第27話 魔王威圧の力


 さて、大見えを切ってこの戦闘をひとりで終わらすと言ってしまった手前、引くに引けなくなってしまったオッサンがここにおります。


 いやね、確かにこのチートな魔王の力なら人族の陣営なんて圧倒できると思うわけですよ。しかも事前に聞いた話によると、どうやら例の勇者はこの近くにはいないらしいからね。それに俺がひとりでやるといえば、味方の魔族が人族を殺すこともないだろうしな。


 ちなみに勇者が来たら逃げ出す気満々なオッサンだったぜ。だってまだ戦闘経験もほぼないし無理でしょ。一応は全力で攻撃して他のみんなを逃がす努力はするけれど、それでも無理なら転移魔法で逃げるよ。


 人族と魔族の戦争を止めたいとは思うけれど、命を賭けてまでやろうとは思わん。オッサンとは保身に走る生き物なのである。


「そこで止まれ!」


 ひとりでこの戦闘を終わらすと宣言し、ゆっくりと人族の陣営に進んでいくと、人族の兵士が10人ほど俺の前に立ちふさがった。


 ただ相手を倒すだけなら単身で乗り込んで魔法をぶっ放せばいいだけだが、こちらの意思も伝えたいので対話をするためにひとりでゆっくりと歩いてきたわけだ。


「そちらの陣営の上の者にこちらは停戦を望むと伝えてほしい」


 会話が通じる以上、たとえ魔族であれ、人族であれ俺達は分かり合えるはずだ。停戦しないようなら、力尽くで黙らすよ、なんてことは言ってはいけない。


 あくまでもまずは対話を求めよう。


「ああん、残念だがこっちは停戦も降参も受け入れる気はねえってよ」


「魔族は皆殺しだぜ。残念だったな」


「綺麗な女だけは俺達の愛玩奴隷として可愛がってやるから、安心しておけよ」


「………………」


 ……あれ、おかしいな。言葉は通じているはずなのに、まったく内容が通じていない。


「……それがそちらの意思ということで本当にいいのだな? もしもそちらの独断で上の陣営に確認をとっていないようなら、あとできっと後悔することになる」


 戦場のテンションで舞い上がってしまい、独断で下っ端のやつらが動いたということも考えられる。その場合あとで上の陣営にちゃんと報告しなかったことを後悔することになるだろう。


「後悔もなにもこれが上の判断だってえの」


「魔族の割に良い鎧を持ってんんじゃねえか。あとで俺が使ってやるよ」


「おい、そいつは山分けだろ! ちったあ強そうだが、この人数相手じゃどうしようもねえだろ、さっさとぶっ殺してやるぜ」


 どこの盗賊ですかね……いや、戦争ってこういうものなのかもしれないな。


 とりあえずこいつらでは話が通じないことはよくわかった。まともに話の分かるやつが現れるまで突き進むとしよう。


 魔王威圧スキルオン!


「がっ……」


「ぐっ……」


 俺の周りを取り囲んでいた兵士達が全員倒れていく。リーベラとデブラーと戦闘訓練を行った時に知ったのだが、スキルは経験を積むことにより強弱をつけることができた。


 威圧スキルを最大限に発揮すると、ビビるどころか気絶するほどの恐怖を相手に与えることが可能となる。この兵士達も完全に下っ端のようで、一瞬で気絶してしまった。相手を傷付けることなく制圧できるので、今の俺には非常に助かるスキルだ。


 兵士達を魔王威圧スキルで制圧して前に進むと今度は先ほど以上の兵士達が現れた。


「撃てえええ!」


「ファイヤーボール!」


「ストーンバレット!」


「ウォーターランス!」


 今度出てきたやつらは弓矢や魔法などの遠距離攻撃を仕掛けてきた。このレベルの攻撃なら何発受けても問題なさそうだが、念のために防いでおくとしよう。


障壁バリア!」


 俺に向かって飛んできた弓矢や魔法が障壁によって阻まれた。結構な数の弓矢や魔法だったのだが、障壁にはヒビひとつ入っていない。やはりジルベの攻撃は相当強かったんだな。


「なんだと!?」


「馬鹿な!」


 俺の鎧にすら攻撃が届かなかったこともあって驚いているようだが、それに構わず俺は歩みを進める。


「がっ!」


「ぐふっ……」


 そして俺の威圧スキルの範囲内に入ると、一瞬で気を失った。その様子を見て、どうやら敵も本気になったらしく、大勢が一斉に襲い掛かってきた。


 しかし、遠距離からの攻撃は障壁に阻まれ、剣や槍を持って襲ってくる兵士達は俺の威圧スキルの範囲内に入ると次々に気を失っていく。


 中には多少強い者もいるらしく、気を失わずに膝をついて倒れずにいる者もいたが、その状態では俺に攻撃することもできないようだ。


「……魔王の力チート過ぎるだろ」


 思わずボソッと呟いてしまったが、本当にその通りだ。歩いていくだけで人がバタバタと倒れていき、後ろからは味方の魔族達の大きな歓声が上がっていく。


 こんなの若い高校生とかだったら調子に乗るなというほうが無理だな。オッサンはしっかりと現実をわきまえているので、力におぼれたりはしないつもりだ。むしろ魔王の力が強すぎて若干引いているくらいである。


「化け物め!」


「こんなの無理に決まっているだろ!」


「おい、もう無理だ! 逃げようぜ!」


 さすがにこの光景を見て敵が撤退を始めようとする。


 このまま逃げる者は追わなくてもよいのかもしれないが、今回は魔王の初陣ということで派手にいかせてもらおう。


「ストーンウォール!」


 人族の陣営の周りに巨大な土の壁が生成され、逃げようとする敵を取り囲んだ。

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