第23話 捕虜の扱い


 停戦協定を結びたいのと同時に、もうひとつ俺がやりたいことは捕虜にされている魔族の救出だ。捕虜にされていると言えばまだ聞こえはいいが、先日の人族の街の様子を見るに、奴隷かそれ以下の扱いをされていることが推測される。


「少人数で人族の街に入り込んで、そこにいる魔族をできる限り救い出すとしよう」


「それは素晴らしいお考えですね、魔王様!」


「……良い考えであることはリーベラに同意しますが、いくら魔王様の力でもそれは難しいのではありませんか?」


「確かに普通なら難しいかもしれないが、俺は人族だから簡単に街まで入ることが可能だ。一度街の中には入れれば、転移魔法で街の中に味方と共に転移することも可能となる」


「おお、魔王様は転移魔法を使うことが可能なのですね! それに魔王様ならば人族の街に正面から入ることができる!」


 そう、先日街に入ったように、この鎧を外して普通のオッサンの姿でいれば、何の問題もなく街の中に入ることができる。


 それとあとで確認してみないとわからないが、子供達を連れて転移した時と同じように、他の人を連れて転移することができる。どれくらいの人数が可能か分からないが、いきなり魔王軍の軍隊を街中に出現させることができる。


「けっ、んな面倒なことをせずに、真正面から街をぶっ潰せばいいだけだろ」


「その場合捕らわれている魔族が盾に使われたり、人質として使われる可能性が高い。人族にも魔族にもお互い大きな犠牲を生むだけだ」


 何度でもいうが、オッサンは魔族にも人族にもできる限り犠牲者を出したくない。


 もちろん綺麗ごとだと分かっているし、実際に犠牲をまったく出さずに人族と魔族の戦争を止めることができるなんて思いあがったことは考えていないが、できる限り犠牲を減らすことは考えていきたい。


「デブラー、あとで俺の転移魔法の検証の手伝いを任せる。それと戦闘が得意な者を選抜しておけ」


「はっ! お任せください!」


 基本的に魔王軍の実務についてはこれまで魔王軍を支えていたデブラーに任せるつもりだ。ぶっちゃけ俺に魔王軍の管理なんてできっこない。


 オッサンは元も世界でも大した仕事はしていなかったからな。大勢の人をまとめあげる仕事は他の者に任せるとしよう。


「さて、それともうひとつ。魔王軍が捕らえている人族の捕虜も解放することにする」


「「「………………」」」


 俺の発言に対して四天王全員が口をつぐむ。この反応を見ると、やはり魔族側にも人族の捕虜がいるようだ。


 さすがにこれにかんしては、そう簡単にはい分かりましたと言うとは思っていなかったけどな。


「人族を憎むお前達の気持ちは分かるが、同じ人族である俺にとってこれは絶対条件だ。だが、さすがに捕虜全員を即解放するわけではない。人族から救い出した分だけ少しずつ解放することとする。穏便に済むならば、捕虜の交換もするつもりだ」


 魔族が人族にひどい扱いをされているとはいえ、逆もまた然りだ。当然魔族側にも人族の捕虜はいるだろうし、その扱いも良いものではないだろう。


 本当ならば今すぐにでも人族の捕虜を解放してあげたいところだが、さすがにそこまでしてしまうと他の魔族全員の反感を買ってしまうに違いないからな。


「それならば良いと思います。もともと人族や魔族の間でも要人の捕虜の交換はしておりました。妾は賛成です」


「そうですな。同数の交換であるならば問題ございませぬ。今は敵を殺すことよりも同胞を救うことを優先したほうが良いでしょう」


 リーベラとデブラーは賛成してくれた。この件についてはまだ2人に相談していなかったから、今回はちゃんと各々で考えて賛成してくれているようだ。


「そうですね。魔王様がそのお力で同胞を救ってくださるというなら、私も了承しましょう」


「……けっ。さすがに今の俺じゃあ何にも言えねえ。好きにしやがれ」


 内心では人族のことなんて殺したいジルベやルガロだが、同じ数の魔族を救うと言われてしまえば、さすがに反対はできないというオッサンの予想通りだ。つまり人族の捕虜を一人殺せば、同胞である魔族を一人見捨てることと同義になるからな。


「まずは俺が先行して街に侵入する。そしてその村や街にいる村長や街長と可能ならば交渉、無理ならば力ずくで魔族を奪還するといった流れだ。捕虜を助け出したら転移魔法ですぐに魔族の領域まで転移することにする」


 とりあえず村や街の中で一番偉いやつに直接話をしに行く。俺は隠密系のスキルを使えないから、その際に護衛と戦闘することも多いだろうから、その際に魔王の脅威を見せつけてやるとしよう。


「街の中で情報を集める際にはもうひとりくらい人手が欲しいところだ。回復魔法を使用できて人族に変装ができる腕利きの者をひとり同行させたい」


 俺自身は回復魔法を使用できないが、俺が負った傷を回復魔法で回復できることは確認している。万が一の時のために回復魔法の使い手がほしい。それと魔族であることを隠して街に潜入できる者がひとりいたほうがいい。


「魔王様、僭越ながら妾に同行をお許しください!」


 リーベラがすぐに挙手をした。回復魔法を使えるのは知っていたが、人族への変装もできるようだ。


「……私も同行が可能です」


 ルガロも手を挙げる。魔法が得意と言っていたから、回復魔法を使用できてその特徴的な青い肌も隠す手立てがあるのだろう。


「そうだな。それでは2人に交互に頼むとしよう。だが、その前に現在戦闘をおこなっている地域を制圧するとしよう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る