第11話 魔王威圧スキル
魔王
ただの漆黒の鎧であれば、冒険者や騎士団に見えなくもないのだが、不気味で禍々しいオーラが滲み出てくるこの鎧は、どう見ても良い印象を与えることはできない。
俺も草原で初めてこのスキルを使用し、水魔法で水たまりを作って自分の姿を見たときは、正直に言って悪の親玉や魔王の姿にしか見えなかったぞ……
「な、なんだこいつ!?」
「うおっ、やべえやつがいるぜ!?」
周囲にいた人が俺の身に纏っている鎧に気付いたようだ。幸いなことに頭の周りにもフルフェイス型の兜が装着されるので、オッサンの顔が他の人にバレることはない。
身体能力強化スキルで強化された脚力によりたった一歩で公開処刑を見物に来ている観衆を飛び越えて、炎帝のオーガスと騎士団に対峙する。
「おっ、おい! なんだあいつは!?」
「もしかして魔族じゃないか!?」
「マジか、やべえぞ! 魔族が攻めてきたのか!」
……まあそうだよな。この禍々しいオーラはどう見ても危険な奴にしか見えないし、この状況で処刑台の前に現れるのは、処刑を防ごうとした魔族の仲間にしか見ない。
「だ、大丈夫だ! たったのひとりだし、ここには炎帝のオーガス様がいらっしゃる!」
「そうよ! 炎帝様、早く魔族を殺して!」
飛んで火にいる夏の虫ということはこういうことを言うのだろう。後ろには大勢の民衆、前にはどう見ても強そうなイケメン騎士とその後ろには大勢の騎士団。そして俺の乱入により、別の騎士達もどんどんと集まってくる。
……そもそも夏の虫とか、その表現の仕方が古くてオッサン臭いって? ほっとけ!
「……貴様は何者だ? 魔族の者なのか?」
「………………」
炎帝のオーガスが俺に話しかける。しかし俺は答えない。
……というよりも怖くて声を発することができない。オッサンはこんな大舞台で大勢の人に注目された経験なんてないのだよ。
今声を出したら確実に裏声が出てしまうし、何なら鎧の中で足はめちゃくちゃ震えている。
「……たったひとりでこの街に攻め込んできたその度胸だけは認めよう! しかし、魔族はたとえ子供であろうとも殺さなければならない! 全員、槍を構えろ!」
炎帝のオーガスの指揮により、魔族の子供達の前にいる騎士達は子供達に槍を向け、残りの騎士達は炎帝のオーガスの前に出て俺に槍を向けた。
「
「ぐっ!?」
「うおお!?」
俺が指一本触れることなく、次々と目の前にいる騎士達が倒れていく。
魔王威圧スキル、敵を威圧して動きを鈍くさせるスキルなのだが、どうやら多少強い騎士レベルではまともに立っていることすらできなくなるようだ。
「ぐっ……貴様、いったい何をした!」
炎帝のオーガスは当然ながら魔王威圧によって倒れることはなかった。だが多少魔王威圧の効果はあるようで、動き辛そうにしている。
そして俺の前に出てきた騎士達の2割ほどは槍を支えになんとか立っているだけの状況だ。これならオッサンでもなんとかなりそうな気がしてきた。
「くそ、何やらおかしな拘束魔法を使うようだな。仕方がない……目標、黒い鎧の魔族! 総員、撃てえええ!」
いや、総員もなにも、あんた以外にまともに動けそうなやつは見当たらないのだが……
「ファイヤーランス!」
「ストーンエッジ!」
「ウインドカッター!」
「……っ!?」
突然広場の周りにある建物の上に人が現れ、様々な魔法を一斉に俺へ向けて撃ってきた。
しまった! 魔法を使える騎士団を周囲に配置していたのか!
思考加速スキルで撃たれた魔法がゆっくりと動くように見えるが、四方から放たれているため、避けられるスペースがない。ならば……
「障壁!」
障壁魔法スキルによって、俺の周囲に半透明の障壁が展開された。
ズガガガーン!
「……やったか? いや、敵の拘束魔法がまだ解けていないだと!?」
「パラライズ!」
「がはっ!」
ふう……ビビったぜ。さすがに魔王軍四天王の魔法を防いだ障壁魔法だから大丈夫だとは思っていたが、それでも見たこともない様々な魔法が迫ってくるのはさすがに怖かった。
敵の魔法が障壁にぶつかって土煙が舞い上がっているところで、相手を麻痺させる魔法を炎帝のオーガスとまだ動けそうな騎士達に放った。
「ぐうう、動けん! バカな、この鎧には状態異常耐性が付与されているはずなのに!」
どうやら魔王威圧とパラライズによって、オーガスは動くことができなくなったようだ。確かに強そうな相手ではあったが、それ以上に俺の魔王の力がチートすぎたみたいである。
「くそ! 死んでも炎帝様を守れ!」
「ぐおおお、動け、動けよ!」
俺の目の前で動けなくなっているオーガスを必死に守ろうと、魔王威圧に抗ってオーガスのほうへ進む騎士団達。どうやらこの男は部下にとても慕われているらしい。
「殺しはしない。だがこの子供達はもらっていく」
「……なに!?」
俺は倒れているオーガスや騎士達を素通りして十字架に磔にされた子供達のほうへ進んでいく。
オッサンを止められる者は、もうこの場には誰も存在しなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます