第8話 魔族の子供
「おお! 大勝利だってよ!」
「魔王がいないなら大丈夫だとは思っていたけれど、無事に勝てて本当に良かったね!」
「ええ! 見に行ってみましょうよ!」
なにやら魔王軍の集落を攻めに出ていた遠征軍が戻ってきたらしい。周りの人達も歓声を上げながら、俺達がやってきたこの街の入り口を目指している。俺も何となくそのままの流れでマルコ達についていく。
街の入り口に近付けば近付くほど、取り巻く人達が増えていった。どうやら街の中心のストリートで遠征軍を迎えるパレードが行われているらしい。
「やっぱり帝国の正規の軍隊はかっけえな!」
「今回の遠征にはBランク冒険者も結構同行しているらしいね」
「先頭のあの方が帝国軍の『炎帝のオーガス』様でしょ! 初めて見たわ!」
遠征軍は50人くらいの隊で前方の40人ほどが銀色の同じ鎧を着込んでいる騎士達だ。そして残りの10人ほどがバラバラの格好をしており、マルコ達と似たような格好をしている。おそらくはあれが同行した冒険者達なのだろう。
そして先頭を馬に乗って進む、他の騎士達とは異なり、一際強者のオーラを放つ男がいた。今まで平和に生きてきた俺がなんとなくだが、この人の強さが分かるのは魔王の力なのかもしれない。
ミリーが言う炎帝のオーガスという男は30代くらいの細身の男だ。鋭い目つきをしており、キラキラと光る金ピカのゴツイ鎧を身に付けている。整った顔立ちをしているイケメンなので、さぞかしモテるであろうな。
「先頭の人って有名な人なの?」
「ああ、この辺りだとめちゃくちゃ有名な騎士様だぜ!」
「そうよ! あの方の炎の魔法はすべてを焼き尽くすと言われているわ! それに魔法だけじゃなくて、あの方は剣技も超一流なのよ!」
「な、なるほど……」
ミリーの炎帝のオーガスさんの説明にはとても力が入っている。もしかしたら彼女は彼のファンなのかもしれない。
声援を上げる女性達に手を振っている。まさに英雄の凱旋といったところだな。
「ねえねえ! オーガス様がこっちを見てるわよ!」
「馬鹿、たまたまに決まってる。あの英雄様が俺達みたいなCランク冒険者なんて気に留めるわけがねえだろ」
「そうそう、偶然に決まっているよ。ほら、もう反対側を見ているよ」
「分かっているわよ! ちょっとくらい夢を見たっていいでしょ!」
「………………」
確かにあの男はこちら側を見ていた。……というよりも先ほど完全に俺と目が合った気がする。
いや、まさかな。魔王軍の四天王もそうだったが、俺を見た時に魔王の力を持っていることには気付かなかったし、変なオーラみたいなものを出しているわけでもないただのオッサンだ。さすがに気のせいだろう。
先頭の騎士団が通り過ぎた後には、冒険者達が通り過ぎていく。みんなそれぞれがこれぞファンタジーというような格好をしている。彼らも街の人達に声援を送られてまんざらでもない表情だ。
そしてそのあとに続いて歩いてくるのは……
「……ねえマルコ、あれは一体なんなの?」
「ああ。そういえばヤマトは魔族をみるのは初めてのことだったよね。あれが魔族だよ。どう見ても俺達人族とは違うだろ」
「……………………」
いや、俺が聞いているのはそういうことではない。魔族のやつらは魔王城でたくさん見た。
なんで
「……俺の目にはまだ幼い子供達に見えるんだけど?」
俺の目がおかしくなっていなければ、魔族の子供達は全員が小学生くらいの年齢である。一番小さい子なんかは幼稚園児くらいだ。もちろんここは異世界で、見た目は子供であっても年齢は俺以上の可能性もなくはないけど。
「ジンさんはおかしなことを言うね? たとえ子供であっても魔族は魔族だよ」
「ああ。魔族のやつらはたとえ子供であっても許しちゃおけねえよ」
「そうよ。確かに小さい子供だけれど、容赦したらだめよ。あの子達が大人になったら、私達人族を襲うのよ」
……確かに3人が言っていることもよくわかるし、正しいこともよくわかる。今は人族と魔族で戦争をしているわけだし、たとえ子供であろうとも、敵国の魔族をそのまま生かして逃がすことはできないのだろう。
「あの子供達が連れていかれたあとはどうなるの?」
「いつも通りだったら、明日に街の中央広場で公開処刑されるだろうね」
「えっ!?」
「言っておくがこれでも優しいほうだぞ。この街じゃあ魔族共は苦しませず楽にしてやる。他の街だったら、女の魔族はあれくらいの年頃のガキでも奴隷として死ぬまで変態どもの玩具にされ、男の魔族ならさんざん痛めつけられて実験の材料にされて、死ぬよりも辛い目にあうんだぜ」
「ちょっとジョナン、やめなさいって!」
「………………」
元の世界だって、大昔の戦争中の敵国捕虜の扱いはそんなものだったのかもしれない。だが、魔族とはいえ、あんなに幼い子供達の命まで奪わなければいけないのだろうか……
「でもあの子達は兵士ってわけではないんだよな。誰とも戦ってもいないし、殺したわけでもない。それなのに殺す必要が本当にあるの?」
この世界のことをまったくと言っていいほど知らない俺が、こんなことを聞くのは間違っているのだろう。
この世界にはこの世界の事情があるし、魔族によって家族や友人を殺されてしまった人々も大勢いる。それを平和な世界でぬくぬくと生きてきた俺がそんなことを言う資格はないのかもしれない。
それでも両手を金属製の鎖によって繋がれたボロボロになった子供達が明日無慈悲にも処刑されると聞いて、マルコ達に聞かずにはいられなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます