第7話 戦争の現状


「……そういえば、なんで魔族との戦争が始まったんだろうね?」


 いや知らんのかい!


 魔族と人族で長い間戦争をしているのに、その理由を知らないのかよ!?


「ずっと昔から人族は魔族の敵だって聞かされていたからな。理由なんて知らねえぞ」


「そういえば私も知らないわね。でもうちのおじいちゃんは魔族に殺されたわ」


「僕の村でも魔族と戦って家族を亡くした人はいっぱいいたね」


 ……なるほど、どうやら永き戦いの末に、戦争が起こった当初の理由は分からなくなってしまったようだ。実際にそんなことって本当にあるんだな。


「たぶん爺さんの世代なら知ってんだろ。それこそ魔族なら長生きする種族も多くいるだろうし、そいつらに聞いてみたら手っ取り早いんじゃねえか?」


「おい、ジョナン! 馬鹿なことをいうなよ。ジンさんが本気にしたらどうするんだ」


「そうよ、馬鹿ジョナン! 魔族っていうのは本当に怖いやつらなんだからね!」


「わりい、わりい。ジンも冗談だから本気にすんなよ」


「ああ、大丈夫だよ。それよりも魔族っていうのはそんなに怖い相手なのか?」


 3人の話を聞くと魔族はよっぽどヤバい相手らしい。


「魔族は基本的に魔法に長けているからね。人族が10人に1人くらいしか魔法を使えないのに対して、魔族は全員が魔法を使えるらしいよ」


 確かに魔王城にいた四天王とかいうやつらはガンガン魔法を使ってきたな。もしも俺が普通の人間だったら一瞬で殺されていた。


「それに性格も残虐な性格のやつばかりらしいわよ。人を切り刻むのを楽しんで、人の生き血を美味しそうに啜るような連中らしいわ!」


 ……確かに俺を実験台にしようとしていたな。


 しかし、話を聞くとどうやらこの3人は実際に魔族にあったことはないらしい。


「その街が魔族達から進行を受けたことはあるのか?」


「昔は攻められたことがあったらしいけどな。その時は魔王とかいうヤベえやつが現れて、魔族を纏め上げ魔王軍を作りやがったんだ。だが今は人族が魔族を攻めているから、このあたりまで魔族が来ることなんてまずねえな」


「ええ! なにせ私達人族にはがついているからね!」


「………………」


 出ましたよ、勇者!


 やべえよなあ……どう考えても勇者って魔王の天敵だよなあ……


「ごめん、実は勇者様のことについても全然知らないんだ。勇者様についても教えてくれないか?」


「マジかっ!? おっさん、どんだけド田舎からやってきたんだよ!?」


 どうやらこちらの世界で勇者様はよっぽど有名な存在らしい。まあ勇者というくらいだし、とんでもなく強いんだろうな。


「勇者様は5年ほど昔に別の世界から召喚されたという話だよ。まだ若いのにこの世界のだれよりも強く、それまで均衡状態だった魔王軍との戦争をたったひとりで人族の圧倒的優位な状況に持っていったんだ!」


 マルコの説明に熱が入る。どうやらその勇者様とやらを尊敬しているようだ。まあ男なら勇者に憧れないわけにはいかないか。


 それにしても別の世界から召喚されたねえ……もしかするとその勇者は俺と同じように地球から召喚された可能性もあるな。


「そしてなにより、1年ほど前に長年誰も倒すことができなかった魔王をついに討ち滅ぼしたんだ!!」


「………………」


 なるほど……それで魔王軍の四天王はいるのに当の魔王様本人がいなかったわけだ。そしてその代わりに俺が召喚されたということね。


「勇者様のおかげで現在の魔王軍はほぼ壊滅状態よ。残りの魔族達を全員倒して、この長い戦争もようやく終わるわ!」


「そうなんだ……それは良かったよ」


 現在魔王軍は壊滅状態らしい。危ないところだった。選択肢としてはありえなかったが、もしも魔王軍の肩入れをしていたら、破滅ルートへ真っ逆さまだった。どうやらオッサンは選択肢を間違えずに済んだらしい。


「おっと、話をしていたら街まで戻ってきたようだね」


 この辺りの状況を聞いている間に街へと戻ってこれたようだ。


 やベっ! そういえば、この街の門の前でチェックが入るんだっけ!






 結論から言うと、俺もチェックを無事に通り抜けて街へと入ることができた。


 どうやら門でのチェックは犯罪歴があるかと魔族かどうかだけを確認しているらしい。水晶に手をかざしただけで通って良しと言われたが、どういう仕組みなんだかサッパリだ。ハイテクなのか、ローテクなのかよくわからない世界だな。


 もしも職業とかをチェックされるようだったら、直前で逃げ出そうと思っていたところだ。


「ジンさん、向こうの大きな建物が冒険者ギルドだよ。僕達は先にこのワイルドボアを買取所に持っていってから冒険者ギルドにむかうからね。盗賊に襲われたって相談すれば、多少は力になってくれると思うよ」


「ああ。みんなには何から何まで本当にお世話になたったよ。マルコ、ジョナン、ミリー、本当にありがとう!」


「気にすんなよ、おっさん。まあ盗賊に襲われたのは災難だったが、命が助かったことは喜ばねえとな!」


「そうよ、ジンさん! きっとこれからいいことあるから元気出して!」


 3人とも本当に良い人達だ。やはり魔族なんぞより、人族のほうが優しいに決まっている。この3人と出会えたのは本当に幸運だったようだ。


「お~い! 魔族の集落へ向かっていた遠征軍が大勝利で帰ってきたぞ!」


 マルコ達と別れようとしたその時、大きな声が響き渡った。

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