第49話 連撃


 勇者のチートスキルを警戒しつつ、スキルの範囲外から一方的に攻撃を仕掛けるのが理想だ。


 しかし勇者にはあの聖剣があって、完全にとはいかないが魔法をほぼ無力化できる。


 本来ならば、一か所に集めた魔王軍四天王と幹部の遠距離からの一斉掃射で勇者を倒す予定だったのだが、そううまくはいかないものだ。


炎焔葬送えんえんそうそう


「んなっ!?」


 勇者の目が見開かれた。この伝説級の火魔法にはさすがの勇者も驚いているようだった。


 本来ならば、魔王軍の総攻撃で高火力の魔法は使わずに勝負を決めたかったのだが、そうもいかなくなった。この勇者は本当に危険だ。こちらが相手を殺す気でいかなければこっちがやられてしまう。


 できれば同じ人族で、おそらく同郷の者である勇者と命のやりとりまではしたくなかったが、こうなってしまっては仕方がない。この世界では人を殺したことがない俺だが、本気で覚悟をしよう。


 俺が放った高火力の巨大な火球が勇者を襲う。灼熱の火球は一瞬でも触れれば、万物を消し炭に変えるほどの火力だ。仮に防御をしたとしても、その盾や鎧は火球の超高温によって融解してしまう。


「ちっ! 神聖神域しんせいしんいき


 勇者が黄金色に光り輝いていき、その黄金色の光が広がって大きな柱となっていく。先ほど空を飛んでいた時に見たのと同じ光だ。


 そして光り輝く勇者が聖剣を振るい、火球を正面から斬りつけた。


「あっぶねえな……」


 その結果、俺の放った炎焔葬送の火球は消失した。


 どうやら万物を溶かすほどの火力であっても、あの聖剣を溶かすことはできないようだ。そして伝説級の魔法であっても、あの聖剣に斬られてしまえば、魔法である限り消失してしまうらしい。


「ちょっと見くびってたわ。まさかあんなやべえ魔法を撃てるなんて思ってもいなかったぜ」


「……そのスキルは使わないんじゃなかったのか?」


 先ほど使わないと言ったばかりだが、もうすでに手のひらを返している。


「んなこと言ってねえし。ってか戦いの最中に敵の言ったことを信じているなんて馬鹿じゃねえの?」


 ……うん、まったくと言っていいほど信じていなかったから大丈夫。それにしてもいちいちイラつくやつだ。


 しかしまいったな。炎焔葬送は俺が使える魔法の中でも最上位に位置する魔法だった。それが通用しないとなると思ったよりも面倒なことになる。


「さっきの犬っころはウロチョロと面倒で使っちまったから、今回は使いたくなかったんだけどな。まあいっか。前回の魔王とは違って今回は魔法タイプの魔王なのね、オッケー。鎧を着ていたから普通に脳筋タイプだと騙されるとこだったぜ」


 勇者の神聖神域とかいうチートスキルは半径10メートルほどの円柱となっている。あの光り輝く円柱の中に入ってしまうとデバフの効果があるのだろう。


「それにしてもやべえ魔法だったな。神聖神域や魔法耐性の高いこの鎧がなかったら俺もちょっとはダメージを受けていたかもしんねえぜ」


 どうやらあの金ピカで派手な鎧もチートな防具だったのかもしれない。


「そんじゃまあ、そろそろこっちから……」


業火灰燼ごうかかいじん! 狂焔乱流きょうえんらんりゅう!」


「ちっ! 障壁!」


 悪いがそっちのターンにはさせない! こちらとしては勇者のスキルの領域に入る前に勝負を決めなければならない!


 業火灰燼、狂焔乱流。どちらの魔法も範囲攻撃型の上位火魔法だ。先ほどの炎焔葬送のような直接的な攻撃ではなく、範囲型の魔法ならどうだ!


「ったく、あちいな……おらっ!」


 障壁魔法で火を防ぎつつ、勇者が聖剣を振るうと聖剣を振るった場所の炎が消えていく。


 くそ、範囲型の魔法も一部だけ打ち消されるのか!


黒雷電こくらいでん! 紅炎連弾こうえんれんだん!」


「なかなか速えじゃんか!」


 それならば速度はどうかと思い、比較的速度の速い魔法を放つが、それもすべて聖剣によってかき消される。


 短時間で上位魔法を何度も撃ったことにより、俺にも疲労がどんどんと溜まっていく。


 今まで魔法をこれほど連続で使用したことはなかったのだが、オッサンにとっては相当辛い。具体的に言うと数kmくらいランニングしたあとくらいの疲労感だ。……えっ、大したことないって? 馬鹿を言うな、オッサンにとってはめちゃくちゃしんどいんだぞ。


 どうやら勇者のほうも俺が攻撃するのを防いで反撃する隙を窺っている。だからこそ俺は休むことなくひたすら攻撃を続けた。





「はあ……はあ……」


 何十という魔法を放ったところで片膝をついてしまった。息苦しいし、さすがに体力の限界だ。


「やっと終わったか。さすが魔王じゃん、ちょっとだけビビったわ」


 周囲は俺の魔法によって焦げ、周囲の草原はまだ燃えているが、そこには勇者が変わらぬ姿でそこに立っている。


 さすがに勇者も疲労がゼロというわけではなさそうだが、負った怪我はすべて回復魔法で回復されてしまった。


「いや、マジですげえよ。前の魔王よりよっぽど強かったわ。まあ、俺ほどじゃねえけど」


 余裕ぶった笑みを浮かべる勇者。


 だが勇者の言う通り、俺の渾身の魔法は勇者を倒すまでには至らなかった。


「はいはい、これでゲームオーバーね! まっ、これで魔王城へ行くまでの手間が省けてラッキーだわ!」


 勇者が余裕の表情をしながらゆっくりとこちらに近付いてくる。それに合わせて勇者を包む金色の光の円柱が、勇者を中心に移動してくる。あの神聖神域とかいうチートスキルは勇者を中心に動くらしい。


 あのスキルにも制限時間や魔力を使っている可能性も考えていたのだが、そんな制限もないらしい。まさにチートスキルだ。

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