第13話 3人の子供達
「おい、今すぐ俺をあの街に戻せ!」
「ちょっと、アレク!」
肌の青い魔族の少年はアレクという名前らしい。小学校高学年くらいの年齢で、濃い群青色の髪と薄い水色の肌が特徴的だ。
「……戻ってどうする? そんなにボロボロの姿で武器のひとつも持っていないおまえをあの街に戻したところで、何もできず無駄に死ぬだけだぞ」
「構わねえよ! どうせもう父さんも母さんもいねえんだ! せめてひとりでも多く人族を道連れにしてやるんだ!」
「そんなことをして無駄に死ぬことを、おまえの両親も村の人達も誰一人として望んでいない!」
「ううっ……」
完全に部外者である俺ではあるが、それだけは断言することができる。もしも亡くなってしまったアレクの両親や村の人達が今のアレクを見たら、きっと全力でアレクのことを止めるに違いない。
「せっかく拾った命を自ら無駄に捨てるのか? そして同じ村で育ったこの2人の仲間をおまえは見捨てるのか?」
「アレク……」
「アレクお兄ちゃん……」
「………………くそっ、くそおおっ!」
アレクは両の拳を固く握りしめながら、目から大粒の涙を流す。
この子も分かっているのだろう。両親や村の人達がアレクに復讐することを望んでいないことを、そして自分には何もできないという己の無力さを……
だけどここで立ち止まれるならきっと大丈夫だ。もちろん人族への憎しみが一生消えることはないだろう。だが、少なくとも今はひとりで無駄死にするよりも、一緒の村で育ってきた女の子2人と一緒に生きようとすることを選んでくれるに違いない。
「3人とも、喉も乾いているだろうし、腹も減っているだろ。まずはゆっくりとご飯を食べて休め」
魔族の集落がどこにあったのかは知らないが、少なくとも捕まっていた昨日は何も飲んだり食べたりしていないだろう。
処刑が決まっている者に食事や飲み物を与えるようなやつはいない。敵国の種族が異なる相手ではなおさらだ。
「うわあ、すごい!」
「何もないところからいっぱい出てきた!」
収納魔法からちょうど今日街で購入した皿やコップ、水やパン、果物などの食料を取り出す。いろいろ購入しておいて良かった。皿は5枚ほどあるが、コップは2つしかないのでひとつは女の子2人で使ってもらおう。
「ゆっくりと食べろよ。量はたくさんあるから焦る必要はないからぞ」
幸い食料は先ほど買ってきたばかりなのでたくさんある。肉にかんして言えば半頭分はあるからな。
「あ、あの、助けてくれて本当にありがとうございました!」
「あ、ありがとう!」
「………………」
ご飯を食べる前に女の子2人が俺に対してお礼を言ってきた。アレクは流した涙を拭っている。
「俺がやりたかったからやっただけだ。お前達が気にする必要はない」
そう、俺がやりたかったからやっただけだ。だからやったことに対する責任は取ろう。この子達の面倒は最後までしっかりと見るつもりだ。
「お、おいしいです!」
「うん、とってもおいしい!」
「……うまい」
3人とも俺が出したパンや果物や水をゆっくりと食べ始めた。やはりここ最近まともな食事を取れていなかったようで、それほど高くもない食事をおいしそうに食べている。
「よし、こっちもできたぞ。とりあえず少しずつな」
子供達が食事をしている間に、収納魔法で保存しておいた牛の肉を火魔法で焼いて塩を振った簡単な肉料理を作った。空きっ腹に油の多い肉を食べすぎるのは良くないから少しだけだ。
「久しぶりのお肉の味です!」
「うわあ、とってもおいしい!」
「……うまい」
3人は子供とは思えないくらいの量を食べていた。よっぽどお腹が空いていたのだろう。子供達が満足できるまで食べたのを見て、話を切り出す。
「さて、とりあえず簡単な自己紹介でもしておくか。俺は……ジンという通りすがりの魔族のオッサンだ。好きに呼んでくれ」
鎧を着て兜とかぶったまま子供達に自分の名を伝える。この子達のためにも、俺が人族だということを今はまだ伝えないほうがいいだろう。
「ジンさんですね。私はルトラといいます。私達を助けてくれて本当にありがとうございました」
ルトラという女の子は俺と同じ黒い色の髪と瞳をしている。ショートカットの髪の左右から2本の角が生えている。よく見ると口元からは尖った牙が見え隠れしている。
年齢はアレクと同じ小学校高学年といったところだろうか。服装については3人とも同じボロボロの貫頭衣を着させられている。この服も早くなんとかしてあげたいところだ。
「ジンおじさん。ビーネはビーネっていいます!」
ビーネという女の子は茶色い髪の色で頭の上からは可愛らしいネコの耳が生えており、後ろには尻尾がある。魔族というよりも猫の獣人といった外見だが、この世界では獣人も魔族に含まれるのだろうか?
そういえばあの街ではファンタジーものでは定番の獣人やエルフやドワーフなどの種族を見なかったな。
「ルトラにビーネにアレクだな。これからよろしく頼む。さて、今後どうするかについてだな。誰か知り合いや親族などが別の集落にいたりはしないのか?」
「いません。私達の知り合いはあの村のみんなだけです」
「うう……」
「……大人達は別の集落と物を交換していたみたいだけど、俺達子供は知らねえよ」
ふ~む、残念ながら他にあてになりそうな人はいないか。そうなると俺にとって知っている魔族はあいつらだけか……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます