第51話 決着


「痛えええ! て、てめえ、なんだよその力は! 俺のスキルが効いてねえのかよ!?」


 いや効いているよ。むしろ勇者のスキルの力がバフになってくれているみたいだぞ。


「くそっ、ふりほどけねえ!」


 勇者が反対の腕で俺を引き離そうとするが、大した力ではない。どうやら互いに勇者の神聖神域スキルの範囲内にいる場合には俺の力のほうが圧倒的に強いようだ。


「うおっ!?」


 馬乗りになっていた勇者を引きはがして、勇者の喉元をつかんだ。


「ぐ、苦しい……」


 悪いがオッサンにも余裕がない。勇者はまだ魔法を使えるだろうし、まだヤバいチートスキルを隠し持っているかもしれない。何もさせないうちに首を絞めていく。これなら魔法の詠唱もできないはずだ。


「がはっ……」


 力加減など分からない素人であるため、とりあえず思いっきり首を絞めた。しばらく首を絞め続けると勇者が意識を失ったように脱力する。


 だが油断はしない。少し首を絞める力を緩めるが、首から手は離さない。一応気配察知スキルの反応はあるから、まだ生きてはいるらしい。


 しばらくすると勇者のチートスキルである金色の光が消えて、身体が重くなった。


「予定とは全然違ったけれどなんとかなったか……」


 俺が予定していた状況とはまったく異なっていたが、なんとなってよかったよ。


『魔王様、聞こえますでしょうか!』


『ジン様、聞こえますか!』


『魔王殿、聞こえますか?』


 デブラーやリーベラ達、人族の街の領主から念話スキルによる連絡が絶え間なく入っていたようだ。どうやら戦闘に意識を集中していると通信はできなくなるらしい。


 だがやることは山積みだ。まずはこのまま勇者を連れて……


「転移!」




「おお、魔王様、ご無事で!」


「魔王様、心配しておりました!」


 魔王城に転移すると、広間にはすでに魔王軍四天王と幹部が集まっていた。すでに勇者との戦闘準備は万全のようだった。


「ま、魔王様! その者はまさか……」


「ああ、勇者だ。突然戦闘となったが、なんとか倒すことができた」


「「「おおおおおおお!」」」


 全員が一気に湧き上がった。この戦争の最大の敵である勇者を倒したのだから当然と言えば当然か。


「それよりもジルベとその部隊が負傷している。すぐに勇者を例の地下牢に入れて、現地へと戻りジルベ達を治療する!」


「「「はっ!」」」


 今すぐにでもジルベ達の元へいって治療をしたいところだがまずはこの勇者だ。俺が転移魔法を使って先ほどの場所に戻っている間にこの勇者が目を覚ますと面倒なことになる。


 すぐに気絶している勇者を連れて魔王城の地下に作った特別製の牢獄に勇者を入れてから、回復魔法を使用できるものを連れて先ほどの場所に転移した。




「ジルベ! 生きているか!」


「………………」


「まだ息はある。早く回復魔法を頼む! 他の者もすぐにここに連れてくる!」


「「「はっ!」」」


 俺の問いかけに返事はないが、気配察知スキルを発動するとまだジルベの気配はあった。他にもまだ生きている者がいる。


 急いで辺りに吹き飛ばされていたジルベの部隊の者達を一ヶ所に集めていく。


「「「エリアヒール!」」」


 まだ息のある者達に範囲型回復魔法を複数人で重ねてかけていく。


「……おう、魔王。てめえがここに戻ってきたってことは勇者の野郎に勝ったんだな?」


「ああ。ギリギリのところだったがな」


 よかった、どうやらギリギリで間に合ったらしい。他の者も回復魔法によって傷が少しずつ治っていく。


「他のやつらはどうした?」


「……今息があるのはここにいる者達だけだ。あとはこの平原から逃げることができた者も何人かいるだろうな」


 気配察知スキルで反応があったのは、ジルベを含めて今治療をしている7人だけだ。ジルベの部隊はもともと30人以上いたはずだから、先ほど見てしまった何人かの遺体だけでは人数が合わない。おそらくは10人以上がこの平原から脱出できたに違いない。


「やっぱり何人かは守れなかったか……俺はまた守れなかったんだな……」


「それは違う! そもそも今回の件は勇者の動きを見切ることができなかった我の責任だ。おまえは十分に責任を果たした。ジルベが勇者と戦ってくれたおかげで部下の半数以上は助かったのだからな!」


「そうっすよ、隊長のおかげて俺達は命拾いしたっす!」


「俺は倒れながら隊長の戦っているところを見てましたけれど、本当にすごかったです! 一生隊長についていきます!」


「ああ、死んでいったやつらも隊長が生きていてくれて喜んでいるに違いないですよ!」


 ジルベも部下に慕われているようだな。部下を守るために自らが前に出てあの勇者と戦ったんだ、誰もジルベを攻めるようなことをするわけがない。


「それにおまえ達が勇者と遭遇しなければ、勇者の奇襲は成功して我が討たれていたかもしれぬ。あるいはもっと大きな被害が出ていた可能性も大いにある。勇者を討てたのはお前達のおかげでもあることを十分に誇るがいい!」


「けっ……」


 実際のところ、ジルベ達がいなければ本当にどうなっていたか分からない。あのチートスキルは俺に効果がなかったが、奇襲を受けていたら俺が殺されていた可能性も十分にあった。


「それで勇者の野郎は殺したんだろうな?」

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