第33話 念話スキル
「うむ、必要であれば魔王軍より支援もしよう」
どうやら捕まっていた魔族についてはこの街の人達に任せても良さそうだな。魔王軍の財政状況とかはオッサンは知らないので、支援についてはデブラーに丸投げするとしよう。
「本当になんとお礼を言えば良いのでしょうか……」
「それともうひとつ、ジャイジといったな。右手を出すがよい」
「はあ……」
よく分からないと言った様子をしつつも、右手を差し出すジャイジ。差し出された右手を俺も右手で握り返して握手をする。
『どうだ、我の声が聞こえるか?』
「な、魔王様のお声が頭の中に!?」
「うむ、うまくいったようだな。これは我の持つ念話スキルの能力である。このスキルによって、たとえ離れた場所にいても瞬時に連絡を取ることが可能だ」
念話スキル。このスキルは握手をすることによって、登録することができ、登録したものといつでも、離れた場所にいたとしても頭の中で通話をすることが可能となる。
100人まで登録をすることができる。連絡手段がまともに発達していないこの異世界ではとてつもなく便利なスキルだ。情報を制するものは世界を制すとはよく言ったものだな。
「そちらから我に直接連絡を取ることも可能だ。今後人族が攻めてきたときには、すぐに我に連絡するがよい」
「おお! なんと素晴らしいお力でしょうか!」
「なっ! 魔王様、そのようなお力まで!? あとで妾にもお願いいたします!」
「うむ、あとでな」
そういえばリーベラとはまだ登録していなかった。今は念のため魔王城にいるデブラーとルトラだけしか登録していなかった。少なくとも四天王全員は登録しておいたほうがいいだろう。
「いざとなったら魔王様に連絡をすることが可能ということは、なんという安心感でしょうか! 人族が攻めてきて、わが軍が危なくなったらすぐにご連絡いたします!」
「いや、できる限り同胞の被害を出さないためにも、戦闘が始まる前にすぐに連絡するがよい」
「おお、なんとお優しいことでしょう! 承知しました、すぐにご連絡することをお約束します!」
むしろ両軍に被害が出てからではよろしくない。今回のような戦闘が始まる前に戦闘を止めるのが一番の理想だ。まあ少なくとも当分の間は人族が攻めてくることがないとは思うけど。
「さて、ジャイジよ。こちらからも貴殿らに頼みたいことがある」
「はい! 何なりとお申し付けください!」
「まずはこの街にいる人族の捕虜を全員預かりたい」
「人族の捕虜でございましょうか?」
「そうだ。残念ながら、現在魔族は人族との戦争においては劣勢である。まずは人族側に停戦を求め、その間に魔王軍をもう一度まとめあげた上で魔王軍の戦力を強化する」
「なるほど」
「人族に捕らえられている同胞達を救い出すことを優先したい。人族側と捕虜を交換する場合もあるだろう。その時のために人族の捕虜を集めておきたいのだ」
この理由についてはデブラーとリーベラと事前に相談している。今のこの状況で、初めから人族と魔族の共存を目指したり、人族を保護したいと言ったところで魔族側は賛同しない。
そのため、一度停戦を目指して、そのあとで人族と戦うために力を蓄えるとしておいたほうが良いという結論となった。
「今後人族がこの街の近くに現れた場合、殺さずに捕虜として確保しておいてもらいたい。傷をつけると捕虜としての価値がなくなるので、向こうが激しく抵抗する場合を除いて傷付けることを禁じる」
人族と魔族の捕虜を交換するためと言っておけば、むやみに人族を傷付けるようなことはしないだろう。
「さすが魔王様です! 魔族のことを第一に考えておられるのですね! 私などは人族なぞ見つけ次第、殺すか労働力として奴隷に使うくらいしか考えておりませんでしたよ」
「………………」
う~ん、そこまで魔族のこと第一で考えているわけではないので、少しだけ罪悪感があるな。まあ魔族のこともちゃんと考えているのでいいだろう。
それにしても、優しそうな顔をしている老人であるジャイジさんでさえも人族をそんなふうに扱うんだな。こればかりは戦争中だし仕方がないか。
「お任せください、魔王様! 我が隊のほうでも無駄に人族を傷付けぬよう目を光らせておきます!」
「うむ。手間をかけるが、よろしく頼むぞ、ウォルイ」
「はっ! もったいないお言葉です!」
「よし、人族の捕虜はこれですべてのようだな」
「はい、魔王様!」
ジャイジとウォルイや街の人達の指示で人族が一ヶ所に集められた。どうやらこの街には10人ほどの人族の捕虜がいたようだ。この街では人族の男女はともに労働力として扱われていた。
まともな食事を取らせてもらなかったようで、だいぶやせ細ってはいるが、魔法や薬の実験台や性的な暴行を加えられていなかったことを考えるとまだマシな扱いなのかもしれない。
念のために気配察知スキルで人族の気配がないかを確認したが、他に人族の気配はなかった。どうやらこの街の魔族の人達は正直者みたいでホッとした。
「魔王様、本当にお世話になりました!」
「うむ、協力感謝するぞ。何かあれば、些細なことでも相談するがよい」
「ははっ!」
「あの、魔王様!」
「むっ?」
人族の街から助け出された魔族とその家族と思われる者達に声を掛けられた。
一応回復魔法で回復はしたと聞いていたが、もう大丈夫なのだろうか?
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