第45話 勇者包囲作戦
「今人族の者から念話が入った。ついに勇者が動き始めたらしい」
「ついに勇者のやつが現れましたか……」
「ああ。帝国から魔族領に近い人族の街に連絡が入ったみたいだ。いつごろ勇者が帝国を出たのかはわかないけれど、さすがに帝国から街への連絡のほうが早いから、どんなに早くてもあと数日といったところだろうか?」
この世界の地図はすでにある程度頭に入っている。帝国は人族の領地の奥にある一番大きな国で、この魔族と人族の戦争の中でも人族側陣営の中心となっている国のひとつだ。
「はい、それだけあれば十分に準備ができるでしょう」
この1週間ほどで俺達も勇者対策を何も考えていないわけではない。
「よし、これより勇者包囲作戦を発動する!」
「はっ!」
うん、作戦名がダサいとかいうなよ。その辺りは自覚している。オペレーションブレイバーとどちらにするか悩んだが、どちらにしろダサいのは変わらないな。
さて、この勇者包囲作戦についてだが、まずは念話スキルを使って、人間の領地に近い魔族の集落すべてに連絡をして勇者の位置を補足する。
具体的には各集落から監視役を大勢出してもらい、人族が勇者と一緒に現れて攻めてきたら、即時集落から避難をしつつ、族長を通じて念話スキルで俺に連絡をしてもらう。
「……よし、すべての集落の族長に連絡を入れた。すぐに勇者を監視する体制を整えて、何か異常があればすぐに連絡をしてもらう手筈だ」
「さすがでございます、魔王様!」
事前に集落の族長には連絡を入れてある。すでに監視をする場所や監視のための人員は各集落で決めているはずだ。
そして実際に人族の軍隊や勇者が魔族の集落に現れた場合には、魔王城に待機している魔王軍四天王と幹部全員を連れて、転移魔法で人族の軍隊や勇者の現れた場所に転移するという作戦だ。
……えっ? やってきたやつらを魔王軍の総力を挙げて叩き潰すって?
そうだよ。交渉で済むのならそれでいいが、戦いになるなら迷うことなく全力で倒しに行くいくからな。
以前の魔王は勇者との1対1の誘いに乗ったらしいが、俺は別に乗る必要がないからな。仮に人族の軍隊がおらずに勇者一人で攻めてきたとしても、油断せずに魔王軍全員で勇者一人を袋叩きにするつもりだ。
……えっ、さすがに卑怯? いいんだよ、こっちは魔王なんだし卑怯でも。ニチアサで5人のヒーローが現れたら、初回から全勢力を使って倒しにいっちゃうぜ。オッサンに空気読めとか言われても知らんよ。さすがにこっちも命がかかっているわけだしな。
だが、たとえ勇者であっても殺すつもりはない。ジルベやルガロ達には勇者を殺さないことに対してまた何か言われるかもしれないな。
勇者は5年前に別の世界から召喚されたと言っていた。もしかしたら同じ世界、むしろ同じ日本から召喚されていた可能性もあるかもしれない。できる限り穏便に済ませたい。
「次は念話スキルでと……」
続いて魔王城から離れている魔王軍四天王と幹部に念話スキルで連絡を取って、魔王城に召集をかける。現在は魔王城から離れた場所で魔族領での内政を整えたり、食料や鉱石などの確保を手分けしておこなわせていた。
『はっ、魔王様! 直ちに城へ戻ります!』
順番に念話スキルで連絡を取っていく。集めた魔族の仲間は勇者が現れると予想されている1週間ほどは魔王城に留まってもらう予定だ。そして勇者が現れたという情報が入り次第、全員集まってから勇者のいる場所に転移する。うん、完璧な作戦だな。
次はジルベにと……
『あいよ。今倒している魔物を倒してたらすぐに戻ってやらあ』
『ああ、頼むぞ』
ジルベの部隊には少し離れた場所で食料と素材の確保のために魔物を倒してもらっていた。急いで魔王城まで戻ってきてもらわないとな。
「これで魔王軍四天王と幹部に連絡はした。武器と防具の準備は任せてもいいか、デブラー?」
他にも対勇者のために四天王や幹部用の武器や防具などの準備もすでにできている。時間さえあれば元の世界の技術を利用した武器なんかも用意しておきたいところだったが、そこまでの時間はなかった。
まあ、いくら自分の命が大事とはいえ、元の世界の兵器をこっちの世界に持ってくるのはあまり良くないから、ある意味良かったかもしれないけれどな。
「はい、お任せください!」
準備のために部屋から出ていくデブラー。
こちらでも勇者に対する準備はかなりしてきた。戦闘はしたくないが、オッサンなりにいろいろと考えてはいたんだぜ。もちろん考えたくはないが、俺が勇者に負けた後のことだって考えてはいる。
戦う前に負けることを考えているのかと言われるかもしれないが、これは試合ではなく戦争だ。もしも戦争に負ければ、俺だけではなく多くの魔族達の命までがかかっている。集落や魔王城を捨てて撤退するプランもしっかりと考えている。
もちろん俺も命を賭ける気はこれっぽちもないから、危なそうになったら転移魔法で即撤退するつもりだ。オッサンはいざとなったらすべてを捨てて逃げるのである。
さて、念話スキルでの連絡は終わったが、他にも準備することがたくさんある。早く準備をしないと……
『おい、魔王。聞こえるか!』
他の準備をしようとしていたところ、ジルベから念話スキルで連絡が入った。
『どうした、ジルベ。何か問題が起きたのか?』
『くそったれ、勇者だ! なぜか勇者の野郎がここにやってきやがった!』
『なんだとっ!?』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます