第2話 魔王の力


「な、何という力! まさか、本物の魔王様なのか!?」


「あのジルべ殿を一撃だと! まさか、人間にそんなことができるわけがありません! 私が殺してやります! 『黒炎こくえん』」


「やめろ、ルガロ!」


 ルガロという青い肌の男が手をかざすと、そこから黒い炎が放たれた。それと同時にまた俺の周囲が遅くなっていく。さっきのステータスを見るに、これが思考加速スキルの能力なのかもしれない。


 ゆっくりとだが、黒い炎が確実に俺へと迫ってくる。これが魔法か。ステータスに障壁魔法と書いてあったし、多分俺にも魔法は使えるはずだよな。えっとルガロみたいに唱えればいいのかな。


障壁バリア!」


 おお、俺の目の前に半透明なバリアみたいな壁が出てきた。


 そしてルガロが撃ってきた黒い炎が障壁に直撃する。


「んなっ! 私の黒炎をくらって無傷だと!?」


 どうやら俺の出した障壁の方がルガロの撃った黒炎とやらに勝っていたらしく、その炎が俺に届くことはなかった。


 ……障壁は作っていたけれど、ちゃんと当たらない場所に避けていたからな。ちっともビビってなんかいなかったぞ、うん。


 そういえば四大元素魔法スキルというのもあったな。四大元素といえば火・風・水・土だったよな。ということは俺も火魔法を使えるに違いない。


「黒炎」


「ば、馬鹿な!?」


 お、ちゃんと黒い炎が出てくれたぞ。それに先程ルガロが放った黒い炎よりも大きい。


「がはあっ」


 黒い炎は完全に油断していたルガロを襲い、そのまま後ろの壁に激突した。


「おい、早くルガロ様の炎を消さねえと!」


「駄目だ消えねえ! おい、早く火を消せるやつを呼んで来い!」


 何やら黒い炎が消えないらしく、後ろが慌ただしい。この分だと俺ならあの黒い炎も消せそうだが、自分の命を狙ってきたやつをわざわざ助ける気もない。


「な、何という力!? まさに魔王様の力……しかしなぜ人間が召喚されたのだ……」


 骸骨のデブラーがそんなことを言うが、俺が聞きたいくらいだ。魔王召喚をするのなら、魔界とかがあるファンタジーの世界から呼べよな。


 それにしてもよくある異世界ものの勇者召喚だと、チート能力をもらえる代わりに、普通はレベル1から始めるものじゃないのか? 魔王召喚だといきなり最高レベルとかになるのかね。


「おい、そこの骸骨。今すぐ俺を元の世界に戻せ!」


 よくわからないが四天王とか呼ばれている2人を返り討ちにしたんだ。ここは強気にいくとしよう。


「む、無理です。帰還の儀を行うためには大量の魔力と、魔鋼結晶という特殊な鉱石が必要となります。魔力はともかく、今回の魔王召喚の儀で我が魔王軍の魔鋼結晶はほとんど使い切りました。これだけの量を新たに集めるためには10年近くの歳月が必要となります」


 いきなり骸骨が敬語になった。今更ながら俺が魔王であることを認めたのかもしれない。知ったことではないけど。


 ……ふ〜む。よくわからんが、俺が元の世界に帰るためには、その魔鋼結晶というものが大量に必要となるわけか。少なくとも代償に命などが必要でないのは唯一の救いかもしれない。


 とりあえず俺自身にかなりの力もあるみたいだし、ここから離れて魔鋼結晶というものを探しに行くべきか。


「ま、魔王様、どうか妾達を助けてはくれないでしょうか? 魔王軍は今や壊滅状態にあります。あなた様のお力を貸してはいただけないでしょうか!」


 四天王の1人でリーベラと呼ばれていた女性が前に出てくる。


「勝手に別の世界から呼び出した挙句、いきなり殺そうとしたり、実験台にしようとしたくせに随分と勝手なことを言うな? お前らに協力するくらいなら、人族につくに決まっているだろう」


 確かにこのリーベラだけは俺をかばおうとしてくれていた。だからといって、俺を殺そうとしていた他のやつらに協力する気はない。


「で、でしたら魔王様の帰還の儀に協力します。魔王軍の総力を挙げて魔鋼結晶を集めれば、10年よりもずっと早い時間で魔鋼結晶を集めることが可能となります。ですからそれまでの間、どうか妾達に力を貸していただけないでしょうか?」


「ふざけているのか? 勝手に呼び出したのだから、帰すまでが当然の義務だ。なぜ俺を殺そうとしたやつらに協力する必要がある?」


 あんまりオッサンを舐めないでもらおうか。異世界ものでよくある勇者召喚もそうだが、なんで元の世界に戻るために、命をかけてまで敵国を倒さなくちゃいけないんだよ?


 それも今回は相手が俺と同じ人間ということだし、協力する理由がない。


「魔王様、どうかお願い致します。妾にできることならなんでもします! 人族に虐げられている妾達をお救いください!」


 ……な、なんでも?


 ゴクリッ


 これだけ綺麗な女性がなんでもするだと!? 魔王軍にいるということは人間ではないということになる。この角や尻尾、口には鋭い牙があることから、おそらくは竜族ということなのだろうか。


 片膝を付いて俺の目をまっすぐに見つめてくる。そしてその大きな胸の谷間が、露出が多い服装によりさらに強調されている。……いかんな、オッサンにとってその攻撃はとても効く。うっかり受ける気もないのに彼女の願いを聞こうとしてしまいそうになるだろ。


「あんたが俺をかばおうとしてくれたことについては礼を言うが、少なくとも俺は人族だ。同じ人族と争う気はない。それよりもその帰還の儀というやつは魔鋼結晶があればいいんだな」


 ……これ以上ここにいるのも良くないな。さっき吹っ飛ばした四天王2人の目が覚めたら、さらに面倒なことになりそうだ。えっと、たぶん風魔法が使えるよな。空を飛ぶことができたりしないかな。


「……おっ、いけそうだ」


 それっぽいことを念じたら身体が宙に浮いた。これなら空を飛んでこの場を脱出できる。


「そちらでも魔鋼結晶とかいうやつを集めておけよ。もしも俺の帰還に協力するなら、ほんの少しくらいは手を貸してやる」


 もちろん嘘である。さすがに元の世界に帰るためとはいえ、同じ人間を傷つける気なんてまったくない。とはいえこうでも言っておかないと、向こうも俺の帰還の協力なんてしないだろう。ここは嘘でもそう言っておいて、せいぜい俺の帰還のために役に立ってもらうとしよう。


 オッサンとはズルい生き物なのである。まあ、最初に無理やり別の世界から俺を召喚してきた相手だからな。こちらも相手を考慮する必要なんてないだろう。


 堂々とこの部屋から出ていく。強キャラっぽいやつを2人倒したのだ。さすがに俺の目の前に出て止めようとする者はいない。


 リーベラやデブラーだけはどうにか協力してほしいと懇願してきたが、その制止を振り切って進んでいく。ちょうどいいところに窓があった。どうやら俺がいる場所は2〜3階みたいだ。


 これなら窓から外に出さえすれば、追ってきたとしても空を飛べる種族に限られる。まあこれだけの力を見せてビビらせておけば追ってこないとは思うが。


 風魔法で空を飛んで、この建物から脱出する。後ろを振り向いて俺が出てきた元の建物を見ると、アニメや漫画でしか見たことのないような巨大な城があった。


 とりあえずここを離れてから、これからどうするかをゆっくりと考えるとしよう。

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