第47話 勇者
「ああ~うぜえなあ。ったく、犬っころ風情が粘んじゃねえよな。てか狼だったか、まあどっちでもいいや」
「………………」
金色の光の柱は少しすると消えていった。
そしてようやく光の柱があった場所に到着して、そこで俺が見たものは黄金色の鎧を身に付けた勇者の姿と、血まみれになって地面に付しているジルベの姿だった。
その周りには大勢のジルベの部下達が倒れており、その誰もが血を流して地面に伏せていた。
「んで、てめえはなんなんだよ。この犬っころの仲間か? それにしてはいかつい鎧なんか着ちゃって、そこそこ強そうに見えるけどな」
……ギリギリだが息がある者もいる!
気配察知スキルで周囲の反応を調べると、ジルベやジルベの部下達の反応があった。だが、すでに反応のない者達がいてもおかしくはない。
「まったくついてないよなあ。さっさと魔王をぶっ殺すために、わざわざひとりでこんな場所から魔族領に入って魔王城を目指す予定だったのにな。……あれ、もしかしてあんたが魔王だったりしねえ? まあ魔王がこんな僻地に来るわけねえか」
目の前にいる勇者は二十代前半くらいの男に見える。黒い髪と黒い瞳をしていてる。もしかしたら、本当に日本から召喚されたのかもしれない。
金ピカで派手な鎧を身に付けており、他にも様々な装飾品を身に付けている。そしてその右手には巨大な大剣を軽々と片手で持っており、その大剣からはポタポタと赤い血が滴り落ちる。
「……その者を放してやってくれないか? 大切な我の部下なんだがな」
「んだよ、やっぱ男か! 実はその鎧の下は綺麗な女性とかだったら、ギャップ萌えで超良かったのにな! 魔族の女騎士だったら、くっころさせたかったぜ。わりいな、男には興味ねえんだわ」
「………………」
どうやらこの勇者は俺と同じ世界から召喚されたらしい。ギャップ萌えとかくっころとかはどう考えても元の世界の日本での話だ。
そして仮に俺が同じ世界から召喚された魔王だと言っても、この勇者と交渉できる気がまったくしない。
「ああ、この犬っころ達か。とりあえず半殺しにして今回の魔王の情報を引き出そうとしたら、どいつもこいつも喋んねえし、面倒くせえったらありゃしねえよ。てめえも今回召喚されたとかいう魔王の情報は知らねえか?」
「………………」
「んだよ、だんまりかよ。まあ、どうせ魔族は皆殺しにするんだから変わらねえか。ああ、女は別よ。魔族の女は人族と違っていろんな特徴があっていいんだよ! エルフとか元の世界じゃ信じられねえほどの美人が山ほどいるからな!
エルフを魔族って言うのは微妙だけどな。他にも獣人とか竜族とかサキュバスとかもいて最高だぜ! こんな世界に召喚してくれてマジで感謝って感じだな。まあ、てめえにそんなこと言っても関係ねえか」
ああ、駄目だ……
たった数分話しただけだが、俺はこの勇者と分かり合えないことがよく分かった。こいつは本当にただのガキだ。勇者として召喚されて突然大きな力を得て、好き勝手をしているだけのただのクソガキだ!
「さて、魔王の情報を吐かねえんなら、もうこいつらは用済みだな。てめえもとっと殺して魔王城に行くとするか」
そう言うと勇者はその大剣を振り上げた。
「待て! それならとっておきの魔王の情報を教えてやる」
ピタッ
勇者が振り上げていた大剣がその動きを止めた。
「へえ~あんたは魔王の情報を持っているのか。そうだな、その情報によってはこいつらも含めて見逃してやるよ」
嘘だな。こいつの性格だと、喋ったあとに間違いなく俺達を皆殺しにするだろう。
「
それを発すると同時に一気に右足を踏み込んで、全速力で勇者のもとに踏み込んだ。
「っ!?」
勇者の表情が初めて驚きの色に染まる。
右拳を勇者の顔面に向かって叩きこもうとする。思考加速スキルを発動させて視界が走馬灯のようにゆっくりとした動きになっていく。
そして勇者も反射速度が高いのか、同じ思考加速スキルを持っているのかはわからないが、俺の右拳をかわそうと顔を右側にそらしていく。しかし、俺もその動きに合わせて右拳を同じ方向に動かしていく。
「がはっ!」
その結果、俺の右拳は勇者の顔面をとらえ、勇者を身体ごと吹っ飛ばした。吹き飛ばされた勇者が平原のはるか後方へと飛んでいき、視界から消えていった。
「ジルベ、大丈夫か!」
「………………」
息はある、だが返事がない。
くそっ、俺は回復魔法を使えないのが痛い! 早くこの場のみんなを連れて転移魔法で魔王城に転移し、みんなを治療して全員であの勇者を倒したいところだが、ジルベの部下達は散り散りになっている。
全員を一ヶ所に集めて魔王城にまで転移する時間もない。魔王城に戻り援軍を連れてくる時間もないだろう。
ならば俺の取る道はひとつ。最速であの勇者をぶっ飛ばして、ジルベ達を治療しに魔王城へ戻るのみ!
「ったく、オッサンらしくないってのにな……」
こんなところで命を賭けるつもりなんてまったくなかった。
自分ひとりで逃げようという考えもあることにはあった。だが、オッサンはやりたいようにやると決めたのだ。
今やりたいこと、それはあのクソ勇者をぶっ飛ばし、ジルベ達を治療してさっさと戦争を終わらせるだけだ!
「オッサンだってキレる時はキレるんだぞ!」
さあ、あのクソ勇者をぶちのめしてやろうじゃねえか!
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