うのなら、ほんの少しだけ我に協力してほしいのだ』


『………………』


『我の念話スキルによる通話は他の誰かに聞かれる心配はない。人族側の情報を無理やり吐かせようというわけでもない。この長年続く無益な戦争をできる限り早く止めたいだけだ』


『………………』


『まあ、この場ですぐに答えることなんてできるわけがないだろう。今は頭の中にとどめておいてくれればそれでよい』


 むしろここですぐに協力するなんて言われても信じられない。その場合は罠だと判断する可能性が高い。


『それでは今日はここで失礼しよう。今後とも良き関係を築けることを祈っている』

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