第29話 人族の街


「このまま人族の街に行くのですか?」


「うむ。ここに人族の指揮官と他の兵士を捕えている。こいつらとこの者達の国にいる魔族の捕虜を交換するつもりだ」


「おお、同胞達を救ってくださるのですね!」


「ああ、そのつもりだ。この者達と戦って大勢の仲間を殺されしまった貴殿らにはこの者達を殺したいと思う気持ちがあるだろう。だが、同胞達を救うために、どうか耐えてほしい」


「……そうですな。確かにこの戦いで多くの味方を殺されたことに対して思うことはありますが、同胞を救うためであれば納得できます。そしてなにより、魔王様が来てくださらなければ、この戦いは勝つことができませんでした。


 ここにいるすべての者達が殺されておりましたでしょう。魔王様はここにいる者達の恩人です。私は魔王様に従います! 文句など決して言わせませぬ!」


「魔王様、ありがとうございました!」


「見事なお力でした、魔王様!」


「魔王様、バンザーイ!」


「「「魔王様、バンザーイ! 魔王様、バンザーイ!」」」


「………………」


 突如として始まる魔王様ウェーブ……


 とりあえず、人族の人質と魔族の捕虜の交換について文句のある者はいないようで安心した。内心どう思っているかは分からないが、戦争中ということで無理やり納得している者もいるかもしれない。




「……魔王様、本当に残りは置いてきても良かったのですか?」


「ああ。3分の1ほどが妥当な数だろう。残りは人質として残しておかなければな」


 先頭を進む道案内の後に進む人族の案内に従いリーベラと一緒に道のりを進む。その後ろには100人近くの手を繋がれた人族がいる。


 リーベラと魔族陣営から10人ほどの配下を借りて、人族の捕虜と共に街を目指している。


 今回戦った人族の街にいる魔族の捕虜を受取るために、人族の3分の2にあたる人数は俺が土魔法で作った土壁の中に閉じ込めている。土壁から逃げようとした人族は殺していいと魔族陣営には伝えてある。


「こちらも全員を一度に解放してしまえば裏切られる可能性もある」


「なるほど。さすがは魔王様です」


 人族の人質を全員連れて先に解放してしまえば、裏切って捕虜の魔族を盾にしてまたこちらに反旗を翻す可能性が高い。さすがに魔王の力があっても人質を取られてしまえば全員無傷で救助することは難しいかもしれない。


 人族の兵士、人族の陣営にいた指揮官と貴族っぽい者の中から3分の1を無作為に選んで連れてきている。そしてなにより大きいのが、今回はその街の領主の息子がいた。


 指揮官のレグナードの側にいた貴族っぽい男だ。たとえ領主であってもひとりの親、間違いなく交渉を有利に進めることができるはずだ。


 先にこの人族を解放し、そのあと街にいる魔族を解放、そして離れた場所にいる残りの3分の2を解放するといった手筈だな。


「見えてきたか」


 道の先には大きな壁に囲まれた綺麗な街が見えた。どうやらこの人族の街はかなり大きいらしい。




「……それではどうぞしばらくの間お待ちください」


「ああ。何度も言うが、賢い選択をするよう期待しているぞ。我はこの街程度すぐに破壊することが可能であることを決して忘れるなよ」


「ひっ!? も、もちろんわかっております!」


 これから指揮官と貴族が街の中に入り、この街の領主に話をする。街の門の前から少し離れた場所で、俺達は人質と一緒に待つ。


 今回の戦闘の敗北と兵士全員が人質となっていることを伝えるのだから、当然指揮官には罰が与えられるだろうな。


「……連中は大人しく同胞達を解放するでしょうか?」


「あれほどの兵士が人質となっているから、さすがに従う他ないだろう。それにもしも断れば街ごと制圧するだけだ」


 この街にどれほどの魔族が捕らわれているのか分からないが、少なくともこちらが捕らえた兵士よりも少ないに違いない。それに何といっても領主の息子がいるからな。


 それに俺が誰ひとり殺さずに敵すべてを制圧したこととで、魔族と人族の停戦を求めていることを示している。


 ……しかし世の中には物わかりの悪いな領主とかもいるからな。どうかまともな領主であることを祈るとしよう。




 待つこと1時間、街の門が開いて偉そうな貴族の姿をしたやつらと、それを守るような兵士が20人ほど。そして最後にみすぼらしい服を着た魔族と思わしき者達が30人ほど出てきた。とりあえずここまでは順調のようだ。


「そなたが魔王と申すものであるな」


「ああ、我が魔王である」


 高級そうな服を着て、高価そうな装飾品を身に付けた、どう見ても偉そうな40代くらいの男が前に出てきた。どうやらこの男がこの大きな街の領主のようだ。


「この度は魔王殿の多大な配慮感謝する。そなたの要求を吞ませてもらおう」


「ふむ、賢い選択をしたようで安心したぞ」


 どうやらこちらの要求を受け入れてくれるようだ。多少偉そうなのは街の者に対してある程度の威厳を見せるためだろう。


「この街にいる魔族の者をすべて連れてきた。約束通り人質を解放してもらおう」


「よかろう。まずはその者達をこちらに連れてくるがよい」


「……いいだろう。離してやるがよい」


 領主の男が手を挙げると、魔族達を拘束している兵士達が手を放して捕虜にしていた魔族を解放する。


 解放された魔族の者達はこちら側に走り、連れてきた他の魔族の者と抱き合い涙を流していた。魔族の者は殴られた跡があったり、酷い傷がある者もいた。やはり捕虜となった魔族の扱いは酷いものであったらしい。


 ……思うところはあるが、反対に魔族側にいる人族の捕虜も酷い扱いを受けているのだろうな。


「さあ、約束は守ったぞ。今度はそちらが人質を解放するがよい」


「ああ、そうだな。それでは10を残して全員を解放するとしよう」


「んなっ!? 約束が違うではないか!」


「安心するがよい。残りの10人もすぐに解放する。本当にこの街に他の同胞がいないと確認したあとにな」

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