第46話 緊急事態


 勇者がジルベのいる場所にやってきただと! そんな馬鹿な!


『ジルベ、確か今はナスガラ平原にいたはずだよな? なんでそんな場所に勇者がいるんだ!?』


 ジルベの部隊はナスガラ平原という場所に遠征をしている最中だったはずだ。確かにここは人族の領地からは近いが、人族の集落も魔族の集落も近くにはない未開と言ってもいい場所だ。


 人族と交戦する可能性が低い場所だからこそ、ジルベの部隊に行ってもらった。そんな場所に勇者がやってきたとは考えられない。


『ああ、ナスガラ平原で間違いねえ! 勇者がなんでここにいるのかはこっちが聞きたいくらいだぜ!』


『本物の勇者で間違いはないんだよな』


『ああ! たったひとりで突っ込んできていやがるが、ものすげえ力を感じるぜ! くそっ、部下達が吹っ飛ばされた。今から俺も出るぜ!』


 ええい、くそ! なんでそんな場所に勇者がいるんだよ!


 そのナスガラ平原という場所に俺はまだ行ったことがないから転移魔法ですぐに移動することができない。


 ナスガラ平原から一番近い場所に転移して、そこから風魔法を使って全速力で向かうしか方法はない。そしてジルベ達と合流し、一度転移魔法を使って魔王城まで戻ってから、他のみんなを連れてもう一度転移する……くそっ、そんなの間に合うのか!?


『待て、ジルベ! 今こちらで勇者迎撃の準備をしている。俺もすぐにそちらへ向かう! 今は応戦しなくていい! 今すぐ部隊を引いてくれ!』


『余裕ぶってゆっくりとこちらに向かって歩いてきやがるな。なあに、相手もたったひとりだ。俺ひとりで何とかしてやるぜ!』


 くそっ、こんな時に何を言っているんだ、ジルベのやつは!


『いいから言うことを聞け! 今は部隊を連れて引くんだ!』


 いくらジルベが強いとはいえ、その勇者は俺の前の魔王を倒している。単純に考えれば、その魔王に勝てなかったジルベが勇者に勝つことはできない。


 地図を出してナスガラ平原の場所を確認する。一番近くに転移できる場所は……ここだ。ここに転移してからこっちのナスガラ山の方向に飛んでいけばいいはずだ!


『……わりいが、そいつは聞きねえな』


『おい、いい加減にしろ! 今すぐ引け、これは命令だ!』


 こんな時になんで意地を張っているんだよ、ジルベのやつは! 今は引いて万全な状態で勇者を相手にすればいいだけだろうが!


『あのクソ勇者に吹っ飛ばされた俺の部下はまだ生きてんだよ。見捨てる気はねえな!』


 くそっ、確かにジルベの性格上、仲間を見捨てて逃げるなんてことはできないはずだ。


『……それに俺はもう二度と大切なやつらを捨てて逃げるようなことはしねえと誓った!』


『………………』


 そうだ……ジルベは両親や村の大切な人達に守られて人族の手から逃げてきたんだ。


 そしてもう二度とそんな思いをしないため、人族に復讐をするために自らを追い込んでここまで強くなってきた。


 この状況で部下を捨てて逃げられるわけがない。


『今いる部下はできる限り逃がす。クソ勇者をぶっ殺せなくても時間くれえは稼いでやるぜ』


『くそっ、できるだけ早く行く。それまでは何としても生き延びろ! おまえの家族も、おまえの村の人達も、おまえが無茶をして死ぬことなんて誰一人望んでいないことを忘れるな!』


『ったく、相変わらず甘っちょろい野郎だな。わあってる、俺も無駄死にする気なんざこれっぽっちもねえからよ。……まあ、あれだ、あとは任せるぜ』


『……っ!?』


 プツッ


『おいっ、ジルベ!』


 念話スキルが完全に途絶えた。


 くそっ、らしくねえこと言いやがって!


「転移!」


 転移魔法を使ってナスガラ平原に一番近い場所へと転移する。


「ナスガラ山はあっちということは……あっちか!」


 風魔法を使って空を飛び、最速でナスガラ平原を目指す。


『デブラー、聞こえるか!』


『はい、魔王様。聞こえます』


『緊急事態が起きた! もう勇者が現れたんだ』


『んなっ!? まさか、いくら何でも早すぎます!』


『勇者も転移魔法を使えたのか、サンドルが裏切って偽の情報を伝えたのか、帝国がサンドル達を騙したのかは分からないが、とにかく事実だ! 今ナスガラ平原でジルベの部隊が交戦中している!』


『落ち着いて下さい、魔王様。勇者どもが奇襲をかけてきたとしても、ここで我々に少しでも情報を与える意味はありません。少なくとも人族の者が裏切ったわけではないでしょう』


 んっ……そりゃそうか。サンドルが裏切るのなら、もっとマシなやり方があるに決まっている。


 くそっ、突然の事態で俺も頭がうまく回ってないみたいだ!


『分かった、俺も少し落ち着く。今はナスガラ平原から一番近い場所に転移して、全速力でジルベのもとへ向かっている。デブラーは計画通り他のみんなを集めておいてくれ! ジルベのもとに到着したらすぐにジルベ達を回収して、一度魔王城に戻る!』


『かしこまりました!』


 くそ、ジルベ達はもう勇者と戦っているのか? 現状はどうなっている! ジルベの他にもうひとりくらい念話スキルをつなげておけばよかったか!


 とにかく急ぐしかない!




「あと少しでナスガラ平原だ! ……ってなんだあれは!」


 ようやく少し先にナスガラ平原が見えてきた。だがそこで俺が目にしたものは金色に輝く光の柱だった。


「ジルベ達はあそこか!」


 頼む、間に合ってくれよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る